60年代のブルースロックやサイケデリックロック、それらがリバイバルした00年代といった点から受けた初期衝動と、固定概念を打ち破り続けその魅力を拡張してきたロックの歴史という線に対するリスペクト。GLIM SPANKYはデビュー期からぶれることのないアティチュードをもって進化を続け、どこか懐かしい、それでいて新しい作品を生み出しライブを展開してきた。
そして20年代に入ってからは、モダンなソウル/R&Bや、現行のポップミュージックのプロダクションといった一見非ロック的なスタイルにも積極的に目を向け、持ち前の音楽性をさらに更新する。2020年10月にはロックの真ん中に立っているからこそ、自らの停滞を許さない気概を感じるアルバム『Walking On Fire』をリリース。そして今年リリースした通算6枚目のアルバム『Into The Time Hole』とシングル「不幸アレ」は、『Walking On Fire』によって獲得したより幅広い音楽性のうえで、さらなる進化の追求と原点回帰を自由に楽しむ松尾レミ(Vo/Gt)と亀本寛貴(Gt)の姿が見えるような作品に仕上がっている。そんなアルバム『Into The Time Hole』を引っ提げての『Into The Time Hole Tour 2022』のファイナルは、同作の魅力とともにGLIM SPANKYの歩んできた軌跡をじっくり堪能させてくれた約2時間半だった。
1曲目は「シグナルはいらない」。亀本の分厚いギターリフが鳴り響くと場内に大きな歓声が沸き、松尾のハスキーな声が腰の据わった低音から高さを増すにつれ鋭さを帯びていく流れとともにフロアの熱はぐんぐん上昇する。そして跳ねたビートに乗って松尾が広いステージを駆け巡りファンの声援に応えた「ドレスを切り裂いて」から、GLIM SPANKYを代表するアッパーなアンセム「褒めろよ」へと、ハイテンションなスタートダッシュを切った。
続くミステリアスな鍵盤のフレーズと軽快なビートのマッチングが心地良い「HEY MY GIRL FRIEND!!」から陽のサイケデリックナンバー「It’s A Sunny Day」ではハッピーで開放的な景色が広がる。その上で鳴り響いた珠玉の田園フォークバラード「美しい棘」では、うっとりしている観客もいれば、そのメロディに感情を爆発させ拳を上げる観客も。そこからうってかわってスリリングでヘビーなダークサイドからのブルースロック「Breaking Down Blues」では凄まじい一体感が生まれる。そして、「こんな時代に背中を押してくれるのはロックンロールだと思いませんか!」と松尾が叫んで演奏されたシンプルなロックンロール「時代のヒーロー」、松尾の赴き深いビンテージのアコースティックギターの音色に始まりサイケの深みへと誘うように鍵盤やギターの色が重なっていく「Looking For The Magic」、まさにベルベットなソファーが並ぶ昭和のキャバレーから宇宙へとトリップするような「Velvet Theater」、90年代のR&Bからのインスパイアを感じる「レイトショーへと」と、西暦も和暦もさまざまなジャンルもハイブリッドされた、ロックの自由を謳歌するめくるめく“GLIM”な世界と“SPANKY”な世界。そしてそのパフォーマンスに応える観客が織りなす景色こそ、GLIM SPANKYなのだと強く感じた。
続いては「怒りをくれよ」、「ワイルドサイドを行け」、「愚か者たち」、「不幸アレ」と、映画やドラマでもお馴染みの曲を含むアンセムを連発する。さらに畳みかけるようにサッカーW杯の余韻に浸る観客も多かったであろうこのタイミングで、ブラインドサッカー代表公式ソング「NEXT ONE」を披露。熱狂のスタジアムが想起されるビッグなビートに合わせ自然に巻き起こった観客たちの割れんばかりの手拍子によって曲の魅力が増大する。そして、夢見心地なライフスタイルソング「Sugar/Plum/Fairy」でほっこりした空気を醸し出したあとは、松尾がコロナ禍もあって失われたライブハウスなどへの想いと、だからこそそれらのレガシーを受け継いで未来へとカルチャーを繋いでいくのだという決意を語り「形ないもの」へ。さまざまなテイストをコラージュしたような、これまでになかったメロディの展開とともにメロディアスサイドのGLIM SPANKYらしい魅力を塗り替えた、チャレンジングかつエバーグリーンな、MCを体現する本編ラストに相応しい曲だった。
アンコールは4曲。まずは石川さゆりから代々受け継がれてきた国民的CMソング「ウイスキーが、お好きでしょ」で、贅沢且つアットホームな空気を演出する。そして、二人の地元、長野県を舞台にした映画『実りゆく』の主題歌としても知られているカントリーソング「By Myself Again」、松尾が「ライブをしてもお客さんがほとんどいなかった日々を思い出す。PAさんや照明さんが気を使ってフロアに出てきてくれたこともあった」と話した、ライブでは欠かさず演奏している夢を持つことを肯定する曲「大人になったら」、2013年のデビューEPに収録されている「Gypsy」を披露。亀本が「ライブに来てくれたらみなさんがそれぞれに好きな時代のGLIM SPANKYがいる」と言っていたが、最後は二人のルーツを感じさせる曲を演奏して締めた。
今回は、いつにも増して「楽しい」と思わず言葉が漏れる二人の姿が印象的だった。それは、コロナ禍で思うようにライブができなかったことで溜まったうっぷんを解放できたことも一つの要因だと思うが、インプットとアウトプットの幅を広げながらロックをロールさせることに手応えを感じている、脂の乗り具合の表れでもあるだろう。記念撮影を終えたあともステージへの名残惜しさを表す二人。「来年もたくさん曲を作って出す予定です」と亀本は言っていた。私たちの楽しみはまた次のフェーズへ。来年もGLIM SPANYの音が鳴る場で会いましょう。(Text:TAISHI IWAMI / Photo:上飯坂一)
2022.12.21『Into The Time Hole Tour 2022』(東京・昭和女子大学 人見記念講堂)セットリスト
01. シグナルはいらない
02. ドレスを切り裂いて
03. 褒めろよ
04. HEY MY GIRL FRIEND!!
05. It’s A Sunny Day
06. 美しい棘
07. Breaking Down Blues
08. 時代のヒーロー
09. Looking For The Magic
10. Velvet Theater
11. レイトショーへと
12. 怒りをくれよ
13. ワイルドサイドを行け
14. 愚か者たち
15. 不幸アレ
16. NEXT ONE
17. Sugar/Plum/Fairy
18. 形ないもの
<encore>
01. ウイスキーが、お好きでしょ
02. By Myself Again
03. 大人になったら
04. Gypsy