限りある人生だからやりたいことは全部やっておきたい
──音楽人生としては今がピークと言っても良いほどの八面六臂の活躍ぶりで、ミュージシャン冥利に尽きると言えませんか。
KOZZY:でもちょっと忙しすぎるかな(笑)。これまでコルツとマックショウとソロを全部同時進行でやってきて、僕のやってることがどこか照準の定まらないように見える人もいたと思う。応援してくれる人たちの中には全部のライブへ来てくれる人もいれば、マックショウだけが好きな人、コルツだけが好きな人もいて、どれか一つに絞れていればもっと良かったのにと感じる人もいたかもしれない。なぜ一つのことに集中しないのかと訊かれることも多いし。でも僕は多分、もともとそういうことができないんだよ。何か一つのことをやってても他にいろんなことをやりたくなるし、どれも中途半端になるなら格好悪いけど、いろいろできるならやればいいんじゃない? と考えてしまうので。限りある人生だから、やりたいと思ったことは全部やっておきたい。コージー・イワカワ・ロックンロール・レビューも最初は苦肉の策だったけど今は安定走行できてるし、そっちが大所帯だからこそこっちのアコースティック・バラッド集はたった一人でいいかなという僕なりのバランス感覚なのかもしれない。一人で孤独にスタジオへ入って仕上げた作品だけど、それを持ってツアーを回ればみんな喜んでくれるし、どこへ行ってもこのあいだのMANDALAみたいな盛り上がりだから。まあ、たまに近隣から苦情も来るけどね。アコースティック・ライブをやるために選んだ狭い会場なのに、あまりにシンガロングが大きいから警察が来ちゃう。でもそれはともかく、こうしていろんな活動をしてる中でたった一人で音楽と向き合うという一番シンプルな形でやれてるのが有意義なんだと思う。これが原点というわけじゃないけど、自分が作ってきた曲を「よくできたな」と再確認できる場所ではある。
──再確認することで、それ以上の楽曲を作ろうという気持ちにもなりますよね。
KOZZY:やっぱりね、完璧な作品というのはなかなか作れない。アルバムを作り終わったらすぐに「次はこんな感じにしよう」と構想が浮かんでるし。メロディにしろ歌詞にしろ、これは完璧にできたなと思うものは全然ないしさ。「100メートルの恋」や「ゴールデンバット」みたいな曲をみんないいと褒めてくれるし、自分でも上手くまとまったなとは思うけど、上手くまとまってないほうがいいと感じる自分もいる。できすぎたものはどこか居心地が良くないって言うか。思い返せば、今や代表曲になっちゃった「今夜だけが」や「恋のスピードウェイ」とかはめちゃくちゃ適当に作ったんだよ。特に「恋のスピードウェイ」なんてサビしかなかったどころの話じゃなく、イントロしかなかったんだから。しかもそのイントロはキャロルじゃん、っていう(笑)。あのイントロをやりたいがために作った曲で、『フルスロットル・レッドゾーン』に入れる柱の曲はできてて、何曲か足りないので埋めていかなきゃいけないってことで入れたわけ。前からやりたいと思ってたキャロルのイントロを使った曲を無理くり作った。自分ではなんかあまりしっくりこないけどまあいいか程度の曲だったんだけど、今や定番中の定番になったからわからないものだね。シンプルでいい加減に作ったから、隙があって逆に良かったのかもしれない。
──作り込みすぎない良さがあると言うか。
KOZZY:「今夜だけが」もそうでしょ? 歌詞も何が言いたいのかよくわからないしさ(笑)。そういう曲がマックショウにはいっぱいあって、今みたいにアコギだけで唄うと余計にそんなことを感じたりもする。「この歌、結局何を言いたいんだろう? 全然言いきれてないよね」みたいなことが露呈する。ビートルズやキャロルっぽいバンドのアレンジで賄ってた部分がなくなるから。
──でも、岩川さんが唄えばマックショウの世界観に自ずとなるので何の問題もないと思いますけど。
KOZZY:歌はしっかり唄いたいと思ってる。いつもの声がちゃんと出てる時にレコーディングできるように、普段から体調も整えてるし。土日に地方を回って、帰ってきた月曜にレコーディングするのを意識したりね。ちゃんとライブ用の声が出てる時を狙って、あまりよそ行きにならない感じで録ってみるとか。
──そろそろ還暦の扉が見えてきた頃合いですが、目標みたいなものは何かありますか。
KOZZY:何も考えてないね。もうすぐ還暦になるのも気が付かなったくらい。今までどのバンドもプロジェクトも2、3年タームでずっと動いてきたから、目先のことを計画できるのは2、3年がせいぜい。今やってるロックンロール・レビューを始めるにあたってナッシュヴィルやメンフィスへ聖地巡礼の意味で訪れて、(忌野)清志郎さんやジョー・ストラマーはこんな所を訪れたんだなとか、エルヴィス(・プレスリー)はここでレコーディングしたんだなと、ルーツを確認した上でバンドを始めた。そこが大事なところで、この感じでロックンロール・レビューの新譜も作れたら良いなと。それが当面の目標かな。まだまだ面白いことがやれそうだし、今回のバラッド・シリーズもまだ続くし、昭和100年が過ぎても変わらず、歌の良さ、歌詞の良さ、メロディの良さは三位一体でお届けしていくので、ぜひ期待してほしいね。