実体験を元に漫画家という夢を追いかける姿を描いた漫画『俺とSEXすれば売れる』。壁にぶつかりながらもまっすぐに夢を追う姿は多くの読者に共感を生んだ。時を経て映画化された本作はどのような思いを込めて制作されたのかを原作者の香穂と主演を務める青山泰菜に聞いた。
[interview:柏木 聡(LOFT/PLUS ONE)]
脚本を読んでも全く違和感はなかった
――『俺と○○○すれば売れる(以下、俺マル)』はいつ頃、映画化したいと連絡があったのですか。
香穂:2021年7月くらいでした。「『俺マル』を映画化したいというお話が来ているんですけど、どうしますか。香穂さんの一存で決まります。」という連絡が編集部から突然きたんです。それで「大変光栄で嬉しい事なので、ぜひお願いします。」と言ったその日の夕方に脚本が届きました。
――制作サイドにぜひ映画化したいという気持ちがあって準備していて、あとは許可をもらえばくらいだったんですね。
香穂:その日のうちに脚本が届くことはないと思うので、ビックリしました。
――そうですよね。青山泰菜さんにお話があったのはいつ頃ですか。
青山泰菜:最初に森岡利行監督から『俺マル』を撮りたいと聞いたのは2021年春頃でした。
――香穂先生にお話が行く前だったんですね。
青山:その時は「この作品を知っている。」と聞かれたくらいでした。私も元々原作ファンなので「知ってます。読んでいました。」とお話したら、「この主人公、泰菜に似てない?」って言われました。そこで「決まったわけじゃないけど、映画化したいんだよね。」と聞いていて、その後あの話どうなったのかなと思っていたら「8月撮るよ。」とご連絡をいただいた形ですね。
――自分が描いた漫画の映像化、映画化では監督・脚本家など新しい目線が入りますが脚本を読まれていかがでしたか。
香穂:森岡監督は原作リスペクトされる方ということを伺っていたのですが、それは本当で脚本を読んでも全く違和感はなかったです。こちらから修正してほしいということもほぼなかったです。
――漫画と映画では媒体の違いはありますが、漫画がそのまま実写になったように感じました。
香穂:そうですよね。キャラクターを大事にしてくださっている、さすがだなと思いました。
――原作を読まれていたということですが、最初に読まれた際はどうでしたか。
青山:私が原作を初めて読んだのは何年か前でした。なので、昔こういうこともあったなではなく、「香穂の気持ちわかる、本当にそうなんだよね。」と感じられる作品でした。セクハラに限らず、女性には夢を追う時にぶち当たる壁があるじゃないですか。
――結婚・出産など幸せなことからでも、一度立ち止まることをもとめられてしまいますよね。
青山:当時、芸能のお仕事もしていましたがアルバイトもしていて、男性が多い職場だったんです。その時に恋愛へ気持ちが大きく傾くことがあったので、そういう面でも気持ちが解るので、共感しながら読んでいました。
――目標があるとはいえ、不安になるタイミングはありますから。その時に支えてくれる人が欲しいとなりますよね。
青山:そうですね。
――本作は“マヨナカキネマ”というレーベルの3作品目ですが、その中に入るというお話はされていたのですか。
香穂:女性に向けての作品というお話は聞いていました。元々、独立した企画に「若い人に向けて」という共通のテーマがあったので、その同じ思いをより強く伝えられるように“マヨナカキネマ”というレーベルにされたと伺いました。“マヨナカキネマ”のコンセプトからこの作品をと始まったわけではないみたいです。
――みなさんそれぞれが「若い人に向けての作品を作りたい。」という思いが偶然重なったということなんですね。
香穂:そうですね。
自然と香穂と同じ意識でいれました
――青山さんと香穂先生は役作りの際にお話されたことなどあったのでしょうか。
青山:実は、作品について「ここはどういう気持ちだったんですか。」というようなお話はしていないんです。セリフも原作とほとんど変わっていないのもあって台本を覚えるのに時間もかからなかったです。私は元々原作を読んでいたので「あ、これあのシーンだ。」みたいな形で、現場でも画がイメージできました。漫画を読んでいて香穂さんと共通するなと感じる部分もたくさんあったので、特別役作りをしたということがなかったです。自然体で私が思うまま演じました。衣装も私から提案することもあって、それを見た香穂さんから「私が居るみたいでした。」というお言葉をいただきました(笑)。
――最高の誉め言葉ですね。
青山:現場でも色味や服の感じも同じものを着ていることがあって、「私、間違っていなかったんだ。」と思いました。特別、作品についての理解を深める時間を設けたわけではないですが、自然と香穂と同じ意識でいれました。
――素晴らしい。夢を追いかける、自分のやりたいことを実現するために奮闘する、というのはお二人に共通しているので自然と入ってきたということなんです。
香穂:そうですね。
――香穂先生も青山さんも同性だからわかる部分もあるかと思います。森岡監督は男性なので細かいニュアンスで受け取り方が違ってくる部分もあるのではと思いますが、撮影の中でアドバイスされたことなどあったのでしょうか。
青山:森岡監督は比較的女性の心理について理解してくださっている方なので、「なんで、女はこうなんだ。」ということはなかったです。それよりも「わかる、わかる。」と理解してくださっているなという感動がありました。
香穂:脚本に関しては先ほどお話した通りほぼ直しなしでした。私は原作と映画は別物とも思っていますが、森岡監督は凄く原作を大事にしてくださる方で、女性の気持ちも大事にしてくださっているなと感じました。ただ、1点だけ希望を伝えたところがありました。
――それは何ですか。
香穂:南の部屋に行ったシーンで、布団の柄が可愛くないというところです。
青山:(笑)。
香穂:それもスグに対応してくださって、可愛くしてくださいました。修正をお願いしたのはそれくらいです。
――そういう意見はありがたかったと思います。映画も漫画も視覚で楽しむエンタメで、画がとても大事ですから。作品全体の統一感も出せますからね。
香穂:はい。