みんなこう言ってるけど、それって実はこうじゃない?
──それで最初に作った曲が「ロールシャッハの数奇な夢」。この曲すごくいろんなものが詰まっていますよね。シンデレラと白雪姫という有名な2大プリンセスが交差していく発想が面白いです。一般的にはキラキラ描かれているけど、現実的に見ると、妄想を生きる身分不相応なシンデレラと、ただただ愛されなかった不幸な白雪姫が人生を諦めていった姿が描かれているのかなと思いました。子供の頃からこういう視点で見ていたんですか?
五十嵐:実はあの曲は二人いるわけじゃなくて一人の曲なんです。同じ人を見て白雪姫にも見えるしシンデレラにも見えるみたいな。そういうひねくれた見方は結構昔からしてました(笑)。「いや、みんなこう言ってるけど、それって実はこうじゃない?」とか、そういうことは結構考えるタイプですね。
──それは童話に限らず?
五十嵐:童話に限らず、もうなんかいろんなことに対して深読みする。いらないところまで考えちゃうタイプかもしれない。疑り深いです(笑)。
──ロールシャッハ(テスト)って、同じ絵だけど人によって全然違うものが見える、見たいように見ていくというものですよね。この歌詞の中のシンデレラは妄想に突っ走っているというか。かたや白雪姫は、愛されない現実を諦めて毒林檎と分かっていて食べたのかなとか。そういう理不尽さみたいなものが描かれているのかと思ったのですが…この歌詞はどういう発想で書かれたんですか?
五十嵐:白雪姫とシンデレラって結構同じ要素があるお話だと前から思ってて。継母に虐げられてるとか、魔法使いからもらったものがキーとなって物語が進むとか、そういう点で結構同じ要素を持っている。『シンデレラ』とか『白雪姫』って題名がついてるから、どっちがどっちって分かるけど、もし自分がその本人だったら、自分が白雪姫かシンデレラか分からないんじゃないかなと思うんです。自分が本当は白雪姫なのにシンデレラとして生きてたら、それはすごい危ないというか、こんがらがっちゃうじゃないですけどうまくいかないし。そういうことって、でも、現実の世界でもまああることだなと思って。自分はこうだと思ってたけど、実は違うからうまくいかないとかそういうことってあるじゃないですか。そう考えると、自分はこうだとか、この世界はこうだって決めつけて突っ走ってしまうことってすごい危険だし、脆弱性を感じるなと思って、あの曲を作ったと思います。
──どっちが幸せなんだろうって思いますよね。シンデレラは周りから見たら滑稽でもあるけど、本人は妄想の世界で生きてるからもう自分で幸せにしちゃってるというか。最後のシーンの描写はすごいですね。
五十嵐:最後はもう、生きたいように生きればいいなと思って全部を放棄するじゃないですけど、役割とか固執してた考えから解き放たれるみたいなイメージで書きましたね。
──青木さんはこの曲どうですか?
青木:「ロールシャッハ」は最初会う前に送られてきて、聴いた時になんか「変だな」って思いましたね(笑)。 でも同時に、「これはいけるかもしれない」って思ったんですよね。サビがカッコよくて、分かるものを題材にしているところがすごくいいなと思って。これは人に伝わるんじゃないかなって思いましたね。詞の中では難しいこと言ってる気がするけど、いろんな人がいろんなように解釈できるから、多分書いた本人はこうだと思っていても、聴いた人がまた別の解釈をしてくれるっていうのが、幅を狭めないので一番いいと思う。っていうので、バンドをやってみたいなと再び思ったきっかけの曲でもありますね。
等価交換でしか愛してもらえない
──『シンデレラ』と『白雪姫』がモチーフの「ロールシャッハの数奇な夢」、『人魚姫』がモチーフの「海底孤城」、『長靴をはいた猫』がモチーフの「窮鼠、猫を噛む」と、今年連続リリースしたこの3曲には「そのままの自分じゃ愛されない」という思いが共通してあるように感じます。条件付きや等価交換でしか愛してもらえないというか。それは五十嵐さんの中にもある感情なんですか?
五十嵐:私、今言われるまで全然それが共通してるって知らなかったっていうか(笑)気づいてなくて。でも、そういう意識はずっと子供の頃からあったなと思って、すごいしっくりきました。
──それはどこから来ているものなんですか?
五十嵐:やっぱり転勤族でいろんなところを転々としてたからっていうのもあるかもしれないですね。あんまり一つのコミュニティで長くその関係性を築くっていうことがなかったので。最初の方って、わりかし良い顔をして当たり障りないこと言ってれば、ある程度仲良くはできるじゃないですか。だからそういうことを繰り返してると、外ヅラが良くて相手の望むことを言えて適度に愛想よくしてれば愛されるけど、そうじゃなかったら愛されないんだなみたいな思考に多分、自然となっちゃうんだと思う。
──だから童話っていうフィルターを通して作詞されているのかなって。その方が言いやすい?
五十嵐:出やすくはありますね。自分の根底を作ってるものではあるので、それを題材にすることで割とするっと出てくるっていうのはありますね。でも、いつか何かを題材にせずに自分の言葉だけで何か作ってみたいなとは思ってます。
── 一番自分が出ている曲はどれですか?
五十嵐:「魔法のランプ」は結構自分の内面をさらけ出したというか、自分の今までの人生を振り返りながら作った気がしますね。客観性が他の曲に比べて少ないというか、自分に言い聞かせるような曲です。うまく行ったこととか、人生の中で自分が誇りに思ってることとかをたまたま上手く行っただけだよとか、運が良かったからって結構思いがちなんですけど、でもそれって、自分の努力とか今まで生きてきた形があるからじゃない? って自分に言ってあげるような曲だったので、自分が表れているというか、自分のための曲というか。
──五十嵐さんが童話を教訓にして生きてきたように、ファンの方にもPompadollSの曲と一緒に強く生きていってほしいと思いますか?
五十嵐:自分の音楽が人を救うとか、誰かを救うために音楽をとか、あんまりそういうことは思えないタイプなんです。それは傲慢だなって思っちゃうんですけど。自分で決めてほしいと思いますね。曲を聴いて救われてもいいし、別に救われなくてもいいし。ただそれを聴いてどうなるか、自分がどう感じるかちゃんと自分で決めて、正当にそれを享受するということがお客さんの権利だと思うし、人間の権利だと思うから、それを大事にしてほしいなとは思いますね。
──青木さんは、五十嵐さんの世界観をどう思っています? 具体的にこの表現すごいなと思う曲などありますか?
青木:次のEPに入ってる「まえがき」っていう最後の曲があるんですけど、これも「魔法のランプ」と同じようなものを僕は感じているんですよね。「魔法のランプ」は自分の人生だったとして、「まえがき」は自分の作品のことを振り返って書いたような感じがします。この曲は童話のモチーフがないんですよね、PompadollSとして初なんですけど。童話のモチーフがない方がいいって言ってるのではなくて、童話っていうものをずっとテーマにしてきた作家が、初めて童話から逸脱して、自分の作品について振り返って書く、そのタイトルが「まえがき」っていうのがすごくいいなあって(笑)。曲を聴いてみれば分かると思います。童話というものをテーマにしている作家であること、バンドであることに向き合ってる曲だと思ったので。これはすごい良いんじゃないかなと思いましたね。
──次のEPはどんな感じですか?
青木:サウンド的な話で言うと、ロックはすごい前面に出てる気がしますね。3ヶ月連続リリースの曲と新曲3曲の抱き合わせで6曲なんですけど。3ヶ月連続リリースが結構古いロックみたいな重ための感じが多かったのと、「赤ずきんはエンドロールの夢を見るか?」っていう曲は、サウンド的には今までで一番ロックなんじゃないかなと。自分的には結構気に入っているバンドアレンジになったんですけど。あとの2つは新しい試みができていて。5曲目の「ラブソング」はPompadollSでは初めてのテンポとノリ。6曲目の「まえがき」は初めて童話から逸脱した曲っていうのがあって。この6曲は、最高に良いんじゃないかなと、僕たち的には思っているところですね。
生の、剥き出しのロックでありたい
──おそらく全員作曲できると思うんですが、PompadollSはやはり五十嵐さんの曲、世界観が前提ですか?
青木:今あえて誰かが引き継ぐ必要はないかなとは思います。やろうと思えば多分、全員できますが。ライブの入場SEとか今、オリジナルのものを作製中で、それは藝大生2人が頑張ってくれそうです。
──「ロールシャッハ」の踊らされているようなサウンドなど、歌詞の世界の再現度が高いですよね。
五十嵐:そうですね。「これはこういうことを考えて書いた曲だから、‟激情”みたいな感じで弾いて欲しいんだよね」とか、結構抽象的な感じでオーダーというか、伝えてもちゃんとその通りに表現してくれることが結構多いので、理解度はすごい深いなって思います。青木さんが編曲の主導をしてるんですけど、私が出した弾き語り案に対して、第一稿で編曲イメージを出した時に、イメージが全然違うっていうことはあんまりないです。雰囲気を汲み取るのがすごい上手いんだろうなって思いますね。再現する知識とか技術とかもあるだろうし。それはすごい助かるなと思います。特にここの間(五十嵐、青木)では言わなくてもそれが実現してるので、すごいなって思います。
──今後の構想はたくさんあるんですか?
五十嵐:もちろん。
青木:死ぬほどありますね。
──ホールでライブする日も遠くない勢いですが、例えばSEKAI NO OWARIみたいにステージに木を生やして、童話の世界を再現したコンセプチュアルなセットも出来ますよね。
青木:それももちろんやりたい。装飾、舞台芸術が、たくさんあってっていう中で楽器をやるっていうのももちろん楽しいし、見てる人はすごいインパクトがあって、「うわぁ」ってなる気もするけども、PompadollSがPompadollSとして生の楽器だけを使ってロックをやっているっていうこともちゃんと表現はしたいなと思ってるんで、逆に広いホールだけど簡素なステージでっていうのも、最初の方はやっておきたいなと思いますね。
──やっぱりロックが主体にあるんですね。
青木:僕はそうですね。むしろシンプルなものをカッコイイと思う方なので。Arctic Monkeysみたいな。こんなバカでかいところでやってるのに、アンプしか置いてないじゃないかっていうのも逆にカッコイイんじゃないかなって思います。
五十嵐:めちゃくちゃ派手なこともしたいですけどね。レーザーとか出して(笑)。バンドやる上で、ファンタジー要素とロック要素のどっちかが比重重すぎちゃいけないと思ってて。それは私の好みじゃないからなんですけど。自分たちにとっていい塩梅の演出をこれから模索していきたいなとは思いますね。
──サウンドもストリングスを入れてシンフォニックにしたりとか、いろいろできそうですよね。
青木:まあ、ゆくゆくはですよね。それこそミッシェルとかブランキーがそうですけど、生の、剥き出しのロックみたいな感じではありたいなと思うので、あんまり今のところは選択肢にないんですよね。