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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】bloodthirsty butchers('99年2月号)- 走られたらいいだろうし。歩いてるんだけど、走ってる。

走られたらいいだろうし。歩いてるんだけど、走ってる。

1999.02.13

 今年ブレイク間違いないと言われているバンドの一つが、このbloodthirsty butchersである。トリオという最小編成から生まれるバンドアンサンブルは、アグレッシブかつ繊細で、ギター、ベース、ドラムの一音一音までもが、胸の奥に響き渡る。そして漂流感ただよう吉村秀樹のボーカルは、その美しい日本語の叙情詩とあいまって、いっそう深く胸に突き刺さってくる。かつてフィッツジェラルドは「努力のむなしさと奮闘の必要」と書いたが、不器用に同じところをぐるぐる回りながらも、決してあきらめず、確実に進歩している存在、そんなバンドがbloodthirsty buthcersではないだろうか。ミニアルバム「△」をリリースしたブッチャーズの3人にお話を伺ってみた。(interview:加藤梅造)

普通のバンドが3年ぐらいでやることを、俺達10年かかってるから

──今度発売されるミニアルバム「△」は、DISK UNION/TIME BOMB/TIGER HOLEの3店限定発売とのことですが、ちょっともったいない感じもしますね

小松:そのもったいない感じがいいかなあ、と。

──市場の飢餓感をあおるみたいな

射守矢:そういっちゃうと作為的でいやだなあ。

小松:実は何にも考えてないっす。夜、枕元におばあちゃんが立って、そうしなさいって(笑)。

──ブッチャーズは、もう10年以上活動されてて、評価も非常に高いんですけど、なかなか大ブレイクに至らないという印象がありますよね

射守矢:本人達があまり意欲的に活動してないので…。

小松:普通のバンドが3年ぐらいでやることを、俺達10年かかってるから(笑)。

──慎重派、それとも単にめんどくさがり屋?

小松:よく言って、めんどくさがり屋ですかね(笑)。

──曲を作るのに時間がかかります?

射守矢:そうですね。やりかけて、いやだなと思ったら後回しにしちゃうんで。それでまた忘れた頃にそういえばこんなのあったなって、なんかぐるぐる回ってるんで。1曲ずつきっちり仕上げるのが苦手ですね。

──ブッチャーズの曲って、一見シンプルに聴こえるけど、実は結構練られてると思うんです。だから時間をかけて作ってるのかな、と

射守矢:かかっちゃうんですよね。

──やってるうちにいろいろとアイデアが出てくるんですか

射守矢:アイデアというよりも瞬発的に誰かが何かをやったりして、突拍子もないところから違う方向にいっちゃたりしますね。

小松:曲を作る時は、こうしようと話合ったりしないで、何もない所からつくっていくんで、最初は3人の思ってることが全然違うんです。その違いがよくぶつかればいいんだけど、悪い方向にいくとちりぢりになっちゃう。

──バンド形態がトリオってところも大きいですね

小松:そうですね。音数も少ないので、普通にベースとドラムでリズムを作った後に、一人で歌ってギター弾くとつまんない曲になりますよね。

射守矢:そんなことやってる自分が嫌いになりますね(笑)。

小松:やってる方はつまんないよね。

僕ら3人ともアピールするのがあんまり得意じゃないんです

──音数が少ないってところでいうと、ブッチャーズは特にすき間を大切にしてるような気がします

小松:すき間って埋めたくなるんですけど、なるべくがまんしてます。昔はすき間があるとガーって感じで埋めてたけど。

──そう言われれば、昔よりも余裕が出てきたような感じもしますが

小松:聴いてるほうはそう感じるのかもしれないけど、やってる方は全然余裕ないですよ(笑)。

──たぶん3人ともすごい自己主張があると思うんです。でもブッチャーズの曲を聴くと、3人の自己主張が激しくぶつかってる感じはしなくて、それぞれが静かに主張しているという感じを受けるんです。

小松:僕ら3人ともアピールするのがあんまり得意じゃないんです。イエー!って感じじゃないから。

射守矢:主張はするんですよ。だけど、引くところは引くというか、あいつ何かいいたそうだから聞いてやろうとか、あいつが前に出るときは引いてやって、別のところでは俺が前に出るとか、そういうバランスをとってますね。全員がガーっと前にいっちゃったら、いいものはできないです。それは自然にやってますね。

──全員がそういうタイプだからか、バンドの野心みたいなのがあまり感じられないですね

小松:野心はめっちゃめちゃありますよ(笑)。

──そういうのがギャグにしか聞こえないですから(笑)。自分達の曲を聴け! みたいな押し付けもあまりしないでしょう。

射守矢:前は、聴きたきゃ聴けば、観たきゃ来いや、っていう気持ちだったんですよ。でも最近は、やっぱり作品にしてもライブにしても自分達の中ではよくなってるなという意識もあるから、これ聴かないでどうするんだっていう押し付けがましいところもありますね。はったりでもいいから、そういうふうにしようと心がけてます(笑)。

言葉の先のもの─それが自分の言いたいことだから

(ここで吉村氏登場)

──さっきも話してたんですけど、ブッチャーズの音楽って、剥きだしの自己主張みたいなのはないけど、3人が静かに自己主張しているところが、逆に確かな力強さを感じさせるところであると思うんですよ

吉村:音楽ってものが、なんとなく、そういうはっきりしたものとは、自分では言ってるつもりのところもあるんだけど、やっぱりそういう、形容詞じゃないけど、そんな感じで、それなんですよ、やっぱり(笑)。

──あの…(理解不能)

吉村:ちょっと慌ててるかな、俺。

射守矢:自己主張がうまい人はいいんだけど。主張はあるけど、それを伝えるのが苦手な人っているじゃない。それが音にも現われるというか。

吉村:でもやっぱり歌詞があるってことは、うん、吐き出してるというか、それには違いないんだけど、それがどうしたこうしたっていうのは、うん、単なる言い訳であって、そっから先はどう考えようと自由だし、言わなくてもわかるだろうし、あとは音楽があるだろうし。なんていうのかな、曲でもそうなんだけど、最後にギター掻きむしって終わる、つまり何も言わずに終わる、それが音楽の持つパワーっていうか、言葉の先のものというか。それが自分の言いたいことだから。

──吉村さんは、前に掛け持ちでコーパス(グラインダーズ)をやってたじゃないですか。で、コーパスでギターを弾く吉村さんと、ブチャーズで歌う吉村さんって、ちょっと別人みたいなところがあって。まあコーパスはギターに徹してたからかもしれないけど

吉村:ああ、結局今はやってないんですけど、自分の立場がわかるぶん、人の立場もわかるというか、ギターを弾いてても、うまくやれてるようでやれてなかったり、そういうところが嫌といえば嫌だったんだけど、そのままいくしかないなってところがあった。自分の幸せは、ギター弾いてることだから、好きなバンドで好きな仲間と。だからブッチャーズもコーパスも関係なく。

──前に射守矢さんは、ギタリストとしての吉村秀樹が一番好きだっておっしゃってましたよね

射守矢:うん、でもヴォーカルとしての吉村秀樹を認めてないってわけじゃないですよ。じゃなくて、一番好きなギタリストって意味で。あんまりこれ、はっきり言っちゃうと恥ずかしいものがあるよね(笑)。

小松:妙な関係になっちゃうよね(笑)。

吉村:それは、まあバンドの音に現われてる、不思議な、組み合わせっていうか。(バンドの音も)独特だと思うから、一人一人違うように。うん、この3人じゃないと普通には出せない音だろうし。

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