仲野茂(vo|ex.亜無亜危異)、下山淳(gt|ex.THE ROOSTERZ)、梶浦雅弘(ds|ex.THE MODS)、岡本雅彦(ba|ex.アンジー)、竹内理恵(sax, fl|頭脳警察)という日本のロック史にその名を刻む巧者たちが集結した仲野茂BANDが、セカンドアルバム『に』を2026年2月21日に発売する。2023年、肺がん闘病中だったPANTA(頭脳警察)が逝去する2週間前に仲野茂へ託した絶筆となる6篇の詞、新たに発見された詞1篇に対してメンバーと伊藤雄和(OLEDICKFOGGY)が作曲して完成させた7曲、バンドによる純粋な新曲2曲を織り交ぜた、完全なオリジナル作品という点では初のフルアルバムとなる。本作のゲストには頭脳警察から石塚俊明(per)とおおくぼけい(key)、うつみようこ(cho)が参加。さらにジャケットの題字は、三代目魚武濱田成夫が100枚に及ぶ作品を書き上げた中から選ばれたという。遺稿6篇+1篇のみならず、自身の人脈まで愛すべき後輩へ委ねたPANTAの心緒。最期まで稀代のロック屋として現役を貫いた無冠の帝王に薫陶を受けた仲野茂が全幅の信頼を寄せる仲間たちと共に創作と格闘したなかでの胸中。思いの端々が交錯し、此岸と彼岸の垣根を超えた歌の共闘は『に』と題した渾身の作品としてここに結実した。
本稿は、仲野茂がパーソナリティを務める『Radio JAG』で行なった『に』の公開インタビュー(vol.143)をまとめたものである。仲野茂と岡本雅彦の言葉の節々から完成の手応えが窺え、師弟の契り、同志の絆の結晶と言うべきアルバムの全体像を掴める内容となっている。日本のロックの英知が結集した至宝的作品の真髄が伝われば嬉しい。(Interview:椎名宗之)
おい、茂! 負けんじゃねぇ! 泣くんじゃねぇ!
──前作『粋』を2024年12月にリリースしてからわずか1年2カ月で新作を発表するのは、バンドの現状がすこぶる良好であることの表れではないかと思ったのですが。
仲野:まあ、『粋』は焼き直しの部分もあったからさ。30年前に野島健太郎と一緒にやってた仲野茂BANDの楽曲が今の時代に合うんじゃないかとマネージャーの田原さん(マーラーズパーラーの田原章雄)が言ってくれたし、野島が作ってくれたメロウで昭和感のある曲を自分が改めて唄いたかったのもあって。それで「遠くで火事を見ている」や「右向け右」といった曲を今の仲野茂BANDのメンバーにやってほしいとお願いした。そもそもライブをやるために始めたバンドだったから、最初はレコーディングする計画も具体的じゃなかったんだけど。でもライブをやっていく上で音源があったほうがいいってことで『粋』というセルフカバー集を作って、今回やっと、PANTAが遺してくれた6篇の歌詞を楽曲として完成することができた。
──PANTAさんから茂さんへ託された6篇の歌詞は、PANTAさんが亡くなる直前に届いたそうですね。
田原:PANTAさんが亡くなる2週間前、2023年6月23日の夜でした。茂さんには私からPANTAさんの歌詞が届いたことをすぐに伝えたんですが、その後、PANTAさんの病状がどんどん悪化していったので、そこから歌詞を手直しするとかはできなくて。で、その後のPANTAさんとのやり取りのなかで「茂を頼むぞ」というメールが来て、その言葉を自分なりに受け止めた上で、仲野茂BANDのマネージャーをやらせてくださいと茂さんにお話ししたんです。
──事の経緯を整理すると、茂さんとPANTAさんが2023年6月4日に食事をして、その席で茂さんがPANTAさんにアルバムのプロデュースをお願いしたのが始まりだったんですよね。
仲野:プロデュースっていうよりは一緒にアルバムを作りたかった。その時点ですでにPANTAの病状があまり良くないことを聞いてたし、なるべく早く動きたくてさ。亡くなる前の年にLa.mamaでやった『P-FES』っていうPANTAの応援ライブ(2022年6月5日開催)に俺がゲストで呼ばれたときはPANTAがだいぶ元気になって、このまま回復するんじゃないかと思ったくらいだったけど、その後にまた具合が悪くなって、入退院を繰り返してた。面白いのはさ、PANTAは退院すると必ず「鮨を食いたい」って言うわけ。それで一緒に鮨屋へ行くと、PANTAはしっかり一人前を食べるんだよ。もう病人感ゼロ(笑)。まあそれはともかく、鮨屋で「早くレコーディングやろうよ!」って盛り上がってさ。俺はPANTAの書くメロディも大好きだから、ホントは作詞・作曲までお願いしたかったんだけど、さすがに病室へ楽器を持ち込むことはできなかったからね。
──PANTAさんは茂さんにとって菊さん(サンハウスの柴山俊之)と並ぶ憧れのバンドマンだし、そのPANTAさんが亡くなる間際に打ち込んだ創作が茂さんへ宛てた歌詞だったというのは身に余る光栄であると同時に、凄まじいプレッシャーも感じていたのでは?
仲野:プレッシャーがないわけじゃなかったけど、それよりもとにかく形にしたかった。俺は曲を書くのが得意じゃないから、すぐに考えたのは「誰に曲を作ってもらおうか?」ということだった。それですぐに思い浮かんだのがOLEDICKFOGGYの伊藤君(伊藤雄和)。
──OLEDICKFOGGYの「シラフのうちに」のMVに茂さんが出演するなど、かねてより親交の深い伊藤さんですね。
仲野:うん。伊藤君のちょっと昭和の懐かしさを感じるメロディがPANTAの遺してくれた歌詞に合うと思って。あとは岡本ちゃんと下山(淳)にも6篇の歌詞を渡してさ。他に誰に頼もうかと考えてたら、昔の亜無亜危異の事務所の社長が「クロマニヨンズのヒロト(甲本ヒロト)やThe Birthdayのチバ君(チバユウスケ)はどう?」なんて言うわけよ。確かにちょっとそそられたけど、結果的に伊藤君とメンバーの作曲にとどめておいて良かった。仮にヒロトやチバが引き受けてくれたら、なんかそっちの手柄になっちゃうっていうかさ(笑)。
──それにしても、“不完全復活”した亜無亜危異でほぼ歌詞を書かなかった茂さんが今回は2曲作詞したこと自体が驚きなのに、3曲も作曲を手がけているのはさらに驚きました。
仲野:俺も驚いた(笑)。それはやっぱりPANTAの力が大きかったと思う。最初に伊藤君が「泣くんじゃねぇ」のメロディを作ってくれて、さっそくライブでやり出したら、なんかそこでみんな落ち着いちゃってさ。あと5曲完成させなきゃいけないっていうのに。
──「泣くんじゃねぇ」は本作におけるヒットチューンというか、琴線に触れるエモーショナルな旋律と歌詞が相俟って、仲野茂BANDの代表曲と言うべき風格がすでに漂っている完膚なきまでの名曲だと思うんです。
仲野:「泣くんじゃねぇ」はライブ中でもPANTAの声が聞こえそうなときがある。「おい、茂! 負けんじゃねぇ! 泣くんじゃねぇ!」って。
──PANTAさんが茂さんへ贈るメッセージソングであり、応援歌であり、ラブソングでもあるような。
仲野:俺はPANTAが遺してくれた6篇の歌詞から「これで曲を書いてほしい」とか選べなくてさ、伊藤君に6篇全部を渡しちゃったんだよ。で、その中から伊藤君が選んできたのが「泣くんじゃねぇ」だった。そのときは字面だけだったからどんな形になるかわからなかったけど、伊藤君は一番いい歌詞を選んだなと思った。で、伊藤君が曲を作ってくれて唄ってみて感じたのは、PANTAはやっぱり歌詞の人、とてつもない詩人だったんだなってことでね。あと、「泣くんじゃねぇ」に関して言えば、岡本ちゃんのベースラインが凄く格好いい。ギターのイントロやリフのメロディは下山が得意とするところだし、メンバーのいいところが出てるね。
















