感情を揺らしまくるライブをやること
写真|渡邉大翔(下北沢SHELTER)
──ヤスエでんじゃらすおじさんの活動テーマなどはありますか?
ヤスエ:名前が「ヤスエでんじゃらすおじさん」だからすごく突飛なことをやってる人だって思われるんですけど(笑)。それはそれで後から良かったなと思うのが、ライブをやってると初見の人でもめっちゃ泣いてる人とかいて。感情の芯に刺さって、ぐわって揺らすみたいな感覚がライブ中にあって。それが“言葉にできない危険さ”っていう感情で。めちゃくちゃ感情を揺らしまくるライブをやることが、実は“名前負けしてない”ことなのかなって最近思っているの。曲もこういうのを作ろうっていうのは全く意識がなくて、常に感覚で。その時に出てきたものをiPhoneで録って、後から形にしていくみたいなのが多い。だからめっちゃピュアなの、メロディが。自分でもいまだにコードすら分からないし、まともに弦は弾かない。
──私生活を投影するようなことはないんですね。
ヤスエ:歌詞(※一部)とメロディはほぼ同時。メロが決まった時にはバチン! って詞の世界観が決まってる感じ。「結燦々」って新曲を9月5日に出したんですけど、これもお風呂でほぼメロも歌詞も同時に出来上がって。iPhoneで録ったボイスメモをその日にセッションして完成みたいなスピードで出来上がる。曲から詞が勝手に出てくるような。
──深いテーマを元に制作しているのかと思っていました。
ヤスエ:基本的にテーマを作らないということが一番大事で。作曲の段階で何も考えていない。自分の中からピュンって出てくるものをそのままやってるから、メロディも詞の世界も“人間”としての純度が高いんだろうなっていうのは思う。そこに捻りがない。
──天才ですね(笑)。
ヤスエ:「劇場」ってライブでも演奏してる曲があるんですけど、この曲にはインプットがあって。明け方に『呪術廻戦』の渋谷事変を見ていたんですよ。それの絶望感を目の当たりにしたら、完全に領域展開みたいに世界観がボーンって部屋の中に出てきて、それでスラっと歌詞が書けたので、けっこうそこは早いですね。ハマると凄いスピードでぶわーって書けてくるみたいな。ただめっちゃ大変ですけど(笑)。朝までずっと何時間も何時間もやってました。あとは言葉のハマりは難しいから、それをずっとチューニングするみたいな作業を朝までずっとやる。ハマると早いんだけど、工夫がないわけでもないというか。そして、そこに深い意味があるかというとそれもない。なくて良い。
──ヤスエさんの歌詞は押し付けがましさがないというか。
ヤスエ:映像みたいなものは、常に思い浮かべて、ぼんやりと頭の中で見えてるものを、丁寧に言葉で模っていくというか、輪郭をつけていくっていう感じで詩も曲も作ってる。作曲もギターを弾かないのがモットーで。弾かないで空歌にコードをつけるから、コードの押さえ方も俺コード。1弦1弦、頭の中で響いている音感を取りにいくから、押さえ方もむちゃくちゃ。たぶん音楽やってる人からすると難しいコード進行。変なコード進行で変な押さえ方をしてるんだけど、それはもうナチュラルに、そこで響いている音を1個1個取っていったら、そのコードにたまたまなった、っていう作り方なんですよね。
──子どもの頃に適当に歌う感覚みたいなのが近い感じですか?
ヤスエ:そうそう。それがたぶん自分の曲の中では、懐かしさになってる。みんなどっかで聴いたメロディが自分の曲にはたぶんエッセンスとして入ってて。だから、僕もその育ってきたメロディが、体の中に生きていて。それがそのままギターに引っ張られない形で出てくる。だから琴線に触れるものが近しい人には、めちゃくちゃ脳がグラつく揺れや心臓の締め付けがあるんじゃないかと。
写真|タカギタツヒト
──影響を受けた音楽はどのあたりなんですか?
ヤスエ:最初はパンクをずっと聴いてて、人並の音楽にも影響は受けているんですけど。ただやっぱり一緒にやってきた人たちが大きいです。自分は今の時代の音楽に凄く影響を受けてて。何かに特別影響を受けたというよりは、めちゃくちゃ音楽が好きで。今もヒップホップとかもよく聴くし、友達の音源とか知らないバンドの音源とかもたくさん聴くんですよ。それがたぶん昔も今も変わってなくて。だからバンドの界隈で出会った人たちに対しては全部いろんな節々で影響受けてると思いますね。ソロでこの人が好きとかいうのはもうあんまりない。でもそういう意味でなんかやっぱ素晴らしいなって思ったのは、前野健太さん。彼は昔、「さむつらす」ってバンドをやってて。そのバンドを見た時にあの人の良さっていうのはよくわかった。シンプルな歌詞なのに凄く心に優しく触れる、というか。ああいう素朴な歌詞が書けるようになったら良いなと思って。今の前野さんはまた違う感じかもだけど、あの経験は凄かったなって思うんですよね。
出会いの中で作っていく音楽と孤独感
写真|渡邉大翔(下北沢SHELTER)
──バンドの編成も特殊(※時期やライブによってサポートメンバーが変動)ですが、どのような経緯だったんですか?
ヤスエ:初音源の「終末論」という楽曲の話からになるけど、みんなそれぞれバンドをやってる人たちが集まってるから。あの音源は、実はオンラインだけでみんなの家で録った音を送ってもらって作って。今の音楽を作ってる若い人の走りみたいな(笑)。ネット上だけでコミュニケーションをとって音源を作る。YouTubeにある「終末論」のMVもネット上だけで完成させてる。MVに出てくるお面も靖子ちゃんの家に送って、動画撮ってもらって、送ってもらって。その動画を編集してMVにするっていう。メンバーを固定せずに、なんなら会わなくても、作品を作るみたいなことを2014年くらいからやってて。バンド編成のライブが決まったら、メンバーを都度集めるっていうのも、当時からずっとやってたこと。今のメンバーとかはその長年の流れの中でタイミングがあって一緒に今もやってる、というだけ。これも時代なんだな、と思う。現メンバーともよく話すけど、メンバーを固定するつもりは良い意味でなくて。ラフな感じが逆に良い音楽を作れる気もしてて、固めないっていうスタイル。めちゃくちゃなこと言ってるな(笑)。セッションの中で生まれる偶然、予定調和がないところが良いなっていう。ヒップホップのようなノリとグルーヴ。バンドをやるとけっこう固めに行っちゃう。今はある程度サポートメンバーも変わらずにやってることが、凄く良いことだと思いつつも、固まらない面白さに魅力を感じてるところもあって。いろんな人との出会いの中で作っていく音楽、その瞬間や時代にある音楽をやったほうが良いなっていう感覚です。でもソロはソロだから最終的には自分一人で責任を持って音楽を作るっていうことをやっている感じですね。そういう意味で常に孤独なんですよ。みんなに支えてもらっていて、とても感謝も幸せも感じているけれど、でも一人だっていうところは常に感じています。
──それは楽曲から感じる部分がありますね。
ヤスエ:孤独感みたいなものが常にあるなと思ってて。長年音楽やってきてもうまくいかない、聴いてもらえないことのほうが多かったから。その孤独感っていうのはずっとどこかで蓄積されていて。だからソロの活動も孤独感というものがベースとしてあるのかもしれないし、曲にも出ているのかも。基本はハッピーピープルなんですけど、ベースはネガティブなのかもしれない(笑)。歌詞も「君は終わるのを待っている」とか「もういない」とか「あなたの孤独を揺らすんだろう」とか終末感や孤独感が強いのかもしれないです。聴いてくれてる方に“頑張っていても誰にも理解されない気持ち”ってものが根本にあったとしたら、そこに触れたときに、すごく繊細だから感情が揺れるんだろうなぁっていうのは思う。一番デリケートなところに触りに行く感じですね。けっこうその感覚はライブをやっていても感じる。常にそれがテーマとしてあるのかもしれないですね。全部の曲がそうなのかも。意識はしてないんだけど。自己分析みたいな。

















