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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】石橋凌('99年9月号)- マイノリティでいいんだと思ってる

マイノリティでいいんだと思ってる

1999.09.14

 昨年の1月14日の新宿ロフトで8年ぶりに活動を再開したARB。復活第1弾のアルバム「REAL LIFE」は過去最高のセールスを記録し、その後の全国ツアーも大成功と、まさに快進撃を続けている。80年代を象徴するバンドのカリスマであった石橋凌は、松田優作の意志を引き継ぐために一旦ARBを封印し、役者の道に専念したが、一つの区切りをつけ再びロック・ミュージックの世界に戻ってきた。そこで石橋凌を待っていたのは、かつてのARBファンである三十代、四十代から、新しい十代のファンに至る人達からの熱狂的な歓迎だった。ARBというバンドをライフワークとして捉える石橋凌は、80年代よりさらに混沌さを増したこの時代に、一体どのような地平に向かおうとしているのだろうか? かつてジョンレノンは「GLOW OLD WITH ME」という曲を残したが、世代を越えた大きな支持を受けるARBは「GLOW OLD WITH US」ということのできる数少ないロックバンドの一つといえるのではないだろうか。(INTERVIEW:加藤梅造)

マイノリティでいいんだと思ってる

──昨年の1月14日に活動再開して以降のARBは、端から見ていると予想以上に成功していると言えますが、凌さん本人はこの1年半をどのように見てますか?

石橋:今から3年ぐらい前になるのかな、キースと再会して『またやろうか』って話から始まったんだけど、その時まずキースと話したのは、昔の同窓会とか懐かしさでやるのは止めようと。ライフワークという言葉を使ってるんだけど、ずっとやれるところまでやっていかないと。そのためには、パワーアップしなきゃいけないし、今の時代に見合うようないろんな意味での力をつけなきゃいけないということで準備を始めて、それは自分自身のリハビリも含めてだけど。それで『REAL LIFE』というアルバムを作って、全国をプロモーションに回った時に、各地のテレビ局、ラジオ局、雑誌の人達が、非常にバックアップしてくれたのね。それで話を聞くと昔ARBのファンだったらしくて。その人達は今三十代前半以降の年代なんですけど、プロデューサーとかディレクターの位置にいるんですね。それでその人達が非常にバックアップしてくれるわけですよ。あと、全国ツアーに回ったときも、自分は全然期待してなかったのに、十代二十代の人達が本当に多くて、ステージ降りた時に『なんで?』聞いたぐらい、多かったんですよ。そういう意味では、準備を始めてからの3年間、思った以上の追い風を感じますね。

──ARBが80年代に与えた影響が予想以上に大きかったってことですよね

石橋:ただね、また改めて思ったんだけど、この3年間追い風で非常に気持ちよくレコーディングもライブもやってきたんだけど、やっぱり(自分たちは)マイノリティなんだということはぬぐいきれないよね(笑)。でもそれが嫌味じゃなくて、それでいいんだと本当に思えてるんだよ。

──それは、ドラマでテレビに出ることとかと比べるとですか

石橋:あとは、今の音楽業界は何百万枚という業界じゃない。はっきり言ってびっくりしたのね。僕は7年間、洋楽・邦楽全く聴かなかったから、音楽再開して浦島太郎状態だったんだけど、そこで感じたのは、ここまで音楽が広がったんだなということと、もう一方で、セールス的にも今までで一番よかったにもかかわらず、ARBは今の業界の中ではマイノリティだなと。でも、昔はそれに対していちいちイライラしていた時期もあったんだけど、今はないよね。

三十代、四十代の俺達と同じ世代に向けるしかない

──僕は、今でもARBは反逆児、アウトサイダーだと思っていますけど、反逆児っていうのはマイノリティでいいと思うんですよ。メジャーになったとたん、その反逆児のやることはなくなると思うからですが。

石橋:『TOKYO OUTSIDER』を出したときにね、ARBそのまんまじゃんっていう人と、変わったねっていう人がいたんですけど、まんまじゃんっていう人達がどっかで同情も込めて『凌さん、なんでいまだにアウトサイダーなんですか?』って言うわけね。何でインサイダーじゃダメなんだと。ただ、僕の中では、アンチだとか反逆だとかアウトサイダーという言葉が、昔歌ってた時とちょっと意味が違ってきている。『TOKYO OUTSIDER』の時に、エンジニアの山口さんが『凌、これ誰に向けて詞を書いた?』って聞くから、『これは三十代、もしくは四十代、俺達と同じ世代に向けて歌ったんだ』と答えた。そしたら『十代とかの今のロックファンとかを意識しなくてよかった の?』って言うから、『実は、俺の中では三十代、四十代に向けるしかない。集約するとそこしか頼みがない』って言ったの。僕らはいわゆる団塊の世代よりちょっと下の世代なんだよね。その団塊の世代はかつて体制と戦って今は三々五々になっちゃったんだけど、その世代と、今の十代、二十代のコンピュータ世代の間にいる自分らの世代が、唯一、何かを変えられるような気がするのね。

──つまり、今の社会を悪くしたと言われる団塊の世代と、その社会に生まれた今の若い世代の間の世代ががんばらなきゃいけないってことですか

石橋:つまり、両方もってる世代だと思うんですよね。人間的にすごく熱い思いを持っていた世代と、今のコンピュータ世代、つまり人と関係を持たなくてもいい世代、それを両方知っているのが今の三十代、四十代だと思うのね。ただ、残念ながらそういう思いがあっても、会社のどこかのポジションに落ち着いたりとか、家庭に落ち着いたりしてしまってると思う。でも、そこの意識を何とかつついて前向きになっていかない限りは、この先もっと悲惨になっていくと思うよね。

──眠っている世代を叩き起こすという感じですか

石橋:いや、それは自分自身に対する叱咤もあるんだけど。昔、あるライターさんに取材を受けた時、その人はいわゆる団塊の世代の人なんだけど、『俺達はもうARBやアナーキーに任せるよ』と言われたことがあって、まあ任されても困るんだけど(笑)、大事なのは一人一人がどう戦っていくかが問題なわけでね。だから、自分がロックミュージックをやる時にできることは、やっぱりそういうことを表現していくことだと思うのね。それは自分が小学校や中学校の時に、ストーンズ、ビートルズ、ディランを聴いて触発されたと同じように、そこの捉え方だと思うのよ。一つの音楽・曲を聴いて、自分と全然違う解釈をする人がいることを知ったりとか、あと、一つの歌を聴いてもの凄くイメージを広げることとか。だから、社会的なこととか政治的なことを歌うことだけがロックミュージックじゃないよね。ストーンズにしたってジョンレノンにしたって、クスリの歌もセックスの歌もあって、その中の一つに政治の歌もあるわけだよね。

──ARBもまさにそういうスタンスだと思いますが

石橋:でも日本だとまずそんなこと(政治的なこと)を歌っちゃいけないみたいな風潮があるし、ビジネスにならないという歴史があると思うのね。その中でずっとARBやアナーキーは(社会的なスタンスで)やってきたつもりなんですよ。そこが自分の中で無意識的にアンチだったと思うんだけど、アンチばっかりだとものすごく対象が狭まっちゃうというか、どっかでARBはこういうことを歌わなくちゃいけないとか、責任感みたいなものがあったと思うんです。でも70年代から80年代は、時代的にまだ悪や体制側は自分たちの失態を巧妙に隠していたと思うんだけど、今はもう悪が普通に手のひらを出して、悪いことをやってるよと開き直っている。もうそれを隠そうとしていない。そうすると、それを見て育った子供達は、そういう社会に対して全く期待もしないし、意識もしていない。自分の親さえも頭の中にない。だからそういう子供達は、もはやARBが何か言わなくてももうわかってると思うんだよ。

──社会がおかしいということにですか

石橋:そう、皮膚感覚で

──でもそういう人達は社会に対して既にあきらめちゃってると思うんです

石橋:ただ、そう思いながらも、自分がやりたいこと、好きに生きるやり方を皮膚感覚で知ってるし、それを実行している人が出てきているような気がするのね。で、自分自身も今43になろうとしてて、子供もいて、やっぱり昔のARBみたいな目線じゃだめだなと思うのね。だったら、いち俳優、いちシンガー、いちバンドマン以前に43の男がどういうふうに生きていけばいいのかということをまず考えるよね。それでもしチャンスがあって、歌を歌えるとなったら、自分が鼓舞するような歌を、三十代、四十代の可能性のある人達に向けて歌うことが一番興味あるし、それが今やることだと思うのね。そのためには、自分のダメな部分、ヤバイ部分も出していくしかないと思う。

途方に暮れるねえ・・・

──ARBが再開した1998年は、キレる中学生や学校崩壊などが問題になっていて、子供達のことがもうよくわからなくなってしまった時期なんですが、僕はそこにある種ARBと時代のシンクロみたいなものを感じたんです。

石橋:うん、中には『狙ったんですか?』って言った人もいたよ。でもこれは偶然ですよね。今回、同じメンバーで2枚目のレコーディングをしたけど、まあ途方に暮れるというか。でも途方に暮れたら暮れたなりにそれを表現すればいいかなと思うのね。それを取り繕って昔のARBみたいに自分を叱咤して相手も叱咤するってことじゃなくて、43のおっちゃんが、もうこの時代どうしようもないということを表現することがあってもいいかなと思うのね。

──やっぱり凌さんも途方に暮れてますか?

石橋:途方に暮れるねえ。この前、五木(寛之)さんが『混沌からの出発』という本を出して、読んでみたんだけど最後まで答えがないの。『この混沌は耐えるしかない』とかって(笑)。結局、誰も答えは出せないのよ(笑)。でもそこで小説家だとかミュージシャンだからといって無理に答えを出すと麻原みたいになっちゃうと思うし。わかんなきゃわかんない価値観で表現するのがアーティストだと思うから。それに対して問題提起するのが、そういうポジションにいる人の特権というか義務でもあると思うんで。だからみんながお手上げになってる酒鬼薔薇の事件についても少年のナイフ犯罪についても、本当は映画人なりミュージシャンなり絵かきさんなりがディスカッションする場がもっとあってよかったと思うよね。でもあまりにもみんなそこから手を引いてしまった。今のお手上げ状態を作ってしまったのは、そういう経過が歴然とあったと思うのね。

──『REAL LIFE』に『悪い奴ほどよく眠る』という曲がありましたが、これなんかはまさに今の社会で体制側がいかに開き直っているかということを歌ってますよね。

石橋:俺も最近よく眠るんだけどね(笑)。

──それは遊び過ぎじゃないですか(笑)。でも最近、盗聴法が問題になっているように、権力側のやりたい放題をなんとかしなければいけないんじゃないか、という感じにだんだんなってきていると思うんですよ。そこで、じゃあ音楽が何をできるかという問題になると思うんですが。

石橋:確かに音楽ができることは限られてると思うのよ。自分らが昔、小学生中学生の時、ビートルズやディランの新譜が出ると、学校に持ってくるのね。で、同じディラン・ファンやジョン・ファンがいるんだけど、全然解釈が違うわけよ。そうするとそこで知るじゃない。自分と全く価値観の違う人間がいるということを。それもいいわけよ。それがロックミュージックの存在価値なわけよね。だから、クスリやろうがセックスやろうが何しようが、ロックミュージシャンが表現することで生き方が変わっちゃったり、自分の嗜好も変わったりするぐらいエネルギーがあったと思う。じゃあ、問題提起をするものが他にあるのか?っていったら、あんまりないような気がするのね。

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