大阪が誇る伝統芸能・能楽と、現代の音楽が融合する特別な一夜「大阪文化芸術創出事業 秋の謡会」が、11月5(土)・6日(日)の2日間にわたって、大阪・大槻能楽堂にて開催された。同イベントは大阪の多彩で豊かな文化芸術活動の活性化を図るためのもので、今回は人間国宝の能楽師・大槻文藏、大槻裕一らが演じる能楽の舞台に続き、山内総一郎(フジファブリック)、竹原ピストルがアコースティックスタイルでのライブに出演。「うた」を共通のテーマに、異分野がコラボした極上の時間。その2日目の模様をレポート。
会場となる大槻能楽堂は登録有形文化財に指定された、90年近い歴史を持つ由緒ある舞台。そして能楽は世界最古の舞台芸術と謳われ、ユネスコ無形文化遺産にも宣言される日本古来の伝統芸能でもある。開演時、FM802のDJ・大抜卓人は初心者でも楽しめるようにと、能楽の面白さ、演目「安達原」のストーリーなどについてレクチャー。堅苦しいと思われがちな伝統芸能の「うた」が日本の音楽の始まり、現代音楽に通じるものがあると紹介。
その後に披露された大槻裕一らによる「安達原」は、物語はもちろん、演者の所作、節をつけて声に出す言葉や台詞、笛や鼓の囃子、そして恐ろしくも物悲しい般若の能面。すべてが緊張感もありながら、どこか人間臭く、馴染みやすい。そしてあらすじを知っているからか、くすりと笑える場面まである。大槻文藏によるトークで「能は室町時代のミュージカル」と語っていたが、古い言葉で構成されていても人の心に訴えかける芸術は現代と何も変わらないのだと知ることができた。
続いては現代音楽の「うた」で、まずは山内総一郎のライブから。舞台に映えるライトブルーのセットアップで登場すると、“魂がこもったライブができれば”と、「Feverman」からポップな祭囃子で盛り上げていく。アレンジを担当した竹原ピストルの楽曲のカバー、今年発表したソロ・アルバムからバンドメンバーへの想いを謳った「白」など、シンガーとして多面的な表情を見せていく。“奥深く凄みがある。すぐマネできるものじゃない”と、初めての能楽体験に感動のコメントも。最後は「東京」で舞台の際まで攻め込むパフォーマンスで会場を大いに沸かしていった。
竹原ピストルはまずは「おーい! おーい‼」で山内が披露したカバー曲をオリジナルでお返し。よく響く低音域、感情を吐き出す歌唱、切々と語り掛ける独白のような言葉は能楽の「うた」に通じるものを感じる。敬愛する吉田拓郎のカバー「落陽」ではオレンジに染まる舞台の上で思いを熱唱。「よー、そこの若いの」では力強いギターで観客を惹きつけるも、初の能楽鑑賞については“演者から滲み出る迫力に畏怖を感じる。巨大な何かに飲み込まれたよう”と興奮気味に語る様子も。その興奮を最高潮にもっていくように最後は「Amazing Grace」で真っ直ぐに心揺さぶる歌で、精一杯の愛と祈りを届け、舞台を後にした。
なお今回のイベントの模様は後日、FM802 YouTubeチャンネルでダイジェスト映像が期間限定で公開される予定。気になる人はぜひチェックを。(Text:黒田奈保子 / Photo:渡邉一生)