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INTERVIEW

トップインタビュー石井麻木(写真家)- 20年間一貫した、心と心で被写体と向き合う"写心"の眼差し

20年間一貫した、心と心で被写体と向き合う“写心”の眼差し

2022.09.23

大きな転機となったカンボジアでの経験

──カメラを通して、いろんなものを見ていろんな経験をして。

石井:17歳の頃は、写真というのは自分の心が写るんだってことに驚いて、それだけだったんですけど、だんだん人を撮らせてもらうようになって、向き合うとはどういうことかを知って。人を撮らせていただくのは、一番楽しいし、一番難しいし、一番怖いんです。ファインダー越しの数秒間、数分間でもぐったりするぐらいのエネルギーを使う。

──個展ではカンボジアの写真もスライドショーで見られます。カンボジアの経験は大きかったでしょうね。

石井:はい。それはもう。とても大きな、転機となった経験です。カンボジアに初めて訪れたのは2009年。地雷原と呼ばれるところに初めて足を踏み入れて。そこらじゅうに地雷が埋まってる、でもそこにしか住む場所がない人がいて。明日にでも一家心中を考えているってご夫婦に出会って。2人とも片脚を失っていて仕事もない。日雇いの仕事を見つけられればその日のご飯は食べられるっていう、本当に一日一日を、文字通り一日一日を生きておられて。何かできないだろうかって帰りの飛行機でもずっと考えていたら、仲間がNPOを立ち上げようって。それで、地雷原を4ヘクタール購入して、そこの地雷を全部撤去して。

──凄い。命がけですよね。

石井:はい。命を落とすこともあり得ますって書かれた書類にサインして。その4ヘクタールから地雷がふたつ見つかって撤去しました。たったふたつでも、もしかしたら起こってしまったかもしれないふたつの悲しみを防げたかもしれないと思って。で、地雷を撤去した場所にオーガニックコットンの種を植えて、そこに暮らす地雷被害者の人たちが収穫して、もともとカンボジアの伝統だった手紡ぎ糸と織物を復活させて。「足がなくても手が使える! できることがあった!」って喜んでくれて。

──仕事をしてもらうっていうのがいいですよね。それこそ尊重、尊厳ですよね。

石井:そうですよね。自分たちの力で収入を得る、それって人間の尊厳ですよね。ただ与えられるだけではなく、仕事をするってことで、人間として大事な部分を取り戻すことができるんじゃないかと。彼らが織ったものを、ストールやタオルやハンカチといった製品にして日本で販売し、その収益を全額彼らに届ける。カンボジアには2009年から2017年まで毎年行っていました。その後は日本のオーガニック企業と繋げることができたので役割を終え、NPOを閉じました。

──写真を撮ることが目的でもあった?

石井:カメラは待っていきましたが撮るために行ったんじゃなく、何かできることはないか、そればかり考えてました。撮ることには何かを残せる役割があるっていうのは後で気づかされたことで。

──そして写真を撮っていきますが、最初は迷いがありました?

石井:ありました、凄く。最初は足を失った方にむやみにカメラを向けるのは、とてもじゃないけどできなくて。もしそれで人が傷ついてしまうなら撮らないほうがいい、撮りたくない。カメラを暴力には絶対にしたくない。そう思っていたのですが、子どもたちが、「写してー! 写してー!」って。そして足を失った方たちも自ら笑顔を向けてくださり。

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──みんな表情豊かで、凄くいい笑顔ですよね。

石井:子どもたちもあんな笑顔なのは、カメラを初めて見たからなんですよ。「それ何? 何?」ってみんな寄ってくる。子どもだけじゃなくおばあちゃんも。「写して! 写して!」って。で、紙焼きした写真を次に行ったときに持っていったら、「初めて見たー!」って、一枚の写真を裏返して見たり透かして見たり。凄く喜んでくれて。

──過酷な場所であっても、カメラは人を笑顔にできるんだって。

石井:そうなんですよ! 暴力じゃなく、笑顔にすることができた。ただ、過酷な場所ではあるんですけど、みんな100%で生きてるんです。子どもたちなんか本当に。ゲームもおもちゃもない。遊びの道具はぼろぼろの段ボール。一枚の穴のあいた段ボールで一日中遊んでるんです。段ボールに乗って滑ったり、メコン川に飛び込んで朝から日が暮れるまで遊んだり。それを見て、凄く豊かだなって。何もなければないほど、この子たちの中には何もかもがあるんだって。これが本来の生きる力なんだって。かっこいいと思ったんです。子どもたちの真っ直ぐでキラキラした眼。なんかもう、全部見抜かれてるような気持ちになって。こっちも夢中でシャッターを切ってました。

──もちろん、戦争や内紛などあってはいけないんだけど、そこで生活せざるを得ない人に対して同情や哀れみではなく、なんていうか…、生きる姿と向き合うというか…。

石井:そうなんです。先入観だったり、安全なところにいる自分の状況を重ねるからなのか、過酷な状況でかわいそうって思ってしまいがちだけれど、彼らは彼らの100%で生きてるんです。そこと向き合いたいくて。

──それこそ尊重ですよね。

石井:そう思います。

小さな画面で見る「画像」ではなく、紙焼きの「写真」を見てほしい

──今回、カンボジアの写真も見ることができて良かったです!

石井:良かったです! カンボジアの写真展を2011年の3月に開催予定で、設営しているそのときに東日本大震災が起きたんです。

──わ、そうだったんですか。

石井:それまでカンボジアの写真展を各地でやっていて、次は東京開催っていうタイミングでその設営中に。写真展は一旦中止にして。そこから東北に向かうようになって。東北とカンボジアは全然違うんですけど、重なってしまって。そこにしか今いる場所がないっていう、選択肢がほぼない状態というのが…。自分に何かできないかって考えて。そのときに、「この状況を、写して伝えてほしい」って、避難所の方から声をいただけて。それが写真にできることだって気づかされたんです。

──津波で家が流されて、軽トラックで生活されていたご夫婦と出会ったことも…。

石井:そうなんです。着の身着のまま避難し、軽トラックで1カ月以上も寝泊りされていたご夫婦と出会って、「写真もアルバムも全て流されてしまった。新しい一歩を踏み出したい。最初の一枚を撮ってもらえませんか」って声をかけていただき。カメラに向けてくださったのはやわらかく素敵な笑顔で。

──なんか、凄いですよね。人間って凄い。

石井:でね、もうひとつ凄い出来事があるんです。東日本大震災の後、カンボジアの人たちが「大丈夫か?」ってすぐに連絡をくれたんですよ! 村中で義援金を集めたって言って、8万円を送ってくれたんです。地雷原で暮らす彼らの年収を超える金額なんです。もう大金ですよ。働いて働いて得た貴重な8万円を、お守りと一緒に届けてくれて。もう、その気持ちが、堪らないですよね。金額じゃない、想いの大きさに涙が止まりませんでした。自分の明日がどうなるかわからないのに、遠い日本の顔も知らない人たちのために。日本は寒いんじゃないか? って、きっと想像して。大切に避難所に届けに行って、凄く喜んで受け取ってくれて。「こんなにも尊い8万円は初めてだ」って。もう、人って凄いですよね。人の心って凄い。人の心を信じ続けたい。それが東北の活動を続ける理由にもなってます。

──はぁ、凄い話を聞かせてくれてありがとうございます! 『20年の眼』は麻木さんの原点であり、現在であり、未来の予感なのですね。

石井:ありがとうございます。この10年間、全国をまわっている東北の写真展『3.11からの手紙/音の声』は「伝えたい」写真展なので、ありのままを写したものをありのまま伝える写真展で。私の中では震災を作品とかアートにはしたくなくて、ドキュメンタリーなんです。今回の『20年の眼』は自分の原点であり作品、アートとしての個展で。ただただ作品を「見てほしい」っていう気持ちです。小さな画面で見る「画像」ではない、紙焼きの「写真」を見てほしいです。

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──麻木さんの写真は幅広いんだけど、でも麻木さんの「眼」をどの写真にも感じました。やっぱり麻木さんの写真だー! って(笑)。

石井:自分でも、自分の目線、眼差しは、本当に変わってないんだなって思いました。改めて20年間の写真を見るといろいろ思い出して。その時々の自分の心が蘇ってくるんですけど、本当に大事にしているものを、大事な気持ちを、その時々でちゃんと写してこれていたんだって。前に身体を壊してカメラを持てなくなったとき、カメラを置くことを本気で考えた時期があって、実際、一時期カメラを置かせていただいたのですが、そうすると今度は心が壊れてしまって。写したいのに写せない、そんな苦しいことはなくて。なので今は身体と相談しながら本当に写したいものだけを写させていただいていますが、本当にどうしてもカメラが持てなくなる日が来るまでは、この先も惹かれるものを写せる限り写し続けていられたら幸せです。

LIVE INFOライブ情報

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THE GALLERY 企画展
石井麻木写真展 “20年の眼”
Maki Ishii Photo Exhibition “20years”
2022年9月29日(木)~10月12日(水)※日曜休館
10:30~18:30(最終日は15:00まで)
※詳細はこちら
 

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追加開催決定!
石井麻木写真展 “20年の眼”
Maki Ishii Photo Exhibition “20years”
2022年10月19日(水)~10月25日(火)
10:00~19:00(最終日は18:00まで)
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