コロナ禍を耐え抜いたライブハウスに捧げる「グロリア」
──「日常の積み重ね」、なるほど~。以前『SILENT SUNRISE』でインタビューさせてもらったとき、shinoさんは、「かつては小森君が書いた歌詞を読んで景色を浮かべてアレンジを考えてたけど、前作から歌詞をまったく意識せず、音だけに反応してアレンジを考えるようになった」と言っていましたよね。今はどうでしょう?
shino:今はまた、完全に歌詞から自分なりにイメージを考えて、そこから演奏をしていくようになりました。小森君の歌詞だけじゃなく、遊佐さん、豚汁の演奏に合わせて、歌詞とメロディの景色に合わせて自分のアレンジを考えるようになった。そうやって出来上がるのが壊れかけのテープレコーダーズだなって。
小森:なんかね、先ほど言ったようにメッセージがあるわけではなく自分は媒介で。能動的なものではないけど、日々の変化は曲に現れたとは思います。
──じゃ、4作目『broken world & pray the rock'n roll』は東日本大震災の後のアルバムで、アルバム制作時はライブハウスは自粛ムードがあって、そういう中で、「表現したい! ロックンロールをやりたい!」って感情が出ていたと思うんです。今回は感情ではなくて自分は媒介。この変化はなぜなんでしょう?
小森:あぁ、確かにあの頃は自己から発するものが強かったですね。それから時間を経ていつの頃からか変わりましたね。なんで変わったのかな……。東日本大震災の後、自分の思いを発したけど、その後も続く困難な社会情勢の中で、自分や自分たちのことだけを考えていたらいけないっていうのはハッキリしたと思うんです。特にコロナが起きてからは。ライブハウスのことも考えなきゃいけない。ライブハウスや今まで関わってきた人たち、バンド、みんなが元通りに…、元通りっていうか、僕たちが、みんなが築いてきたものを損なわないために何をすればいいか。それを考えたとき、自分たちだけが良ければいいとか自分のバンドが上手くやれればいいとか、そういう意識はまったくなくて。なんていうか、自分だけでは何もできない、関わってくれた人たちがいるから何かができる、何かを作れるっていう。「グロリア」はライブのMCで「ライブハウスに捧げます」って言うこともあるし。
──今ちょっとジーンときてます(笑)。ホント、コロナでライブハウスの大切さは実感しましたしね。
豚汁:コロナによってバンドをやれなくなった人もいましたしね。だからこそ、やれる人はやらないと。
shino:自分たちの手が届く範囲でしかできないですけどね。できるところはやっていこうと。
小森:僕らはライブをやっていたほうだと思うんですけど、当然集客も減りました。でも小さな営みは続けられた。
shino:配信だったり、いろいろ誘ってくれる人たちがいたのが凄くありがたかった。気にかけてくれていたりして、繋がりを途切れさせずにいることができた。
小森:ありがたかったですね。何かしら声かけていただいて。一緒にやりましょうっていう、やりたい人たちの小さな営みがあって、それは今後も大事にしたいものなんだって確信したところもある。
──いろんな人との関わりがあったからこそ。
小森:そうですね。だから自分のメッセージを発するのとは、ちょっと違った歌詞になったんだと思います。
遊佐春菜(vocal, organ)
──遊佐さんはコロナの時期に感じたことは?
遊佐:私は…、バンド仲間でも、家族でも、親しい人でも、こんなに考えが違うんだと。ネガティブな意味じゃなく。ポジティブな意味でもないですけど(笑)。違う考えをどう尊重するのか、何を軸としていけばいいのか。それも正解だしあれも正解だし、じゃ自分はどうやっていきたいのか? っていうのを凄く考えさせられて。ライブの告知ひとつにしても、お客さんを呼んでいい状況なのかどうなのか。
──そうでしたよね。ライブをやるにしてもPCR検査をしなきゃいけなかったり、検査したことを表明したり。そもそもライブを開催することが正しいのか間違っているのかわからない。
遊佐:そうでしたよね。私はライブをするにあたって、お客さんにもいろんな考え方の人がいるからちゃんと説明はしなきゃダメだなって思っていて。やっぱり不安がある人をベースに考えたほうがいいなって。
──あぁ、不安がある人をベースに考えるってとても大事だと思います。
遊佐:人それぞれの背景があって環境も違うし。やりたいことができなくなって。本来の気持ちとは違うことをやらなければいけなかったり。それまでは考えなくていいことを凄く考えました。
──そういう時期に考えたことが、今作にも今後にも何かしら繋がっていくと思います?
遊佐:考えたことだったり考えるという姿勢だったりは、たぶん何かしらは繋がっていくと思います。
後ろ向きの精神性と前向きなビート、明るい曲調ほど歌詞は暗く
──今作、歌詞は暗いけど(笑)サウンドがストレートですよね。切なさはあるけどストレートでポップ。あとなんていうか、堂々としてるんですよ。1曲目の「lost paradise」はドカーンとした感じが凄くいい(笑)。
小森:ドカーンとしてますか(笑)。ロックバンドの1曲目はドカーンといかないと(笑)。この8曲の中でどれが1曲目かって考えたらコレですよね。アルバムが始まるぞっていうのを一番出せる曲。確かに歌詞は喪失感がありますね。タイトルからして「lost paradise」だし。精神性は後ろ向き、ビート前向き(笑)。
──2曲目のミディアムな「10年前、10年後」。ドラム、気持ちいいですね~。
小森:この曲のドラムいいですよね。どれもいいけど、この曲が一番いいと思う。
豚汁:そうすか! 最初はもうちょっとごちゃごちゃしてたんですけど、アレンジ詰めていくにつれて音数が減っていって。どんどんシンプルに。今作は歌が強いし、小森さんの歌、遊佐さんの歌、2人の声が強くあるのでドラムはなるべく余計なことはせずに。でも弱々しくならないように。録ったものを聴いて、その繰り返しで残ったものが今回のドラムで。あとベースとの絡みですよね。
──ベースはメロディでグルーヴを出す感じがいいですよね。
shino:あ、ありがとうございます。考えて弾いてはいるんですけど、あんまり褒められたことないんで(笑)。
豚汁:「10年前、10年後」はドラムが音抜いてるんで、ベースが色を付けていく感じですよね。
shino(bass)
──4曲目「The Waste Land」はグイグイと激しいですね。
小森:「The Waste Land」は一番激しいですね。
──小森さん、遊佐さん、2人の声はこんなに似てたっけ?
小森:よく言われますね。1枚目(『聴こえる』2009年)を聴くと全然違うんですけど、なんでですかね。私はたぶん男性の中では高いほうで遊佐さんは女性の中では低いほうで。だんだん重なってきちゃって。
──遊佐さんのパートも増えてますよね。
小森:配分が半々ぐらいになってきてる。
──2人が似てる声だからこそ、同じことを違う角度から歌っているようでもあり。
遊佐:喋ってる声と心の声みたいな。
──そうそう。似てるからこそ面白い効果がある。
小森:遊佐さんは私が作った通りに歌ってはいるんだけど、指定外のところをいきなり歌い出してそれを採用したり。「グロリア」もサビで主じゃないメロディ、カウンターメロディが入ってるんですけど、それも遊佐さんが自ずと歌い始めて。そういうのを活かしました。
──広がりのある「ai」、そして「ノスタルジア」はメチャメチャ可愛い曲で。
小森:そうですね。「ノスタルジア」はシャッフルビートで。コンパクトでキュッとした曲ですね。でも歌詞がメチャメチャ暗い(笑)。人から大丈夫? って言われました(笑)。
shino:メロディもコード進行もリズムも、もう歌詞と両極端になるほどポップに仕上げたほうがいいんじゃないかって。
小森:最初にメロディとコード進行があって最初の段階から明るさがあってポップになっていくだろうなって予想できた曲。でもそこに乗せる歌詞は明るくある必要はないなと。昔からのコンセプトというか癖というか、明るい曲調ほど私の歌詞は暗い(笑)。なんでかはわからないんですけど。
shino:メロディ自体が古くさいし、そこにポップでロックな感じにしたら、よけい古くささが出るから楽しいんじゃないかと(笑)。たとえばゴールデン街とか思い出横丁とか。古くさいけど楽しいじゃないですか(笑)。
──なるほど(笑)。
小森:shinoさんのノスタルジアですね(笑)。