レコーディング中のPANTAは至って明るく元気だった
──アキマさんは今回、レコーディング・プロデューサーを務めていらっしゃいますが、どんな経緯で参加することになったんですか。
アキマ:最初は田原さんからレコーディングしたいという話をいただきました。PANTAの体調は逐一聞いていて、いろいろと制約がある中でのレコーディングになると。僕としては、果たしてその状態でフルアルバムを一枚録りきれるのか? という疑問もあったんだけど、そこはみんな暗黙の了解と言うか、PANTA自身も同じ考えだったと思うんですよ。これはPANTAの遺作になってしまうと思ったし、ならば余計、絶対に納得のいくクオリティで残したかったので凄く悩んだけど、僕の自宅から近いスタジオでレコーディングできることもあって参加を決めたんです。凄く融通の効くスタジオだし、ブースがいっぱいあるからPANTAが希望していた“せーの!”で録ることもできたし。近所だから僕のアンプ機材も気軽に持ち込めたしね。それに、客観的な立場の人間がいないとちゃんとしたレコーディングができない雰囲気にもなっていたので。
──PANTAさんの体力的にも時間的にも、セルフプロデュースというわけにはいかなかったでしょうしね。
アキマ:PANTAに任せたら、お菓子を食べながらお喋りして1日が終わっちゃう可能性があったから(笑)。
田原:アキマさんは学校の先生みたいでしたよね。「はい、そろそろ行きまーす!」と適宜に現場を仕切ってくださって。
──メンバーもスタッフもこれが頭脳警察として最後のレコーディングになるかもしれないと考えていたということは、だいぶ張り詰めた空気の中で制作が進行していったんですか。
TOSHI:そんなこともなかった。これが最後だという意識はなかったからね。
田原:悲壮感みたいなものはなかったですよ。むしろ、このアルバムを完成させたことで奇跡的に完治するんじゃないか!? とすら考えていました。医者に告知された余命期間はすでに超えていたし、レコーディング中のPANTAさん本人は至って明るく元気でしたから。音もどんどん良いものが録れていましたし。その作業を通じて希望を抱いていたので、この調子ならライブもやれると思って2024年2月4日のスケジュールまで押さえておいたんです。
アキマ:レコーディング中のPANTAは凄く元気で、病人感はゼロでしたね。歌もしっかりと唄えていたし、レコーディングが進むに従ってPANTAはどんどん元気になっていったんです。目に見えて回復していっているのがわかったし、僕らも悲壮感はまるでありませんでした。
──おおくぼさんが作曲した「RUNNING IN 6DAYS」、宮田さんが作曲した「風の向こうに」、澤さんが作曲した「宝石箱」はどれも、PANTAさんが以前、バイク雑誌へ寄稿した歌詞が使われているとか。
田原:『MASSIMO』というバイク雑誌ですね。PANTAさんに言われて掻き集めました。
──ということは、澤さんも宮田さんも詞先で曲作りをしたわけですね。
澤:そうです。詞先で曲を作るのはこれが初めてだったし、そもそも頭脳警察のアルバムに自分の作曲した曲が入っていいのか? とも思ったんです。でも入れていいと言われているからには、それに相応しい曲を絶対に作らなきゃいけないという使命感が凄くありました。「宝石箱」は結果的に完成するまで凄くお待たせしちゃったんですが、自分としてはセルフオマージュ的要素を盛り込んだつもりなんです。『時代はサーカスの象にのって』という寺山修司さんの戯曲を元にPANTAさんが曲を付けたように、あの曲から受けたインスパイアを僕なりの解釈で詰め込んでみたと言うか。そのことをPANTAさんには伝えられなかったんですけどね。頭脳警察から受けた影響を自分なりに解釈して曲作りができたら面白いだろうなと思って。
──「宝石箱」は高揚感のある曲調で、歌詞と相俟って希望に満ちたニュアンスの楽曲に仕上がりましたね。
澤:強いメッセージ性に溢れた歌詞なので、曲調も明るくしたかったんです。
若いメンバーに曲作りを依頼したPANTAの意向
──「風の向こうに」はどことなく「スホーイの後に」を彷彿とさせる曲ですね。
宮田:それが自分なりのセルフオマージュ感なんです。「スホーイの後に」のもうどうなっちゃってもいいような自由な構成と言うか(笑)、ああいう枠にとらわれないPANTAさんの曲作りの精神が好きだし、今回はテンポの早い、ノリの良い曲が少なかったのでそういうタイプの曲を作ろうと考えたんです。
──ボーカルとコーラスのサビの掛け合いが耳に残るし、バンドの一体感もよく出ていますね。
宮田:あの掛け合いは曲作りの段階から考えていました。と言うのも、リハーサルでもライブでもコーラスをいっぱいやってほしいというリクエストがPANTAさんからあったんです。「この曲はコーラスを入れて」とその場で突然言われるんですけど、そんなの急にはできないと思って(笑)。そういう注文をよく受けていたので、掛け合いのある曲を作ろうと思ったんです。
──「東京オオカミ」でも「吠え続けろ」というサビで聴けるコーラスが印象的ですよね。
宮田:あのアレンジでもコーラスを入れてみました。竜ちゃんと2人で考えて、「こんなのどうですか?」とPANTAさんにお伺いを立てて。「ソンムの原に」とか僕がアレンジした曲は基本的にそんな感じです。
──どこか中期ビートルズを想起させる、サイケデリックとアジアのテイストが入り混じった「雨ざらしの文明」のアレンジも宮田さんですか?
宮田:あのアレンジは竜ちゃんですね。
澤:オリエンタルなニュアンスを出してみようとアレンジして、今回はそのアルバム・バージョンとして収録しました。『絶景かな』のEPに入れた3曲(「絶景かな」、「雨ざらしの文明」、「ソンムの原に」)はどれも新たに録り直したんです。
──その3曲はどれも、今回のアルバム・バージョンのほうが歌もアンサンブルも良さが増していますね。
澤:今度のほうが断然いいですね。
田原:EPの音源は、コロナ禍で映画(『zk/頭脳警察50 未来への鼓動』)のために急遽録ることになったライブ・バージョンみたいなものでしたからね。コロナでロックダウン宣言が東京で出た日にラママで録ったものなので。
──「ドライブ」の作詞をPANTAさんではなく、作曲した宮田さんが作詞まで手掛けているのは異例中の異例と言えますよね。
宮田:3、4年くらい前に頭脳警察用の新曲を作ろうという話になって、準備していた曲なんです。何度かPANTAさんの運転する車に乗せてもらって、そのときにPANTAさんと話したことなどをヒントにして歌詞に盛り込んでみました。歌詞をPANTAさんに見せたら「ちょっとこっちに寄せてくれたんだね」と言われたんですけど、歌を録る段階では「この曲は岳が唄ったほうがいいかもしれないな」とぼそぼそ話していましたね。結果としてこの「ドライブ」はアルバムの中ですとんと景色を変えるところがあって、自分でも好きな曲ですね。
アキマ:うん。いいフックになっているよね。
宮田:凄くシンプルな構成の曲だからかもしれないですね。
──ということは、数年前に頭脳警察の楽曲コンペみたいなものがメンバー内であったんですか。
田原:そういうわけでもなくて、若いメンバーに積極的に曲作りをしてほしいという意向がPANTAさんの中であったんです。曲作りだけではなく、たとえば今回は収録を見合わせた「海闊天空」は竜ちゃんが唄っているし、PANTAさんはボーカル自体を任せてもいいとすら考えていました。PANTAさんと竜ちゃんの“隼”というユニットで竜ちゃんの作った「遠まわりして帰ろう」をPANTAさんが唄ったり、PANTAさんとおおくぼさんの“PANTA et KeiOkubo”というユニットでおおくぼさんの作った「カナリア」をPANTAさんが唄ったりと、若手3人の自作曲を唄ったり、一緒に作曲する行為をPANTAさんは純粋に楽しんでいたんです。それを頭脳警察でもやることに対して大きな意義を感じていたと思います。
──そういう流れを、頭脳警察のオリジナル・メンバーであるTOSHIさんはどう見ていたのでしょう?
TOSHI:若いメンバーが書いてきた曲はどれもいいし、従来の頭脳警察とも違和感が全くないよね。「ドライブ」もPANTAが唄えば本人が書いた曲みたいに聴こえるし、竜ちゃんの作った「宝石箱」もこのアルバムの中で全く違和感なく存在しているし。