PANTAの歌詞に忠実であろうとした下山と岡本
──今回、PANTAさんが手がけた6篇の詞に加えてもう1篇、新たな詞が見つかって完成に漕ぎ着けたとのことで。それが軽やかな小品といった趣きの「月夜のブルース」という楽曲なのですが、これは下山さんが作曲を手がけていらっしゃいます。
田原:自分としては、過去の茂BANDの曲を入れてフルアルバムにしたらいいんじゃないですかと提案したんですが、下山さんは全曲オリジナルでいきたいと。それなら他にPANTAさんが遺した歌詞がないかと、PANTAさんのノートなどを洗い直してみたんです。それで未完成ながらある程度の形になっていた歌詞が「月夜のブルース」だったんです。
──「月夜のブルース」は頭脳警察 / アーバンギャルドのおおくぼけいさんの弾く鍵盤の音色が大切なアクセントになっていて、聴き込めば聴き込むほど好きになるような楽曲で。今はもういなくなってしまった野良猫と過ごした日々を懐古する歌にも聞こえるし、猫を隠喩にしたラブソングにも聞こえるという仕掛けが心憎いですね。
仲野:唄ってて思ったのは、PANTAの歌詞はホント正直っていうかさ、なかなかこんなリアルな描写はできないよ。「あとで食おうとおもったのによ」なんてさ。
──ベンチで拾ったビスケットを。しかもその後も「あとで食おうとおもったのに」「あとで食おうとおもったのによ」と繰り返し唄われますね。
仲野:そう。でもそれがあることでありふれたラブソングとは全然違うっていうか、俺だったら拾ったビスケットをそのまま猫にあげて終わっちゃうよ。「あとで食おうとおもったのに」なんて食い意地の張った一行かもしれないけど、そういう本性を晒すことで歌詞が活きる部分がある。
──体調不良でも鮨を一人前平らげるPANTAさんならではですね(笑)。
仲野:そういうこと(笑)。
──「月夜のブルース」はこんぶさんのフルートが必要不可欠の音として抒情性を高めていますね。
仲野:素晴らしいね。まさかこの仲野茂がフルートを入れたアルバムを作るなんて?! と自分でも思ったよ(笑)。
──あと「月夜のブルース」を聴いて思い出したのは、THE ROOSTERZのラストアルバム『FOUR PIECES』に作詞=PANTAさん、作曲=下山さんのコンビによる名曲が2曲収録されていたことなんです。「鉄橋の下で」と「曼陀羅」という自分も大好きな楽曲なんですが、考えてみればPANTAさんと下山さんのコンビは元から相性が良かったんだなと思って。
岡本:ああ、確かに。「月夜のブルース」のメロディも意図的か偶然なのかわからないけど、PANTAさんっぽいなと思ったんです。
──そうですよね。あと、下山さんが作曲した「だろ」もPANTAさん特有の野性を意識して押し出したように感じたんです。
仲野:ちょっとPANTA & HALの「ルイーズ」みたいだもんね、ギターのカッティングが。
──だから、下山さんなりのPANTAさんへのオマージュが随所に織り込まれているのかなと思って。
仲野:それはあると思う。実を言うと「月夜のブルース」を作るときに下山とちょっと揉めて、あいつは「おまえに会いさえしなければ 人生わからねえもんだろう」っていう最初は俺が削ったくだりを入れないと歌詞の辻褄が合わないって譲らなかったんだよ。俺は歌の譜割りが難しいし、面倒くさくて削っちゃおうと思ってたんだけどさ。でも下山は岡本ちゃんと同じようにPANTAの遺した元の歌詞に忠実で、結果的にそれによってまた曲がグッと良くなった。そこでまたPANTAの声が聞こえたよね。「茂、面倒くさがってないでちゃんとやれ、この野郎!」って(笑)。だからまあ、下山と岡本ちゃんっていうプロデューサー二人にだいぶ助けられたよ、今回は。
岡本:あの方(下山のこと)とは付き合いも古いですし、そこはなんとなくうまい具合に擦り合わせができると言いますか……。
仲野:岡本ちゃんと下山、下山と俺の関係性ってちょっと違うんだけど、違う感じながらも相性はお互いにいいんだよね。
──相性のベクトルは違うけど、どちらもウマが合うことに変わりはないという。
仲野:そうそう。でも下山はきっと、俺よりも岡本ちゃんのほうが喋りやすいんだと思う。
岡本:まあ、僕のほうが後輩ですから(笑)。
──プロデューサーとしての役割分担も自然とできていたんですか。
岡本:僕が「んん?」と悩むところでも下山先輩が良ければそれでオッケーですし、下山さんが黙ってるときは「もう一回行きましょうか」と僕が言ってみたり。その辺はうまく相互作用がはたらいていたと思います。
とんでもない力を与えてくれたPANTAには感謝しかない
──そんな話を伺うと、新生・茂BANDが始動して2年弱ですっかりバンドらしくなってきたことを実感しますね。
仲野:そうだね。『粋』のときは既存曲ばかりで、それもあえてデモっぽい作りにしたけど、今回はPANTAの遺した歌詞でまっさらな新曲を作るということでどうなるかな? とは思った。でもメンバーで合宿できたのが良かったし、そこでさらにバンドらしくなれたのも良かった。それ以前に、俺は梶浦がモッズのときにどんなレコーディングをしていたのかも知らなかったわけだから。リズム録りからやってるのか、一発なのかとかさ。岡本ちゃんとは『THE COVER』のコンピを作るときに凄い手伝ってもらったし、下山とはずいぶん前にあいつのソロ・アルバム(『Monkey Night』)に呼ばれたことがある。全然唄えなかった印象しかないけど(笑)。だから新生・茂BANDでどんなレコーディングになるのか、田原さんも心配だったと思うよ。俺と下山が初日からケンカしていきなりおしまいになるとかさ(笑)。
岡本:でも意外とラフでしたよね、下山さんは。もっと細かい注文が入るのかと思ったら、むしろ「もっとアホみたいに弾いてくれ」と言われて「僕はアホじゃないんで」と言い返しましたけど(笑)。
──そういう忌憚のないやり取りができるのもバンドが良い状態にあるからでしょうし、だからこそ茂さんの作詞と下山さんの作曲によるオリジナルの新曲が2曲(「金科玉条」「Fury」)も完成できたのかなと思ったんです。PANTAさんの作詞曲が7曲仕上がったのなら、あとはたとえば頭脳警察のカバーを数曲入れればフルアルバムの体を成すじゃないですか。でもそんな安直な方向へは流されなかった。
仲野:途中で流されそうになったんだよ(笑)。でも全曲オリジナルで固めるのは下山の意地でさ。「金科玉条」と「Fury」なんて凄いよ。レコーディングの期間が決まってて、梶浦が福岡へ帰らなきゃならなかった。それでとにかくリズムだけ録っとけってことで、梶浦は完成形がわからないまま叩いたんだから。岡本ちゃんもそうだよ。どう仕上がるのかわからないまま弾いてた。
岡本:最後はそんな感じでしたね。でも下山さんの頭の中ではほぼほぼ完成形が見えていたと思うんですけど。
仲野:「Fury」の遅くもなく速くもないテンポ感とか絶妙でしょ? 下山はもともと絵描きだから、音を絵として見ることができるんだと思う。その絵があいつの頭の中には浮かんでる。改めて凄い能力だと思うよ。
岡本:その絵がどんなものなのかをもうちょっとみんなに伝えてくれると助かるんですけどね(笑)。
仲野:そうそう。何の説明もなく「いいんだよ、それで」みたいなところがあるからね。梶浦や岡本ちゃんに対して「もうちょっと黄色を濃いめに」とか具体的な指示は出さない。
──それは黄色の濃淡をメンバーに委ねるということでしょうか。
岡本:それもあるのかもしれませんね。
仲野:そういう引き出し方が下山はうまいよね。梶浦に対しても最初はリクエストを言わない。だけど気になるところはちゃんと言う。「もうちょっとこんな感じで」とか「ここは普通のエイトでいいよ」とかさ。とにかく下山は凄いよ。メンバーそれぞれの能力を見抜くっていうかさ。プライベーツやフラワーカンパニーズとかいろんなバンドをプロデュースしてるだけあるっていうか。岡本ちゃんもそうだけど、そういう経験値の高さがこのバンドで発揮されてると思う。
──PANTAさんが茂さんへ歌詞を託してから2年8カ月の歳月を経てこれだけの充実作を完成させて、PANTAさんもきっと喜んでいるでしょうね。
仲野:PANTAには感謝しかない。PANTAが俺に遺してくれたのは7篇の歌詞だけじゃなく、50周年頭腦警察のこんぶちゃんと敏腕マネージャーの田原さんを俺に引き合わせてくれた。それに長年の相棒だったTOSHIまで今回のレコーディングに参加してくれたし、PANTAは俺にとんでもない力を与えてくれた。ホントに感謝しかないよ。
──PANTAさんに捧げるアルバムの最後を完全オリジナル曲の「Fury」で締めるのも“粋”だと思うんです。PANTAさんからもらった力をエネルギーに変えてバンドを走らせていくよという高らかな宣言のようにも感じますし。
仲野:「Fury」ってタイトルは下山が決めたんだよ。同じ「怒り」なら俺は「Rage」って付けるね。『フューリーズ 復讐の女神』ってホラー映画からきてるのかなと思ったんだけど、それもあいつの洒落たセンスっていうか。だいたい「Fury」って意味自体がよくわからない。調べたら「憤激」「激怒」「猛威」って意味だったんで、それをそのまま語りの部分で使ってやった(笑)。
──この『に』というアルバムを完成させたことで、新生・仲野茂BANDが本当の意味でスタートラインに立てたとも言えますね。
仲野:そうだね。より明確な方向性が打ち出せたし、よりカテゴライズされないバンドになっていくっていうかさ。あと、TOSHIが元気なうちに頭脳警察っていう凄いバンドがいたんだぜってことを、このアルバムを通じて俺は世に知らしめたい。70年代初頭の日本にこんなに凄いバンドがいて、PANTAとTOSHIの二人だけであれだけ革新的な音楽を残したってことをさ。だからこのバンドでやりたいこと、やれることはまだまだある。小6で「ふざけるんじゃねえよ」をラジオで聴いて衝撃を受けた俺がこんなアルバムを作れたこと自体が感慨深いし、自分がPANTAから受け取ったものをこれからいろんな形でみんなに届けていきたいね。
















