写真前列左より、藤本国彦、湯川れい子、後列・THE MAYFAIR
7月2日(日)のビートルズ来日公演記念日に、六本木アビーロードにてビートルズ・トリビュート・イベント “In Memorial The Beatles live in Japan”が開催された。
当日の司会進行はビートルズ研究家の藤本国彦。スペシャルゲストとして湯川れい子を迎えてのトークでは来日時の超貴重なエピソードが披露され、締めのライヴパートはトリビュート・バンド、THE MAYFAIRが日本武道館での来日ステージを完全再現した。
藤本:57年前の今日7月2日はビートルズが来日していました。それを記念してビートルズ・ファンの聖地でもあるここ六本木アビーロードで、57年前に思いを馳せて、再現ライヴやトークなどでお贈りしたいと思います。まずは今日演奏していただくTHE MAYFAIRの皆さんに、ビートルズになぞらえての記者会見を行ないたいと思います。
来日時ビートルズが着ていたJALの法被(はっぴ)を羽織ったTHE MAYFAIRのメンバーが、それぞれ、ジョン、ポール、ジョージ、リンゴに扮しての質疑応答が行なわれた。
<オープニングの「ロック・アンド・ロール・ミュージック」を短縮版で演ったわけは?><ポールは「シーズ・ア・ウーマン」で「シマウマ」と歌ってる?><なぜ「イエスタディ」の曲紹介をジョージがやるのか?><リンゴの笑顔が少ないのは腹痛だったから?>といった無茶振り質問にも無事に応え、今日のライブへの意気込みをそれぞれが語った。
ジョン(小熊):今回の衣装(ストライプのスーツ)は生地がなかったので生地から作って仕立てました。
ポール(こうすけ):アイドルからアーティストへの過渡期でベースラインが複雑ですが、その成長を追走するのも喜びです。
ジョージ(前田teacher):この日のためにエピフォン・カジノを購入しました。希少なビグスビーのアーム付きで、あの当時の音が出ます。
リンゴ(小原):日本公演のライブを聴いて練習。レコードとは違う独特のフィル・インを発見しました。
最後にジョン役の小熊(写真左端)の着ている法被が当時の本物であることが告げられ、場内から驚きの声が上がった。
【第二部】
藤本:続きまして本日のメイン・コーナー、スペシャル・ゲスト湯川れい子さんをお招きしたいと思います。(場内大拍手)こうやってご一緒するのは初めてです、私も嬉しくて──ありがとうございます。
湯川:藤本さんからお声がけをいただいて何が嬉しかったというと、私はそれほどビートルズは詳しくないので、もし間違っても藤本さんだったら優しく訂正してくださると大船に乗った気持ちで伺いました、よろしくお願いいたします。
藤本:今日は57年前にタイムスリップしていろいろなお話をお伺いしたいと思います。まず、最初に、ビートルズが来日するという話を聞いていかがでしたか。
湯川:来日公演をプロモートした協同企画の永島達治さんとは、もう1962年からお仕事をしていたので──。
湯川が話す当時のエピソードはどれをとっても衝撃的なものばかり。ヘッドラインだけを書き出してみても、5日間の来日狂想曲のドキュメントとなる。
<1965年の段階で、永島達治はビートルズを呼ぶ──という感触があった。ブライアン・エプスタインからも協同企画にオファーがあった>
<チケットを印刷する時点で武道館の使用許諾が出ていなかった>
<記者クラブの固い仕切りの来日記者会見には、各紙の音楽関係記者の力でなんとか枠をもらい星加ルミ子と入ることができた>
<招聘元の読売新聞社から出す「ビートルズ来日特別号」の編集長を任されたにもかかわらず、取材がシャットアウトされた>
<永島達治に何度も頼み込み、遂に帰国前日の夕方『メンバーが気に入っていた警備の腕章を届ける』という口実で宿泊している部屋には行ける手はずに。しかしジャーナリストとしての質問は一切禁止>
<写真はどうしても必要なので、茶封筒の下に一眼レフカメラとストロボ4発を忍ばせ(4枚だけ撮影可能)上に警備の腕章を乗せて検問を抜ける>
<ブライアン・エプスタインには話が通っていたようで、見て見ぬふりをしてくれた>
<食事をしていた隣室から真っ先に飛び出してきたポール・マッカートニーに腕章を渡す。しばらく居ていいよと言われて30分くらい部屋に滞在>
<メンバー間ではポールが仕切っていた。記念に写真を4枚だけ撮らせて欲しいとポールに頼み、ジョン、ジョージ、ポールと撮影、最後に居心地悪そうにしていたリンゴと一緒に撮影。シャッターはポールの指名でジョージが押してくれた>
数々のエピソードの最後に湯川さんは、“今回いろいろ思い出して一番言いたいことはこれ──”と、次のように話した。
湯川:ビートルズが日本に滞在した5日間の狂想曲が終わった翌日、私は仕事で福岡に行って、そのとき真剣に考えました。武道館で女の子たちが“キャア〜〜〜〜”って立ち上がると、アルバイトの警備の人に怒鳴られていきなり肩を押されて座らされる。この人たちは何を怒ってるんだろうか? “ビートルズは帰れ!!”と声を上げていた右翼の人たちも、何を怒っているんだろう? 何に神経を尖らせているんだろう? 武道館を埋めた8000人くらいの“キャア〜〜〜〜”っていう女の子の声は小鳥の囀りのように綺麗に聞こえるんですよ、この<方向性を持たないエネルギー>はなんとも言えず綺麗なの。なんでこれに対して“座って聴け!”とヒステリカルに怒るんだろう?──、あ、ヤキモチを焼いているんだ! と気がついたんです。<方向性を持たないエネルギー>は安全なんだと、自由で何の悪意もない、心から命の喜びとして湧き上がってくるものだと、そのとき気がつきました。
<女の子がキャーキャー言った翌日は子どもが生まれる、男がギャーギャー怒った後は戦争になる>
それに気がついたことは私の人生の大きな財産になりました。それからず〜っと言い続けているのは、<私は生きている限りミーハーであり続ける>ということ──幸せな女です。それが今回いろいろ思い出して一番言いたいことです。あのときいい財産をもらったなあとつくづく思います。
藤本:そろそろ時間もなくなってきましたので、あの時の武道館ライヴの印象、感想を伺えますか?
湯川:短かかったですね。でも、目の前でやってくれているというだけで、何も言うことありませんでした。
藤本:何回ご覧になったんですか?
湯川:全部観ました。席に座っては2回。なんとか写真を撮らなければならなかったので、楽屋には入れませんでしたけど、ステージ裏で楽器を撮影したり、とにかくメンバーに会う機会を狙っていました。だからちゃんとコンサートを鑑賞するということではなかったんです。ただあそこまでのトップ・アイドルが武道館という大会場でやったことは、<観ることも聴くことも簡単ではない最先端のもの>という感覚で、初めて海の外に向かって窓が開放されたような斬新さがありました。
藤本:最後の質問になるのですが、未だに根強いビートルズの人気、湯川さんが思われるビートルズの最も魅力的なところはどこでしょうか?
湯川:やっぱりオリジナリティとハーモニーと顔と声だと思います。最初に「エリナー・リグビー」を聴いたときのショックは忘れられません。<この寂しい人たちはどこから来たの──教会で蒔かれたお米を拾う老女、夜中に靴下を繕うマッケンジー神父──>というものが題材になってヒット曲が書けるということがショックでした。しかも自分たちであれだけのメロディを書いて、凄くシンプルな歌を作る。リバプールという小さな町であの4人が出会ったということそのものが20世紀の奇跡だと思うし、未だにそれを超えるものがない。
藤本:ありがとうございました。
ライヴパート / THE MAYFAIR 1966年日本武道館ビートルズ公演完全再現
【セットリスト】
1. ロック・アンド・ロール・ミュージック
2. シーズ・ア・ウーマン
3. 恋をするなら
4. ディ・トリッパー
5. ベイビーズ・イン・ブラック
6. アイ・フィール・ファイン
7. イエスタディ
8. アイ・ウォナ・ビー・ユア・マン
9. ひとりぼっちのあいつ
10. ペイパーバック・ライター
11. アイム・ダウン
商品情報
ディスカバー・ビートルズ THE BOOK
NHK-FM『ディスカバー・ビートルズ』制作班:編
ナビゲーター:杉 真理 & 和田 唱
監修:藤本国彦
A5判/328頁/税込2,970円/発売中
ISBN:978-4-401-65358-4
発行:シンコーミュージック・エンタテイメント