白鳥のように優雅に泳いで見せて水面下で必死にもがいている
東雲:そういったジョウさんのユニセックスな魅力はとても羨ましいですよ。ワタクシは自分の脳味噌の半分は男脳であると自認しているんですけど、マリアンヌ東雲と言えばセクシーというイメージを周囲に持たれることが多いんです。単に実演(ライブ)中に下着が見えるとか、そういうどうでもいいことに起因しているんでしょうけど。デビューした頃なんて少年のように痩せていて、セクシーのかけらもないいでたちだったのに(笑)。見てくださるファンの方が期待するイメージと本来の自分自身とではどうしてもズレが出てきてしまうものなんです。それはもう仕方のないことなので、今となっては特に気にせず割り切っていますし、結局ニアリーイコールだとも思っていますけど。
浜崎:私は「演じてる」とか言われると凄い違和感がある。
東雲:別に演じてなんかいないわよね。演技ならここまで長く続かないだろうし。
浜崎:演技じゃなくて私自身が掛け値のない表現をしているだけですから。
東雲:女優でもないのに終わらないエチュードを17年もやっていたら、ボロボロになって精神崩壊するわよ(笑)。
浜崎:3月の『戦慄の雛祭り』でキノコホテルさんとexist†traceさんのライブを観させてもらって、これは生き様だなと思ったんですよね。それぞれの女性の生き様を見せつけられて凄い刺激を受けたし、思わずニコニコしちゃいました(笑)。どちらも余りに格好良くて。
東雲:ワタクシと容子とジョウさんは同じフロントマンだけど全然違うタイプですよね。だけど互いに長いキャリアを積み重ねて独自の境地に達しつつあるし、ここまで続けてきたからこそ確立できたものがあるんだと思う。
浜崎:言葉は悪いですけど、ぽっと出の人にこんなことがやれるわけないよという自負はありますよね。
東雲:20年近くの間に解散したり休止したりするバンドをさんざん見てきた中で、それでも自分は生き残ってやるんだと血反吐を吐く思いでやってきた結果ですからね。
浜崎:ウチらはもはや叩き上げの域に達してるよね。一見、優雅に泳ぐ白鳥でも水面下では足をバタバタばたつかせて必死にもがいてるのと同じ(笑)。
東雲:もがくのをやめたら沈んでしまいますので。白鳥のように優雅でいるのも大変よね。
浜崎:だからこの3組の共通項と言えば、血反吐を吐きながらバンドを続けているってことだよね(笑)。
──ここまでバンドを続けてこられたのは、やはり意地の部分が大きいですか。
東雲:ワタクシは、ワタクシの才能を世の中が認めるまでやってやるという、ただそれだけの気持ちです。
浜崎:素晴らしい。
東雲:キノコホテルはワタクシのエゴと才能の結晶なんですけど、まあワタクシのこのキャラクターというか人格のせいなのか、認めたがらない奴らが一定数いるのよね。まあその気持ちもわからなくはないけど(笑)。長くやってきてそれはずっと感じている。そういう人たちのほとんどはキノコホテルをまともに聴いたこともなかったりするんですけど(笑)。もっと世の中に認めさせるまではやめたくないです。
浜崎:私は、アーバンギャルドはもっと早くにブレイクして、とっくに解散するものだと思っていたんです。だけど一向にブレイクしないから解散できなくて続いてる(笑)。私も東雲さんと近い部分があって、アーバンギャルドは白鳥のように一見優雅だけど実は大変なことをやっているのに全然気づかれてないという忸怩たる思いがあるんです。いろんな後輩たちに抜かされたり、自分たちとは縁遠い音楽が支持される中で世の中にもっと認めてもらいたい欲求が強くあるんですよね。それでもし私が自分の人生を捧げてきたアーバンギャルドのボーカルを辞めることになったとしたら、自分の人生とは一体何だったんだろう? と私自身が感じてしまう気がして。バンドの存在をもっと世に知らしめたい気持ち以上に、私が自分自身であるためにアーバンギャルドをやり続けたい気持ちが一番強いですね。
ジョウ:ジョウは多分、諦めが悪いんだと思います(笑)。
浜崎:それって東雲さんと私と近いですよね(笑)。
東雲:だって諦めたくないものね。この程度のことで諦めてたまるか畜生! って毎日思ってるわよ。家でゴロゴロしながら(笑)。
ジョウ:この20年の間に何度も壁にぶつかってきて、その都度どうしよう、もうできないかもしれない…と思ったことが何度もあるんですけど、そのたびにメンバーやスタッフが一緒にその時の最善の答えを見つけてくれて、それならもうちょっとやってみようと思えて。自分はその繰り返しでここまで続けてこられた気がします。それは結局、諦めが悪いってことなんじゃないかと思いますね(笑)。
浜崎:そう簡単に結果なんて出るものじゃないし、諦めちゃダメですよ。
東雲:本気で無理だと思うのなら逃げ出すべき、という風潮になっていますけど逃げたところで何もないんです。ワタクシの場合はね。
浜崎:音楽をやめちゃったら、私はもう死ぬしかないと思ってる。それくらいアーバンギャルドに対して自分の人生に重きを置いてきたんです。
東雲:そうよね。それだけ身を削り、あらゆるものを犠牲にして自己表現と対峙してきたのだから。だけどそのぶん得るものが大きかったから頑張ってこれたんだと思う。ほんの僅差かもしれないけど、失ったものより得たもののほうが多いからまだやめたくない。
浜崎:それとやっぱり、まだファンの方々がいてくれること。それが一番大きいです。
ジョウ:そうですよね。応援してくれる人たちのことを思えば、立ち止まるのはここじゃないよねと思えますから。
東雲:本当に有難いことですね。聴いてくださる方々あってのわれわれですし。
浜崎:ファンのことを考えると、アーバンギャルドをやめる、やめないはもはや自分の意志だけでは決められない。自分たちの表現で他人様の人生を巻き込んでいるところもあるので。
miko:ファンの存在は私もバンドを続けてこられた理由の一つです。あと、めちゃくちゃ格好いい音楽を届けたい一心でやってきたのもありますね。きっと皆さんもそうだと思うんですけど、自分やメンバーが一番のexist†traceのファンだと思ってやっているんです。
浜崎:よくわかります。自分たちが聴きたい音楽を自分たちで作ってるところはありますよね。
miko:そうなんですよ。聴きたい音楽を作って観たいライブをやって、私だったらこんなパフォーマンスをしたらドキドキするなあ…とか考えてステージで動いたり。いちファンとしてもっと凄いexist†traceを観たい=やりたいと言うか。心の中にいるファンの自分の望みを叶えてあげる、その行為が目の前にいるファンのみんなが喜ぶことに繋がるんですよね。次はこんなことをやりたい、あれもやってみたい、今度はこういうことがやれれば素敵なんじゃないか…その連続でここまで来た感じです。それは自分のパフォーマンスや音楽のことばかりじゃなく、ジョウの衣装でこんな帽子を被って唄ったら格好いいんじゃないかとかも含めて。そういうジョウの出立ちを私が見たいというファンの視点が常にあるんです。
東雲:ジョウさんとmikoさんの関係性が羨ましくてしょうがないわ。バンドメンバーが5人いて全員が味方って凄いことなんですよ。ワタクシは全員に敵対視されましたから(笑)。
浜崎:東雲さん、落ち着こう(笑)。