▲写真左より勝山かほる、櫻井敬子、編集担当・荒野
『a-ha THE BOOK』(シンコーミュージック・エンタテイメント 刊)の出版を記念して開催されたスペシャル・トーク・イベントが、11月3日(木)銀座ラウンジゼロにて開催された。
第一部のゲストは『a-ha THE BOOK』の企画・編集をした櫻井敬子と、映画『a-ha THE MOVIE』の字幕監修を担当した勝山かほる。司会進行は本書の編集担当・荒野。
荒野:この本の監修、編集を僕と一緒にやっていただいた櫻井さんは、「a-ha THE MOVIE」の日本公開が決まった段階ですぐにご連絡をいただいて、<こういった本がないので作りませんか>という話を最初にくださった方です。実際、この本の執筆、監修およびデザインも手がけてくださいました。そして本を作るときにお力添えをいただいたのが勝山さん。『a-ha THE MOVIE』の字幕監修もされています。今年はa-haファンにとって嬉しい年で、映画の日本公開が実現しました。改めて『a-ha THE MOVIE』を振り返って見たいと思います。勝山さん、<ここは見逃して欲しくない>という見所を。
勝山:メンバーの子どもの頃から割と最近までの流れを追っているところ、その途中でレアな映像や写真、音源が出てたところですね。もう一つは映画を撮り始めて、再結成してから2年ほど密着した撮影をした中で、なかなかファンが見られないツアー映像やリハーサルの様子や、長くファンをやってる人も見たことがない古いレコーディングの様子は見所だと思います。86年くらいの『スカウンドレル・デイズ』のレコーディングの様子とかメンバーを含め映画を観た方はモヤモヤするところがあったみたいですけど、特にマグネ(マグネ・フルホルメン)辺りが(笑)。でもああいうシーンはa-haでは出てこなかったし、あの時期こうやって録音をしていたのか…という貴重な映像がものすごく面白かったし嬉しかったです。
荒野:櫻井さんどうでしょう。
櫻井:3枚目のアルバム『ステイ・オン・ディーズ・ロード』以降のメンバー間の葛藤とかに焦点を当てて、それが現在までずっと続いている──彼らはファースト・アルバム以前から自分たちの音楽をクリエイトすることに厳しい集団だったんだなと、2022年の今でなければ表に出なかった事実だと思うんです。a-haは「テイク・オン・ミー」が流行ったとか、そのルックスの良さで売れたとか、そういうバイアスにずっと晒されてきたアーティストなので、それ以外の音楽的な側面をクローズアップした映画だと思います。この『a-ha THE BOOK』の大きなポイントは、彼らのルックスだけではない音楽性にスポットを当てるということで、『a-ha THE MOVIE』がそれにリンクする形で良い流れができました。
『a-ha THE BOOK』への流れ
荒野:この本のように作品ごとにしっかり突っ込んだ本は今までなかったので、その点はやりきれたと思います。
櫻井:ポール(ポール・ワークター=サヴォイ)以外のメンバー、マグネやモートン(モートン・ハルケット)のソロ活動はノルウェー国内がメインのため、なかなかクローズアップされる機会がなかったんですね。特にマグネは3番人気ですから。
勝山:それは日本だけなの!
荒野:ひどい、あんまり順番とか言わないほうが。(場内爆笑)
櫻井:マグネのファンの皆さんごめんなさい! ですから荒野さんがマグネの活動に焦点を当てて、ソロ活動の原稿を書いてくださったのは日本の洋楽史を揺るがす出来事だったと思います。
勝山:ホント、ほんと。パチパチパチ。(場内拍手)
荒野:懐メロ的にa-haを解釈されている方には伝わっていないところですが、長い間現役で活動しているミュージシャンなので、若手との交流もすごく盛んで、若手からもらった影響も自分たちの作品にフィードバックしている。今回の新作『トゥルー・ノース』もそうですけど、a-haを聴いてきたずっと若いミュージシャンを迎えてレコーディングをしてたり、そういう広がりがあるところの面白さももっと伝えていきたいですよね。
櫻井:ノルウェーのアーティストで、あれほどの世界的な知名度を持っているバンドは唯一無二じゃないですか。彼らを原体験としているミューシャンやクリエイターが、本当にa-haをリスペクトしている事実を今後も強調していきたい。今回新作が世に出た、これを機に新しいファンが増え、大きな流れができればいいなと思います。
勝山:私はポールが非常に好きだからポール中心に見て、モートンやマグネのことをそんなに深掘りできていないところがあって。
荒野:皆さん担当分けできたところはあります。
勝山:私も色々頑張って書きましたけど、この本ができて何が一番うれしかったというと、荒野さんがマグネのことを深掘りしてくださったこと。(場内拍手)
荒野:ありがとうございます。
勝山:私も海外のファンとやりとりをしたり、海外の本を買ったり記事を読んだりしていますけど、ここまで研究目線で内容的に深く広がっているa-haの本って海外でもないんじゃないかなと思います。この本が出せたというのは日本の誇りです。(場内拍手)
荒野:実はこの本ができるきっかけとして一つ重要なのが、昔に発売された『a-ha the pix』という写真集。この本が櫻井さんの心の中にあったということで、その写真を撮影された西村寛さんが今日会場にいらしてます(場内拍手)、本当に素晴らしい写真を再度使用させていただいて、ありがとうございました。
櫻井:これまで未使用だった写真もあり、例えばアーカイヴのモートンのパーソナル・インタビュー(『a-ha THE BOOK』p.130)で思いっきり使わせていただきました。アイドルじゃない、リアルなa-haに触れた写真だと思います。
荒野:内面まで伝わってくるカットがたくさん入っていて、眺めていて飽きない写真集です。そして、映画についてなんですが、今回盛り上がりが凄かったですね、来日公演中止の後ということもあって。お二人は実際映画館に行かれてどうでした。
櫻井:映画館でファンの方と直接お話ししたわけではないのですが、SNSで感想などを書いてらっしゃる、その熱量は凄いと思いました。<本当のa-haがやっと分かった>と真実のa-haを知っていく過程や、興味を持って初めてa-haを観た方が<どれも良い楽曲で、そして音楽制作に対して厳しく、楽曲にこんな背景があったんだ──>というのを皆さんが挙げていらっしゃったのが凄く印象的でした。
勝山:私は関西に住んでいて、大阪の映画館には何度も足を運び、結局映画館では10回、試写会で3回、その前に字幕監修で何十回も観てるので、ほとんど脳内に入ってます。それでも映画館の大きいスクリーン、大きい音で観るのは感慨深かったし、実際、監督が映画を作ろうと思った時点ではa-haは解散していて、また今度やるからそのタイミングで撮ろう──となって映画を作ったということなんですね。私は80年代からファンで、2010年にa-haが解散したときには、これが最後と頑張ってロンドンとかオスロまで海外遠征しました。そういった流れを知っている人と、「テイク・オン・ミー」しか知らないけど何か映画をやってるから見てみようかな…という人がいて。私もSNSで映画を観た人をチェックしてたんですけど、「テイク・オン・ミー」しか知らない人は世間に凄くたくさんいて、a-haのファンじゃなくても曲を知ってる。それがメンバーにとっては辛い面があると思うんですけど…、あの曲があるからこそa-haを知るきかっけになったり、興味を持ってくれる人もいるということで、今回映像を見て、軽いアイドル風かと思ったら全然違う! って衝撃を受けた方は多いと思います。
荒野:だいぶ重いです。
勝山:映画の終盤には、マグネが、“三人でレコーディングは無理”って言ってたり、“お前たちと一緒にいるおかげで心臓が悪くなる”とか。この映画が海外で上映されたのは2021年で、新作『トゥルー・ノース』なんてカケラもない頃。その時点で観ていると、もう先はないんだ…と辛かったと思うんですけど、日本では今年上映になったのが凄くよかったなと思います。新譜を作っているのを知っていて、それを楽しみに観ることができたので、“あんなこと言ってるけどやってるじゃん!!”ってポジティヴな気持ちで。a-haも今年結成40年なので、長くやっていると人間関係にも色々あるし、特に、クリエイティヴな仕事を一緒にする同士だと、魂のぶつけ合いをする間柄なので、相手のことが本気で嫌になったり、愛おしくてたまらなくなったり色んな瞬間の積み重ねがあるんだと思うんですよ。バンドってそういうものなんだ…というのを今までa-haのファンでいてもそこまで知らなかった、想像できなかったことを観られたというのが、『a-ha THE MOVIE』があって、『トゥルー・ノース』があって、凄くよかったなぁって思います。
新作『トゥルー・ノース』について
櫻井:これは私の持論ですけど、『a-ha THE MOVIE』がメンバーにとってカタルシス(過去の苦痛からの解放)というか、三人で再びやるモチヴェイションを持つきっかけになったんじゃないかなと思います。私は20年以上音楽業界の仕事をしていて、なぜかa-haにインタビューした機会はないのですが、いつか彼らにインタビューできたら、a-haの三人にそれぞれお互いに対する想いを聞いてみたいですね。
荒野:『トゥルー・ノース』と言う素晴らしい内容の新作ができたことは本当にファンとしては嬉しいですし、現役のバンドとしての存在感を示したアルバムだと思うんですけど、まず最初に日本で公開された映画『トゥルー・ノース』について、セリフもなくどんどん進んでいくドキュメンタリーなので、イメージ映像もあり若干内容が掴みにくい所があったかとも思うんですけど、勝山さんはあの映画についてどう思われますか。
勝山:監督のスティアン・アンダーセンはa-haがすごく好きなんですね。映像作家でもフォトグラファーでもある彼は、『フット・オブ・ザ・マウンテン』の頃の三人が銀色の服を着ているプロモーション写真や『エンディング・オン・ア・ハイ・ノート』(解散ツアー)で撮った写真とか、皆さんご存知だと思いますが、スティアンの写真は三人が本当にカッコよく撮れてるんです。写真や映像は撮る人の意識が出ると思うんです。それで『トゥルー・ノース』はやはりカッコいいa-haが撮れてるなと思います。イメージ映像の部分については、彼は他のアーティストと仕事をした場合もイメージ映像みたいなのが多くて、画面が暗いのも特徴ですね。
荒野:最後に船が燃えちゃう。
勝山:あれはノルウェーの伝統的なものを絡めたかったらしい──というのは伝わるんですけど、具体的なことが描かれてないので疑問が湧いて。映画の中ではマグネも“ノルウェーは石油の産出国だから、それのお陰で自分たちが裕福な暮らしができている”と言ってますけど、<火>は北欧神話でもよく現れていたりするので、多重的な意味での象徴になっているのかなとも思います。具体的なストーリーがないので、観る方によって色んな受け取り方ができるかと。
荒野:では最後にアルバムの聴きどころについてお願いします。
勝山:『トゥルー・ノース』は半分ポール、半分マグネの曲。ポールの曲は、デビュー当時からのファンにとっては、ドラマティックで盛り上がる曲が多い印象なんですけど、2000年代に入ってからは淡々とした曲が増えていて、聴けば聴くほど上手いなぁと唸る曲作りです。今回も「バンブルビー」「オー・マイ・ワード」とかちょっとジャズっぽいテイストが入ってたり、音楽活動をしている彼の息子がアルバムのエンジニアの手伝いで入っているので、若い世代のエッセンスも取り入れてます。皆さんには今までのa-haのイメージがあると思うんですが、そういったものに一番とらわれていないのがポールかなと思います。逆にマグネのほうがドラマティックな曲が多くて、モートンの声の美しさを活かし切っています。ポールの曲にはモートンの声だけでなく音楽そのものを全体的に出していこうというのを感じました。
櫻井:a-ha40年の集大成、それでいて現在形だと思います。タイトル曲「トゥルー・ノース」とか、ポップな「メイク・ミー・アンダースタンド」は割と初期の頃の曲のテイストを連想させるんですが、ベースで参加しているエーヴェン・オルメスタはノルウェーの現代ジャズを代表するバンド、ジャガ・ジャジストのメンバーですし、新旧の要素をうまく吸収して結果的にa-haの音楽にすると言う姿を見せているんです。新作を聴いて、彼らはずっと現役であることに拘り続けてきたバンドなんだな──と改めて実感させていただきました。
荒野:ありがとうございました。
休憩を挟み、ゲストにa-haの日本デビュー当時からレコード会社の担当をした佐藤 淳(元ワーナー・パイオニア洋楽部)を迎えた第二部が開催された。
『a-ha THE MOVIE』Blu-ray, DVDは、12月2日クロックワークスより発売される。
商品情報
a-ha THE BOOK
監修:櫻井敬子
B5判/208頁/定価:3,300円(税込)/発売中
ISBN:978-4-401-65204-4
発行:シンコーミュージック・エンタテイメント