今年でデビュー20周年を数える音速ライン。あぁ音速ラインが帰ってきたと懐かしく思える楽曲もあれば、これまでにない新しい感じで攻めているなという楽曲も入った全8曲入りのEP『淡々粛々』が10月22日に発売となった。約6年ぶりに新譜を出したかと思えば、11月1日=レコードの日にはEPにも収録されている1曲を「RAINY BABY LOVE(7inch Single mix)」としてアナログ盤を発売(カップリングにはCorneliusのカバー「PERFECT RAINBOW」を収録)。音速ラインを引っ張って、動き始めている藤井敬之(Vo&Gt)は「久々に忙しい感じで動いてるなぁ、ちょっと戸惑ってます」とインタビュー冒頭に笑顔で語りながらも、その表情は音楽の制作ができている充実さで溢れているように映った。
リリースした新譜を引っさげ、新宿LOFTおよび藤井の現在の地元である福島県・郡山ピークアクションの2カ所で『音速ライン結成20周年 淡々粛々独演会』を開催する。新作でもサポートとして参加したタナカジュン(Dr)と伊村邑一朗(Ba/睡眠船)のバンドセットでのライブで、さらに新宿LOFT公演にはゲストとして渡辺俊美(TOKYO NO.1 SOUL SET/ZOOT16)の参加も決定。秋の夜長に見逃せない公演だと断言する。(Interview:高橋ちえ)
「藤井くんは池にいる鯉みたいな感じ」
──毎年恒例、福島県で開催の『風とロック芋煮会』が終了したばかり。藤井さんはこのフェスで今年いろいろとされていたみたいですよね?
藤井:自分のステージの他に、スネオヘアーとDJ対決、Mummy-D(RHYMESTER)さんとコラボステージ、グリコボーイとしてお菓子配り、大喜利の座布団も配って。何でも屋みたいに(笑)いろいろとやってました。
──座布団配りとは、『笑点』の山田くんみたいなことを?(笑)
藤井:まさにそれです。本当にお疲れ様でした(笑)。
──そんな風とロック主宰・箭内道彦さんが、音速ラインの新作に素敵なメッセージを寄せてくださってますよね。「活動休止のユニットから、大久保剛を待つ光へと進化する音速ライン。呼吸するように紡がれる藤井敬之の音の速度は、東京よりも都会的だ。」と。
藤井:こんなに詩的な言葉をもらえるなんて思ってもなかったので、ありがたいです。まさにそのまんま言い当てられててさ。よく言われてたのよ、「藤井くんは池にいる鯉みたいな感じ」って。
──どういうことでしょう?
藤井:箭内さんと交換日記みたいな感じで箭内さんが詞を書いて俺が曲をつけてるんだけど、俺が鯉に見えるみたいなんだよね(笑)、「歌詞が欲しい」って。それで「息をするように曲を作る」みたいなことを言われてて、それをね。詩的な文章にしてくれたんだろうなって。
──鯉がエサを求めているような感じ(笑)も表現しているわけですね、なるほど。
藤井:でもそんな人が、よく6年も止まってたなっていう話だよね(一同笑)。
──収録曲はこの6年の間に作っていた曲の中からでしょうか?
藤井:ずっと(曲は)作ってる人だから自然とその辺にあるものだったんだけど、形になったのは最近かな。世に出す出さない関係なく作ってるからストックは貯まっていく一方なんだけどそれを形にするかしないかだけで。この7曲(※Tr-8・渡辺俊美ボーカル曲を除く)を揃えようって作るんじゃなくて「この曲を入れるならこの曲が欲しいかな」って、数珠繋ぎみたいに。生きてるうちに全部の曲を形にできるわけがないからどの曲を救ってやるかっていうだけで、「この曲たちは世に出ないまま俺は死んでいくんだろうか」とか考えると恐ろしくてさ。今回の(収録した)曲たちは、日の目を見られて良かったよね(笑)。
──今のお話でいくと日頃から“淡々粛々”と楽曲制作は続けていたわけで、タイトルも的を射てると言いますか。
藤井:ちえさんが言う通りで曲作りのスタンスとしては淡々粛々としてる、けど(レコーディング等で)音楽と接するとちょっとやんちゃになっちゃって(笑)。楽しい、ってテンションが上がっちゃう。その意味では淡々粛々ではなくて。52(歳)にもなって、もうちょっと落ち着いたイメージで淡々粛々と生きていきたいなと思ってたんだけど。
──良い意味で、暴れてる曲が結構ありますもんね(笑)。
藤井:暴れましたね〜、本当に楽しくってさ。大久保(剛/Ba)がいないから、楽しめるのかなって最初は不安だったんだけど、メチャクチャ楽しくて。やっぱりレコーディングが好きなんだなと思った。
──レコーディングも6年ぶりってことですものね。しかしまず一言、本当に素晴らしい作品でした。
藤井:バランスが良いよね、ラストのリミックス、(渡辺)俊美さんまでの流れが俺はすごく気に入ってて、完璧だなと思ってて。
動いて待つしかないし、動いて良かった。そう思えた新作『淡々粛々』
──EPとは言え8曲収録で(笑)アルバムのようですけど。でも1枚を通した流れ、確かに良いですよね。
藤井:「なんでEPにしたんですか?」って皆に言われるんだけど、世代的にEPって付けたかっただけなのよ(一同笑)。
──今おっしゃった“俊美さんまでの流れ”というのは「CUCKOO!! IMURA MIX feat.渡辺俊美」が、収録曲の最後に収録されていて、リミックスである上に俊美さんがボーカルを務めておられる。しかもその楽曲の1曲前に、藤井さん自身が歌う「CUCKOO!!」が収録されているという。
藤井:俊美さんのボーカルで聴くあの曲は、俺が唄うよりも説得力があるのよね。歌詞の内容もそうだけど、声ってすげーなって思った。
──藤井さんボーカルに続いて、俊美さんボーカルの同じ曲が続くというこの流れ。
藤井:そうなの、そこがまた良いのよ。人のボーカルで(EPが)終わるっていうね(笑)、こんなの誰もやったことがないんじゃない? でもやっぱり、俊美さんの声で唄ってるのが良いんだよね。「CUCKOO!!」って曲を何で作ったかっていうと、日々日々この瞬間ですら過去になっていく、イコール、今を大事にしないといけない。シンプルな構造なのにあんまり気づかないで人間って生きてるよなと思って。「過去の人」っていうタイトルにしようと思ったんだけど、それは重いなと思って。カッコウが好きだし「CUCKOO!!(読み:カッコー)」にしようと思って。
──なるほど、鳥のカッコウ?
藤井:そうそう。人生なんてそれぐらいで良いんですよ、“過去”を“カッコウ”って言ってるぐらいが。本当に(一同笑)。
──ちなみに藤井さんって鳥類が好きなんでしょうか?
藤井:好きですよ(と、スタジオ内にある鳥類のぬいぐるみを見せる)。つい買いすぎちゃうんですよ。
──話を戻して、「シンプルなことに気づかないで人は生きてる」とは言うものの、藤井さんも今の年齢になったから気づくこともあるのでは?
藤井:そこなのよ、絶対にありますね。50歳を超えるぐらいからかな。あんまり考える必要がないのに考えるのもアホらしいなと思って。シンプルに今日を生きる、それだけで良いのにな。そう思ったときに書いた曲で。俊美さんは俺の先を行ってる人(=先輩)で、だから声に説得力も出るのかなと思って。(曲の)流れ的にも時系列的にも繋がってて、聴くと安心するんだよね。2022年に出した自主音源をレコードにしたとき(『風景描写2022』)、奈良(美智)さんの絵が写る写真をジャケットに使わせてもらったのも同じような意味があって、全部繋がってるのかなぁ。奈良さん、キーパーソンだなぁ。
──“奈良美智さんがキーパーソン”とは?
藤井:「モメント」っていう曲は、奈良さんの展覧会を青森まで見に行ったときにすごくインスピレーションを受けて、帰りの新幹線の中で書いて帰ってきた曲なの。歌詞とメロディが1フレーズ同時に出てきて、だから奈良さんに書かせてもらったみたいな曲で。奈良さんの作品からも「今を大事にしなよ」って言われてる気がするんだよね。弾き語りでずっとやってた曲だから弾き語りで聴いてた人は(バンドアレンジに)びっくりしたと思うけど、歌詞もキャッチしてもらえたらなぁ、と。
──スピード感ありすぎで、弾き語りのイメージがまるで出てこない楽曲になりましたね。
藤井:奈良さんがパンク好きだし、奈良さんからもらったような曲だから、奈良さんが好きなパンクにしてみようかなと思ってアレンジを進めていったらこうなりました(笑)。GASTANKみたいで結構、冒険だったんだけど。
──音速ラインの曲でモッシュ・ダイブができる曲が生まれましたね。
藤井:今それを言おうとしてました、モッシュが見えるって。BRAHMANと対バンするとき用の曲ですね(一同笑)。ライブでやるとどうなるのかなぁ、音速ファンは静かな人が多いから戸惑うんだろうな。前に剛くんがライブ中にダイブしたら皆に避けられて、床に落ちたこともあるからなぁ(笑)。この曲はちょっとね、騒ぐ準備をしておいて欲しいですね。
──今もお名前が出ましたけど、大久保さんと連絡などは?
藤井:たまにしてるけど、忙しいらしくてさ。アルバムリリースのコメントももらってました、やたら真面目な文章でしたけどね。いろいろと思うところもあると思うけど、本当は(音楽を)やりたいはずだから。年をとるとバンドの再結成とかも増えるじゃない? (音速ラインも)そうなって欲しいね、俺が60歳ぐらいになった頃に(大久保が)戻ってきてくれたらいいな。無理をさせてもしょうがないし、無期限の活動休止が何年になるかは誰にも分からないけど、俺も一緒に活動休止するわけにはいかないっていう話。動かして待つしかないし、動いて良かったなっていう実感が今回のEPに全部、詰まってます。楽しい! っていうテンション感が入ってると思うから、そこが伝われば良いな。

















