ぐしゃ人間やジョリッツなどで活動し、近年はキノコホテルのパートタイム従業員(※サポート・メンバー)も務めるギタリストの亀が、シンガーソングライターのKIRIAと組んだユニット=亀のちのちKIRIA。2年前に別名の期間限定プロジェクトとして始動したところ、超強力なパートナーシップが覚醒し、「のちのち」名義での継続を決意。そして、この6月にはデビュー・フル・アルバム『出来損ないとレッテル』がリリースされた。
KIRIAのエモーショナルなボーカル・スタイルは、「重苦しい心情に向き合う」という命題が必然的に手繰り寄せたような鮮烈な響きを持つ。一方、様々なバンドでリード・シンガーに寄り添い引き立てるサイドマンとして技能を発揮してきた亀は、実はソロでも作詞作曲するなど自身も強い表現衝動を抱えているだけに、根底から共鳴し合えるKIRIAとのコンビネーションでは、また異なるベクトルで気持ちが乗ったプレイを聴かせる。以下のインタビューを読めば、このデュオが互いに創作意欲をドライブさせる、バッチリの相性であることがよくわかるだろう。
そんな2人を核に、バンド編成をとったり、エレクトロニックなサウンドを導入したり、音楽面でもさらに自由な広がりを見せていってくれそうな彼女たちの、今後の展開に要注目だ。(Interview:鈴木喜之)
亀さんとは解釈違いが一切ない。とても世界の近い人に出会えた感じ
──6年ぐらい前に出会って、とても仲良くなったそうですが、お互いの音楽、表現者としての姿勢などに共感するところが大きかったのでしょうか?
KIRIA:(亀が妹のあうとやっている)ぐしゃ人間も重々しくて暗い表現ですけど、私も、悲しいとか辛いとか苦しいとか怖いといった感情を書いているので、そういう意味では、とても近い感覚なのかな、と感じています。
──音楽を始めたばかりの時から、自分の表現の核に、そういうダークな感情があると感じていた?
KIRIA:そうですね。人と話す時、楽しいとか嬉しいとか、何気ないことは伝えられるんですけど、悲しい、辛い、苦しいあたりを言おうとすると相手が家族でも結構すぐ泣いちゃうんです。なので喋れない、話せないってなって、それが溜まっていくから、もうじゃあ曲にしよう、みたいな感じになったのが最初です。
──音楽ならそれができるという気づきを、どのように得たのでしょう?
KIRIA:中学の頃にBUMP OF CHICKENが好きだったんです。バンプは明るいことを唄ってる曲もあるけど、結構そうじゃないものも意外とあったりして。その暗さというか、やるせない感じみたいなものが心地いい気がするし、こういうふうに表現することで、この人たちは昇華してるのかな? って思えた。じゃあ私も、「いつもは言えないことを、歌詞だったら言えるかも」と、自然と曲として形にしていった感じでした。
──それ以前から、歌を唄ったりギターを習ったりとかはしていたのですか?
KIRIA:歌を唄い始めたのは、もう小学校6年生とかで、唄うこと自体は普通にただ好きだったんです。そのうちYUIを見て、ギター持ってる女の子ってカッコいいなって思ったのがきっかけでギターを始めました。その後にBUMP OF CHICKENを知り、こういう表現の仕方をする人がいるんだと知って、自分の曲を書いて心の中を吐き出すきっかけを得たという流れです。中学2年ぐらいにはもう自分の曲を作っていました。
──なるほど。ちなみに、その他これまで影響を受けた、好きなアーティストは?
KIRIA:菅野よう子、宇多田ヒカル、ALI PROJECT、amazarashiです。
Photo:弓削ヒズミ
サポートベース:かじ(花園distance)、サポートドラム:あをい(少女式ヱリス)と共に|Photo:弓削ヒズミ
──亀さんも、好きなバンドやミュージシャンを教えてください。
亀:私はamazarashi、中学生棺桶、THEE MICHELLE GUN ELEPHANT、NUMBER GIRL、初期radiohead、The Mars Volta、SYSTEM OF A DOWN、NIRVANA、kamomekamome、envy、downy、スザンヌ・ヴェガなどいろいろと好きです。曲単位・アルバム単位で聴きこんでいるアーティストが多いです。
──それで、これまでのKIRIAさんのソロ作品を聴くと、エレクトロニックなサウンドのものが多くて、いわゆるDTMのスタイルが中心になっていると感じました。
KIRIA:はい。菅野よう子からとても影響を受けていて。中学の時に『攻殻機動隊』を見て感銘を受け、それで、Fantom-X6というシンセサイザーの機材をバイトして貯めたお金で買ったんです。15万ぐらいだったかな? それから、ちょうど同じくらいのタイミングでALI PROJECTにもハマりました。その影響もあって打ち込みを始めたんです。それまではストリートをよくしていたけど、打ち込み始めてからは亀さんと活動を始めるまで、あんまりギターには触ってなかった。主に曲作る用だったというか。
──ただ、根本のルーツがバンプなら、「バンドをやりたい」とも思いそうなものですが、KIRIAさんがずっとソロ志向なのには、何か理由があるのでしょうか?
KIRIA:確かに。バンドだよね、バンプって。
亀:1人が好きだから……?(笑)
KIRIA:1人が好きなのもあるし、そもそもそんなに他人と関わるのがあまり上手じゃないので……ほんとに世界観が合う人だったら一緒に長く続けられるけど、そうじゃないと、曲に対するこだわりもあるし、折衷案とか取れないから。自分で完結させるほうが妥協なくやれるっていうのがある。そういう意味では、亀さんとは解釈違いが一切ないんです。とても世界の近い人に出会えたっていう感じ。