乗り越えてしまうと「こんなくだらないことだったんだな」と思えてしまいます
――作中で気になったこと点でいうと「システム」に対しての考え方です。日和がいう「システムは乗っかてしまえば楽なモノのはずなのに。」という台詞が印象的でした。
市井:自分で物事を考えなくなるのは怖いなと思っているんです。以前、TVを見ていた際に「なぜ支持するんですか。」みたいなインタビューがあって、「いま主流だから」「ほかを知らないから」と答えている方がいて、怖いなと思ったんです。そういうことはほかにも沢山あるなと感じていたので出た台詞になります。
――システムというものは過去の経験から作られたものですが、それが今に合っているわけではないですからね。時代やその時・その人の状況によっては、システム通りにすると悪くなることもありますから。
市井:そうなんです。
――今作では同性愛のカップルだったり、パートナーがずっと入院していて一緒にいれないけどお互いに通じ合っていたり、結婚に限らず繋がっていることの良さを打ち出しているのも深いなと感じました。
市井:どういう形がいいかは人それぞれで、結婚が最適解かと言われればそういうわけではない方もいますからね。
――好きだから結婚しなければいけないという訳ではないですからね。田村夫妻は子供もいないですし、二人とも働いていますから、お互いが納得できるのであれば離婚してもいいんですよね。そんな中でスグに離婚とならず、システムに対して疑問を持つ、危機にどう対峙するかを模索している二人の姿が人間らしくていいなと思いました。
市井:ありがとうございます。
――猛禽類が一度ツガイになると離れないけどフクロウは違うというのも今作を象徴していましたね。田村裕次郎の「俺たちよりひどい。」というのもいい落ちでした。オシドリもずっとツガイが変わらないと勘違いされていますけど実は違いますからね。
市井:実は毎年違うらしいですね。
――夫婦をフクロウが見ている姿にちょっとしたホラー感もあって作品にいい緊張感がでていました。フクロウにしようというのは最初から予定していたのですか。
市井:はい。チャーリーは、ホームセンターのペットコーナーで売れ残っているのを独身時代の日和が飼ったものなんです。
――そうなんですね。
市井:『犬も食わねどチャーリーは笑う』の小説版もあって、そこではチャーリーを飼った経緯など少し前のことと、映画の少し先の物語も書いているんです。
――その話を伺うと小説も読みたくなりますね。
市井:ぜひ。映画と合わせて読んでいただけると嬉しいですね。
――監督が考える結婚の良さ・難しさは何ですか。
市井:難しいですね。裕次郎の「こんなくだらないことを聞いてほしかった、話してほしかった」という台詞が僕の本音かもしれないですね。僕らの夫婦は本当にくだらないことを話している関係なんですけど、そういうことを話して笑い合えるというのは素敵だなと思っています。お互いに経験したことを伝えたいと思える人がいることは良いなと思うんです。それが全てかな。
――いいですね。
市井:今は同居していますけど、単身赴任だった期間も長かったんです。一緒にいない時間も多かったからこそ、単純にこんなくだらないことを話し合える相手が居るというだけでありがたいなと思います。難しさは何でしょうね。パッとは思いつかないんですね。もちろん、危機というか不穏な空気が出ていた時期もありますけど。乗り越えてしまうと「こんなくだらないことだったんだな」と思えてしまいますね。
――田村夫婦からもそういう空気感を感じました。
市井:ありがとうございます。みなさんもお互いを振り返るきっかけになってくれると嬉しいですね。
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