KIRIAの小学生からの人生が詰まった「猫の死体と分岐点」
──なるほど。「やがて」はKIRIAさんがソロで発表していた曲で、MVを拝見しましたが、男装がカッコいいですよね。
KIRIA:ありがとうございます。1人2役。
亀:まだ見てない人は見たほうがいい。
──こちらは、もともとエレクトロニックなサウンドだった曲を、バンド・サウンドにアレンジしたパターンですね。
KIRIA:そうですね、「やがて」は、亀さんが最初の頃から「この曲すごく良い」って言ってくれてた曲です。自分の中では、大人になって、やりたいことがわからなくなったり、好きだったものへの熱意が薄くなっていってる感覚があったタイミングで、原因はなんだろう? って考えたら、日々の生活に追われ、昔みたいに、起きて唄ってギター弾いてご飯食べてを繰り返すことができるほどの余力もないっていうのが一番大きくて。こうやってちょっとずつ、自分のやりたかったこととか命かけようって思ったことに対する向き合い方が薄くなっていくのは怖い! って思って書いた曲なんですね。そこが亀さんにも響いてくれたんじゃないかと。
亀:そうですね。(KIRIAソロ曲では)「命を燃やして」と「やがて」が特に好きです。
──今回のデビュー・アルバムには入っていないですけれども、「命を燃やして」も2人でやってみましたか?
KIRIA:2人でやったことあります。
──もうほとんどラップみたいですけど、「猫の死体と分岐点」と同じく、ヒップホップを聴いている人のラップっていう感じじゃないんですよ。
KIRIA:実はラップを全く聴いたことがなくて。勉強しなきゃと思って、エミネムは聴いてみたんです。何曲か好きな曲はあったけど、その何曲かを聴いてたことがあるレベルなんで、その界隈の知識はまだまだなんです。私的にはポエトリー・リーディングのほうがチャレンジしやすかったです。
Photo:itaru watanave
──さっきも話した通り、「猫の死体と〜」はアルバム中でも異色な曲ですが、このアレンジはどうやって生み出されたのですか?
KIRIA:もう、ほぼこの状態まで一気に出来上がったのであんまり記憶がないです(笑)。それでずっと寝かされてた状態だったんですが、ソロでやるにはちょっと攻撃的すぎるので、出せる場所がどこかにあるかなと思っていて。
──それが、亀さんと一緒なら出せる! と。
KIRIA:そうですね。この「猫の死体〜」で書いてる内容って、私の小学生からの人生が詰まっていて、実は本当にあった事件というか、体験してきたことなので、フリむケバそコニカメとKIRIAの時にやっていた、別の「猫の死体」という曲でまず書かせてもらったんですけど、フリ亀は期間限定だったので、それをちゃんともう1回、今度は亀のちのちKIRIAとして、歌詞も書き直したうえでやりたいっていうのもありました。
──じゃあ、亀さんとのコラボレーションの初期段階にインスパイアされたものが発展していって、こういう形になった?
KIRIA:フリ亀の時、ずっと言いたかったけど何処で使おうか迷ってたフレーズがあって……「年明けに猫の死体を見た」っていうのと「都合がいい時だけ神に祈りたい救いたまえ救いたまえ」っていうのを書いたんです。ほんとにもう何十、何百ぐらいのレベルで死体を見てきたんですよ。超ド田舎だったんで、頻繁に猫が轢かれて死んでるんです。他に、狸とか犬とか。で、場合にもよりますけど、見かけるとそれを持ち帰っていたんですね。放置されている命の残骸っていうのが強烈で。みんなは汚いとか怖いって思うかもしれないけど、でも、誰かがやらなきゃいけないことだし。それを持って帰ってっていうことを繰り返していた。それをずっと歌に書きたくて、やっと書くことができたんです。
同じような思いをしてる人たちの心を拾いたい
──お話を聞いていると、KIRIAさんは、過去のソロ活動で、出さずに寝かせてきたものが他にもたくさんあるのでしょうか。
KIRIA:ソロだと、完璧にしなきゃっていう意識が強すぎて、作るのに時間がかかりすぎてしまい、前のアルバムから10年とか空いちゃったり(笑)。あまりにも完璧じゃないといけないというプレッシャーを自分でかけすぎて、逆にダメになっちゃうみたいなことがあって。亀さんも、ぐしゃ人間では、そういう「完璧にしなきゃ」っていうのが強いみたいで。
亀:そうですね……ぐしゃ人間だと、私がコード進行やメロディラインや変拍子や編曲に関してのこだわりが強くなりすぎてしまって。だからこその楽曲の魅力もあるのですが。そういったこだわりを一度捨てて、本当に、ただただ良い曲をフラットな気持ちで演奏したと思い、亀のちのちKIRIAを始めました。
KIRIA:自分たちに枷をつけすぎずに、もうちょっと気持ちを楽にして音楽を楽しむ感じのテンションでやろうと。だから実験的なこともどんどんやるし、曲も打ち込みとか入れたりとかして、ジャンルが本当にバラバラっていう感じですね。
亀:名前に「のちのち」と入れることで、あえて力を抜いたような緩さを出したいという意図もありました。
KIRIA:そう、本当はなんかカッコいい名前になりそうだったんだけど(笑)。
亀:でも、そうすると、また自分たちの中で「完璧じゃなきゃいけない!」みたいなプレッシャーが生じちゃう。
──なるほど。つまり、もともと2人とも完璧主義的な資質を持っていて、こう何かと格闘するような感じでキャリアを重ねてきたところ、そうではないモードでできる機会を、ここにきて掴んで、思わず盛り上がってしまったわけですね。
KIRIA:のびのびしてる。ミスっちゃいけない、とかないし。
亀:緩くやると言っても、適当に演奏するとか、そういう意味じゃなくて。新曲をもらったら100回は聴き込んだり、基本的なところはしっかりやるけれど。
KIRIA:そう、ただルールに縛られないぞっていう。
Photo:弓削ヒズミ
──そうやって、完璧主義が理由で抱え込んできたストックが、ここでどんどん花開いている状態?
KIRIA:そうですね、今もまだストックはめっちゃあるので、そういうのをちょっとずつ、こっちで使えそうだったら使う、みたいな感じにしてもらってます。Xに私が弾き語り動画を上げたら、亀さんが「あの曲良い」って言ってくれて、じゃあバンドでしようよみたいな流れで。私の曲に、ちゃんと似合う服を着せて、世間に出してくれるっていう役割を果たしてもらっている感じです。いや、ほんとにありがたい。
──お2人の相性が、ぶつかり合わないのと同時に、ゆるくやっても大丈夫っていう安心感を持てる関係性を確立できたことが大きいようですね。これはやはり、運命的な出会いと言っていいのではないでしょうか。
KIRIA:解釈違いがない、っていうのはかなり大きいかなと思います。持っている世界観が凄く近い。
──そこが軸になって安定しているから、ギター弾き語り+リードギターのデュオ編成から始まりつつ、リズム隊を加えたバンド形態にもなるし、アルバムではエレクトロニックな音も入るし、音楽面でも自由な広がりを見せているところが、とても面白いです。やっていて、これまでの音楽活動では味わえなかった楽しさを感じているのではないですか?
亀:歌の内容は、絶望と暗黒みたいな感じなんですけどね(笑)。
KIRIA:昇華していく感じ。鬱憤を。
亀:そう。自分の辛い気持ち、悲しい気持ちっていうのは曲で出して。バンド自体は楽しくできたら。
KIRIA:同じような思いをしてる人たちの心を拾いたいっていう気持ちがずっとあるので、言いたいことを言えない人の代わりに唄う。その曲を聴くことによって、自分も言えたような気分になって、ああスーッとした……って感じてくれたら嬉しい。そういう意味でも、曲は重いかもしれないけど、特にライブでは楽しんでいただきたいです。