7thアルバム『楽園から遠く離れて』をリリースした壊れかけのテープレコーダーズ。本作を聴きながら、私は気づいたら口ずさんでいた。気づいたら元気が出ていた。
ポップなサウンドには切なさや儚さや温もりがあり、シンプルだからこそ空間を活かした広がりがあり、何より地に足を着けた迷いのなさを感じる。だが小森清貴による歌詞は懐かしさやノスタルジーというより喪失感や寂寥感といった暗さを帯びている。本作は過ぎてしまった時間、無くなってしまった景色なんかとしっかり向き合ったアルバムで、だから強さを身につけたんじゃないか。自然体から出てくる強さ。指針となった曲であり、「ライブハウスに捧げた曲です」とライブのMCで言うことがあるという「グロリア」は、コロナ禍での失われてしまった時間と景色を真っ直ぐ見つめたからこその強さと美しさがある。『楽園から遠く離れて』には、消えそうになっても微かに確かに輝く光がある。
これまでdisk union / DIW内のレーベル、ハヤシライスレコード(1st)、MY BEST! RECORDS(2nd~6th)からリリースしてきたが、本作は自主制作で自主レーベルからリリース。これまで同様ゲストはおらず、メンバー4人と録音・ミックスの三木肇で制作された。小森清貴(vocal, guitar)、遊佐春菜(vocal, organ)、shino(bass)、高橋豚汁(drums)のメンバー4人にインタビュー。(Interview:遠藤妙子)
感情から零れ落ちたものを見つけて歌詞にする
──7作目の『楽園から遠く離れて』がリリースされました。まず遡りますが、4作目の『broken world & pray the rock'n roll』(2014年)は壊れかけのテープレコーダーズ(以下、壊れかけ)のR&Rはコレだ! っていう意志表明のような熱いアルバムで、次の『SILENT SUNRISE』(2016年)はポップで瑞々しく身体が自然に動くようなものでした。で、前作『End of the Innocent Age』(2020年)がポップを更に追求したような。
小森:そうでしたね。
豚汁:僕は前作が壊れかけのテープレコーダーズに入って初のアルバムで。
──ただ『End of the Innocent Age』を作った後、コロナによって状況が変わってしまった。その頃の気持ちは?
小森:前作のレコーディングが2019年、リリースが2020年5月なので、まさにコロナとバッティングですよね。レコーディングしてる時期はまだそんなでもなかったんですが、リリース告知をする頃になったら、もう社会のムードはライブはやらないほういいって感じで。自分たちも迷いが生じましたね。レコ発ツアーも組んで、やれたライブもあるんですけど概ねはキャンセルで。
──今更コロナの話をしてますが、今更にしたくない思いを今作『楽園から遠く離れて』には感じたんですよ。コロナに限らず過去の思い出を今更にしたくないっていう。懐かしさや後悔や喪失感が感じられるアルバムで。
小森:コロナに関しては、忘れちゃいけないことだと思うし、教訓にしていこうとは思ってます。
shino:でも俺は今更にしたいですよ。
──もうコロナは終わったこと?
shino:いや、ひきずってるから今更にしたい。
遊佐:今は戻ったとしても、生活が変わらなかった人なんていないと思いますしね。
小森:前作がコロナが始まってちょっとした頃にリリースされて、今作『楽園から遠く離れて』は2020年代の4年間、コロナと重なってる時期に曲を作ってレコーディングしたんです。その期間の生活であったり考えであったりが自ずと零れ落ちて、アルバムに納められたように思います。狙ったわけではないんですけど、自然に。
小森清貴(vocal, guitar)
──「零れ落ちた」っていいですね。小森さんの歌詞は、この感情を歌うんだ! ではなく、感情から零れ落ちたものを見つけて歌詞にしている感じがします。
小森:そうかもしれないです。あの、私には歌いたいことはないんで。媒介となっているだけというか…。世の中の出来事や景色を検知するだけで。自分の思いを歌いたいとか伝えたいというのとは、ちょっと違うんですよ。
shino:俺らはそれを検知する(笑)。
豚汁:でもそれでネガティブになる要素はどこにもないんですよ。
──実際、私は今作を聴いて元気になったんですね。最初は暗い歌詞だなぁって思ったけど(笑)。この時代に生きていたら喪失感がないほうが嘘のような気がして、喪失感としっかり向き合っていて、だから聴いたら元気になったのかな? って考えつつ。
豚汁:確かに小森さんの視線に、僕は以前は内省的なイメージがあったんですけど、今回、外向きの言葉が増えた気がします。
──コロナで引きこもっていても外向きになれた?
小森:コロナの時期、自分の仕事はガッツリとステイホームはなく通勤していたので引きこもることはなく。ただライブはできなくなったしスタジオも入れなくなった。そういう時期に出来た曲が「グロリア」で。一度目の緊急事態宣言が出た時期に出来た曲です。なんか、一度断絶が生まれたと感じたんです。それゆえに外に対する渇望みたいなものが歌になった可能性はありますね。
shino:俺はその頃、特に何も考えずに散歩しまくってたなぁ(笑)。散歩は音楽に関係あるか?
小森:あるかもしれない。あの時期、生活環境が変わらなかった人なんてたぶんいないし。変化の中で、みんなそれまでにはない何かを自然に感じながら生きていたと思うし。そういうものが何かしら曲や演奏に出ているかもしれない。
shino:散歩で凄い仲良くなった猫がいて。散歩してるとどこからかニャーって現れて。でも小学生の女の子のライバルが現れて。その子が猫を可愛がってると邪魔しちゃダメだなって近寄れなくて。そろそろ終わったかなって行ったらまだ猫を撫でてて(笑)。そういう日常の積み重ねが景色になっていった気がする。