「暁闇の終焉」も「デュミナス」も“日の目を見たシリーズ”
──亀さんとはまず「フリむケバそコニカメとKIRIA」というユニットを期間限定で2022年に始め、「まだまだもっとやってみたい」という気持ちになって、現在の「亀のちのちKIRIA」としての活動に至っているそうですね。3年前から、このデビュー・アルバムに入ってる曲を演っていたんですか?
KIRIA:「暁闇の終焉」は演ってました。これは、私が確か20歳くらいの頃に作ってから長い間、自分の中で眠らせていたものでした。バンド・サウンドのイメージだったけど、打ち込みでバンドのサウンドを作るのは苦手なんで眠らせていた。それを亀さんに渡して、ようやくちゃんとアレンジを固めたりして、日の目を見たんです。
──こんなに良い曲なのに! アルバムを最初に聴かせていただいた時、ちょっと「シングル?」と思ったりしたんですよ。
亀:私も「あ、この曲は違う界隈のほうにも刺さる可能性がある」と思って、「これはしっかりやらないとダメだ」って、ミックスもかなりこだわって厳密に調整していただいてます。
──いい意味でキャッチーですよね。その一方で、タイトルが「暁闇」なんですけども、この言葉はどこから出てきたのですか?
KIRIA:書いてる内容の解釈は基本的に聴き手に任せるようにしてるんですけど、私の中では、月のない明け方に「もうしんどいな。もういいかな……」って思うことがあって。その時の思いを歌詞を書いているうちに「暁闇の終焉」っていうタイトルになりました。
Photo:ひなつ
──他にも、KIRIAさんの中で以前から眠っていた曲はあるのでしょうか?
KIRIA:「デュミナス」は14歳の時に作ってるから、これも“日の目を見たシリーズ”です(笑)。歌詞を2カ所か3カ所だけ直したぐらいで、わりと最初に書いた時のまんまですね。
──この曲では、演歌かと思うくらいの唄いっぷりですが、KIRIAさんの、こういうボーカル・スタイルのルーツって、どんなところにあるんでしょうか。さっきYUIの名前が出ていましたけど……。
KIRIA:確かに、YUIの唄い方とはかけ離れてる(笑)。
──50代後半の世代でも、懐かしさを感じるような。
亀:山崎ハコさんとか。
KIRIA:その名前を最近よく聞くようになって……いろんな人から山崎ハコって言われるので、誰だろう? と思って。自分ではあんまり分かってなかった。
──特に聴いてきたものの影響とかではなく、気がついたら自然にこう唄っていた?
KIRIA:そうですね。感情表現としてやってたら、こういう唄い方になっちゃったのかなって。
亀:私は、山崎ハコとか森田童子とか大好きなので、すごい、こんな唄い方してる人が令和にいたんだ! って。
──なかなか他にいないですよね。しかも本人は、70年代の女性ボーカルをディグって影響を受けたとかではないという。
亀:そう、そこが凄く面白い。
オフィシャルXアカウントより
──多分、70年代を意識して、このボーカル・スタイルを選んでいたら、逆に「猫の死体と分岐点」みたいな歌はできないんじゃないかという気もします。こっちはラップっぽいですよね。
KIRIA:ラップというか、ポエトリー・リーディングですね。喋りたいことや伝えたいことが多すぎて、常に歌詞が字余りになってしまって。そんな時「ポエトリー・リーディングでやってみたら」と言われたので、調べてみて。確かにこれなら言いたいこと全部詰め込めるかもと思って作ったのが、「命を燃やして」っていうソロの曲だった。その後、この「猫の死体と分岐点」を作って、これもしばらく寝かせていた。で、亀のちのちKIRIAとしてセカンド・デモを作る時、この曲、使えそうだったら使おうって聞いてみたら、亀さんが「やりたい」と言ってくれて。それで、アルバムの中に異質な1曲が入りました。
──サウンドもエレクトロニックで。
KIRIA:そうですそうです。
亀:幅広さを見せたいっていう意識があって、このアルバムの中で必要だなって思ったので入れました。
KIRIA:いろんな実験をするのがありきだったからこそ、できたことかなって感じもしますね。もしこれが「ちゃんと方向性を決めてやるぜ」みたいな感じで始まってたら、多分「この曲はちょっと違う」ってなってしまっていたのかなと思います。でも世界観自体が、暗いことは暗いので。音は違うけれども、世界観が外れてるわけではないし、やってみたら面白いかも、ぐらいの感覚で実験的に入れることができました。