みんなでシンガロングする曲がマックショウの代表曲になった
──ポール・マッカートニーの話が出たので言及しておきたいのですが、ウイングスに『Wings Over America』という3枚組のライブ盤があるじゃないですか。あのアナログC面のアコースティック・パートの質感が岩川さんのアコースティック・バラッド集と似ている気がしたんです。ウイングスはバンド形態のアンプラグドでしたけど、アコースティックでもロックを表現できる気概みたいな部分で相通ずるものがあるように感じます。
KOZZY:ああ、あのウイングスのライブ盤はいいよね。
──岩川さんがたった一人でバンド感を出せているのはなぜかと言うと、やはりそのリズム感に依るところが大きいのかなと。岩川さんはドラムの演奏も玄人はだしだし、ロック特有のうねりやダイナミズムに不可欠なリズム感を兼ね備えているからこそ、歌とアコギだけの最小編成でも充分にロックであるという説得力が生まれると思うんです。
KOZZY:それはあるかもしれないね。よく聴くと足でリズムを取っていたり、そこはかとなくリズムを感じられる部分があると思う。今回はミディアムでもテンポのある曲でもビートがないので、それを出すのが難しかった。ただ上手く唄えてもビートの出ないテイクになったりしてさ。作品として出来の良いものにするには、ちゃんとクリックを使ってリズム感やコード感を出して、歌もピッチがずれないようにするのが大事。もちろんそういうことを目指してやってるつもりだけど、正確さばかりに引っ張られてもダメなんだよね。やっぱりその場のノリって言うのかな、このスタジオ(ROCKSVILLE STUDIO ONE)へ来て「ああ、今日は唄ってみようかな」と思った時がベスト・タイミングでね。こういうシンプルな形態なので、マイクの電源を入れて、ギターを抱えてスイッチを押せばすぐに録れちゃう。そうやって何十テイクと録った曲もあるけど、週末のツアーの帰りでライブの余韻、余熱があるうちに録って上手くいった時が多かった。ライブでやってノリが良かったから、あの感じを忘れないうちに再現してみようとかさ。「よし、録るぞ」と気構えて落ち着いたいいテイクが録れたこともあったけど、「このあいだのライブの時のほうが良かったんだけどな……」と感じてしまうことが多かった気がする。録った後に気が変わることもあるしね。大量に録ったテイクを自分で聴き直して「ここがいまいちだな」と感じても録り直せないので、一旦寝かせて判断するんだけど、川戸のところへ「これで行くよ」と送った後に気が変わって録り直したものもあった。
──難しいところですよね。歌のピッチが正しいテイクが一番と言うわけでもないでしょうし。
KOZZY:歌詞の間違えも多くてね。自分でも当たり前のように唄っていたのを「歌詞が違うんですけど」と川戸に指摘されたりして。リリースした正規の歌詞と違うケースがけっこうあったね。
──演奏ミスがあろうと歌詞を間違えようと、マックショウの歌のスタンダード性と普遍性の高さは揺るぎないものですね。それはさる5月18日に南青山MANDALAで行なわれた『コージー・マックのアコースティック・マックショウ 昭和100年記念ワンマン』を観た時もあらためて実感したことで、オーディエンスがとにかく一緒に唄いまくる姿を見て、これこそが岩川さんの生み出した音楽に対する一番正当な評価だと思ったんです。
KOZZY:ありがたいことだよね。もうちょっと普通に聴いてもいいんじゃないかとは思うけど(笑)。だけどああやってシンガロングする代表曲とかはあらかた僕の手を離れてみんなのところへ行っちゃった感じがあるし、僕自身も「じゃあここらでみんなで唄おうぜ」みたいな気分でやってるのは確か。自分が作った曲を伝えたいと言うよりも、「みんな、はいどうぞ」って言うか(笑)。そうやってみんなで唄いやすい曲、思わず一緒に口ずさんでしまう曲がマックショウの代表曲になったんだなとは感じるね。
──マックショウのライブはオーディエンスが唄う姿を見て泣けてくるところがありますからね。
KOZZY:そうだね。MANDALAでやったライブは、バイクボーイも「唄いに行きたい」と言ってたから(笑)。来る気満々だったのに、風邪を引いちゃって来れなくなったみたいなんだけど。
──いい大人が人目を気にせず大合唱する様を見れば、何度でもアンコールに応えたくなるものですよね。
KOZZY:うん。ハコの人からもよくサービスが過剰だと言われるんだよ。何カ月か先にまたここへ来るんだし、このチケット代ならあと30分は短くしてもいいんじゃないかって言われるんだけど、つい客の期待に応えちゃう。
いろんな人たちをプロデュースしてきた成果がフィードバックした
──話の本筋とは外れてしまうかもしれませんが、MANDALAでのライブの開場中に、岩川さんの一人多重録音によるビートルズのカバーが流れていたじゃないですか。あの完コピのクオリティが凄まじくて、さりげなく恐ろしい音源を流しているなと思ったんです。
KOZZY:あれ? ビートルズなのに僕の声? みたいなね(笑)。あの音源は売ってないんですか? とよく訊かれるんだけど、もちろん非売品。「どうやってやってるの?」とかもよく訊かれるけど、どうやるも何も自分でただ演奏してるだけ。あれは趣味みたいなものでさ。みんながゴルフへ行ったりサッカーを観に行ったりするのと一緒で、ビートルズのコピーを完璧にやり遂げるのが僕の趣味。ドラムの練習から始めてね。
──山下達郎さんの一人多重録音がビーチ・ボーイズなら、岩川さんはビートルズであると。
KOZZY:あの人も半分は仕事で半分は趣味なんだろうね。僕は完全に趣味だけど(笑)。
──あのMANDALAでのライブのMCでも話していましたが、『赤』と『青』に続く色はすでに決めてあるんですか。
KOZZY:赤と青を混ぜて紫とかね。順当に行けば黄色なのかもしれないけど、マックショウは紫っぽいイメージがあるのかなと。黄色や緑は似合わないバンドかもしれない。紫の後は金や銀とかさ。
──『赤』も『青』も表ジャケットの構図はジミー・リードの名盤『ROCKIN' with REED』のジャケットからインスピレーションを受けたもので、これは川戸さんのアイデアだったとのこと。上手くハマりましたね。
KOZZY:まあ、ジミー・リードを知ってるような人が聴くアルバムではないだろうけどね(笑)。でもアコースティック・ブルースとかが好きな人には気に入ってもらえるんじゃないかな。こんなに躍動感のあるアコギの音を録れるんだ?! という驚きもあると思う。その辺はわりと注力して録ったつもりだから。とは言え、以前みたいに古いリボンマイクでテープを回して生の音を録るこだわりみたいなものは一旦置いて、楽曲やプレイ優先でフラットに録れればいいやっていうさ。まあそれでも、今回使った最新のマイクは70年代くらいのものなんだけど。やっぱり当時の機材を凌駕するものがないので、従来通りにノイマンのマイクを使って歌もギターも一発で録ってみたりした。いざ録れば3分台の短い曲ばかりだけど、録音するにあたって機材選びなどの仕込みにはだいぶ時間をかけたね。今やCDをリリースすることの意味が薄らいでるし、レコーディングに注ぐ労力や捉え方もさまざまだと思うけど、マックショウだけでも20年以上続けている僕が今みんなに聴いてもらえるものの最良の形ではある。ベストかつ一番シンプルな形なのかなと思う。
──近年はAKIRAさんやLuv-Enders、大西ユカリさんや師匠筋にあたるザ・モッズなどのプロデューサーを務めるなど他流試合も盛んですが、そうした経験がアコースティック・バラッド集の制作に活かされた部分はありますか。
KOZZY:あると思う。ちょうどこの前までアコースティック・ツアーをやってたモッズの手伝いを今もいろいろやらせてもらってるけど、50年以上の長い活動の中で国内外の高級スタジオでレコーディングするなどバブルも経験して、インディーズも経験してきた彼らが今は僕のプロデュースで何のギミックもなくレコーディングしている。このスタジオを使って練習して、少し大きい所で録音してさ。モッズも大西ユカリさんも、ここで録ったマックショウやソロの作品を聴いてもらった上でオファーを貰ってるから純粋に嬉しい。EL COYOTEという、AKIRAとケメちゃんと矢沢洋子ちゃんがやってるグループもここでレコーディング+指導してるけど(笑)、オーダーを受けた以上は断りたくないんだよね。頼まれれば何でもやりたいのでどんどん忙しくなるばかりだけど、光栄なことだと思うよ。そうしたプロデュースの仕事でレコーディングの回線をチェックしたり、次のレコーディングで使う機材のチェックとメンテナンスをする時、マイクのテストを兼ねてアコースティック・バラッドのレコーディングをしたこともあった。あと、ビートルズのコピーもね(笑)。自分の声の帯域とは全然違う女性ボーカルならではのマイクの立て方とかも勉強になるし、他人のプロデュースを受けることで学べることはたくさんある。だからと言って凄い腕のあるエンジニアになりたいわけじゃないので、全部自分の趣味に活かすって言うのかな。そんなふうにいい感じで自分の音楽にフィードバックできてると思うよ。いろんな人たちのプロデュースをしてきたからこそ余計にこのアコースティック・バラッド集はシンプルな作風になったのかもしれないし。