子供以上に真剣に遊んでいる
――会う前と実際にお会いして印象が変わった部分はありましたか。
宮川:初めてお会いしたとき、あまりにもチャーミングな方なので、「何故今まで誰も角野さんのドキュメンタリーを撮らなかったんだろう。実はすごく気難しい方だったりして?」とかえって心配になったのですが(笑)、実際は想像以上に素敵な方で、裏切られることはなかったです。
――角野さんほど活躍されている方だと、作家としてもそうですし、活躍されている女性という面でもオファーがありそうですが意外です。
宮川:そうですよね。角野さんも別に出たがりというわけではないですから、たまたまそんな機会がなかっただけかもしれません。今回の密着取材は「なんだか、おもしろそう」と思って、遊びの延長のような感覚で受けてくださったのかなと思います。
――好奇心が旺盛な方ですね。
宮川:凄くミーハーなんです(笑)。取材に伺うといつも大谷翔平選手をTVで見ていらして、「最近、ダルビッシュから乗り換えたの!」なんて大笑いされて(笑)。
――いいですね。
宮川:流行っていると聞けば、とりあえず触れてみる方なんです。その尽きせぬ好奇心は凄いです。
――執筆部屋にMACがあるのも驚きました。
宮川:使いこなされてますよ。メールもLINEもどんどん来ますから。
――基本に世代を超えて通じるものがあって、そこに時代に合わせたものをプラスしている。だから、今の子供たちに支持されているんでしょうね。
宮川:ミーハーだけれども、時代に合わせようとか子供にウケようとか思っていない。私もこの4年間、角野作品を片っ端から読みましたが、「きっとこうなるんだろうな」という予想通りの展開には絶対にならない。「ええーそうなるの?」「ここからどうなっちゃうの?」が続いていくんです。角野さんは、構成がどうとかではなく、自分にとって気持ちがいいかどうか、書いていて楽しかどうかを大事に、自由に書いているから、そういう物語になるんだと思います。
――劇中でもおっしゃられてました。
宮川:そこは、密着してよくわかりました。子供は凄く正直だから、つまらないと1ページも先に進んでくれない。角野栄子が書いた本かどうかとか、子供達には関係ないですよね。角野さんも「いつも真剣勝負です。」と。子供以上に真剣に遊んでいるんだと思います。
――間近で角野さんの創作活動に触れ、影響を受けたことはありましたか。
宮川:「心を動かして暮らす」ということでしょうか。トンビが鳴き交わすのを見たら「何を話しているんだろう」と考え、海辺で茶碗のかけらを拾ったら「どこの誰が使っていた食器なんだろう」と想像をめぐらせる。「強いてワクワクする」という言い方をされていましたが、そういう心の持ち方は今からでもすぐに真似できますし、私もそのようでありたいと思いました。日常の何気ない出来事も、想像力によって、どんなふうにも輝かせることができる。それが角野さんのクリエイションに繋がっているんだと思います。
――だからこそ続けられるということですね。
音楽に引っ張られるように番組が出来る
宮川:せっかくLOFTさんなので音楽の話もしていいですか。
――ぜひ。
宮川:今回、ロンドン在住の気鋭の作曲家・藤倉大さんに音楽を担当していただいきました。藤倉さんが全編の映画音楽を担当されたのは初めてなんです。
――作品の空気感に凄くあっていたので意外です。何作も経験されているのかと思っていました。
宮川:藤倉さんには番組を立ち上げる際、「TV番組のテーマ音楽を作っていただきたいのですが、そういう仕事に関心はありますか。」と、角野さんのインスタやインタビュー記事のリンクも添えてメールしたんです。すると藤倉さんは角野さんから即インスピレーションが湧いたらしく、なんと翌日にはデモ音源が届いたんです。それはまだ撮影が始まるか始まらないかくらいの頃で。
――そんな初期から。
宮川:藤倉さんから届いた曲を聴いて、「私が作ろうとしているのはこういう番組なんだ。」と世界観を指し示してもらったように感じました。カメラマンにも「これがテーマ音楽です。」と聞いてもらうと、瞬時に世界観を共有出来ました。編集時に編集さんに聞いてもらった際も、「なるほど」と、すぐさまその音楽に合わせてOP映像を繋いでくださったんです。音楽に引っ張られるように番組を作っていくという、稀有な経験をできました。
――凄い体験。
宮川:その後も藤倉さんに、「角野さんのこの作品の朗読に合う曲を」とか、「こういうインタビューに合う曲を」とかリクエストすると、瞬く間に曲が届くんです。藤倉さんは「角野さんと角野さんの作品がインスピレーションの泉になった。」と言うのですが、それにしても驚異的でした。そして作中のクライマックスともいえるルイジニョさんとの再会シーンは、映像ができあがってから、当て書きしていただいたんです。
――だから、あれだけシーンと曲がマッチしていたんですね。
宮川:角野さんと藤倉さん、そして、ナレーションの宮﨑あおいさん、三人の天才に引っ張られてできた作品です。ぜひ音楽にも注目して観ていただきたいと思っています。
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