この喰い合わせの悪いさを考えないといけない
――付き合っている人も良くない雰囲気ですしね。
川瀬:割かし表にはいない人たちですよね。裏通りを歩かざる負えない、追いやられた人たちもいますからね。飲み屋のシーンなんかはヨシキからの希望としてそういう人たちにしようとあったんです。
高橋:あの店はユニークで雑多な人たちが集まる場として描いています。しかし深間が数年後に帰ってきたときにはそうではなくなっている。
――箱庭を守るために排斥していましたからね。
川瀬:これは異論反論があると思いますが、場所によっては花壇をおいて路上生活者が居られなくするということを行っているそうです。どちらが合っている・間違っているではなく、これは映画の中に盛り込むべきテーマだと思ったんです。もちろん、路上生活者が居ない世界の方がいいに決まっていますが、そこを選択しなければいけなかった人たちも居る。この喰い合わせの悪さを考えないといけない、まさに今ディストピア的ではあるのかなと。
――臭い物に蓋をする感じになっているということですね。
川瀬:新宿とかヨシキとよく飲み歩いていたので、凄くそういうことをビビッドに感じていました。富士見町はどこにでも広がっている気はします。
――その種は誰しもが持っていて、正しいと思うことをしていく中で弱者を虐げてしまうということですね。今作では女性も虐げられている描写があり、男尊女卑の醜悪さが描かれていましたが、最後に女は強いと表現されていてスカッしました。
高橋:そこはジャンル映画的な落とし所として持ってきています。が、そのシーンでも描かれているように「女が強い」というよりかは、性別を問わず強い人もいればそうでない人もいる、という感覚は出したいと思いました。戦うだけでなく逃げるのが正解の場合も多い。ただ男尊女卑に関しては、それがあたかも「当たり前」のように考えている人がビックリするほど多いじゃないですか。エスタブリッシュメント層で、立場のあるオッサンほどその傾向が高いと思いますが。
――分かります。
高橋:女の人とその「強さ」に関しては、最後だけでなくたとえば映画の前半、サラリーマン二人組を殴るところでは、深間自身は「ひどいことをされている杏奈を助けた」という気持ちでいるわけです。でも杏奈にしてみたらそんな風には全然思ってなくて、逆にちょっと迷惑くらいの気持ちでいる。暴力で「お前を守る」みたいな価値観が全然届いていないという風に描いています。
――「深間さんまたやっちゃったよ。」みたいな感じでしたね(笑)。
川瀬:でも、あのシーンを撮影しているときヨシキは「あのサラリーマンに腹が立ったから川ちゃんがやってくれて清々した。」って言ってたよ。「許せんと思ったら川ちゃんが殴ってくれたからさ。」って、そのマッチポンプ感は最高に面白かった(笑)。
高橋:だって見てたらムカついちゃって(笑)。演技が真に迫ってたんですよ!
――分かります。あの場面も金を払っているから偉いという選民思想ですよね。なら、お前は一万・二万で奴隷になるのかよって。
高橋:本当にそう思います。
川瀬:かつてアンナは太っていたらしいことを同級生だったサラリーマンが揶揄するじゃないですか。努力して変わったことを揶揄したり、人のやりたいことに横やり入れて何か言うのはカチンときますよね。
――無意識にやってしまう人が多いですよね。自分もそういうことをしてしまっているんだろうなと反省してしまいました。LOFTは幸いにして自分が趣味としていないことに熱狂している人と会うことが多いので、そういう世界もあるよねと勉強させていただけるのでありがたい環境です。
川瀬:それにしても、エクストリームな人が多いですよね。
――突き抜けている人はいろいろな経験をされているので、凄く気を使っていただける腰の低い方ばかりなんです。
高橋:自分がメジャー側だと信じて疑わない人ほど往々にしてヤな感じになるんじゃないですかね。
――ただ、昔と違ってマイノリティな趣味でもコミュニティを作れるので、大勢だと勘違いをしてしまう方も中にはいらっしゃいますね。そこは暴走する市民とも繋がっているところがあると思います。思想が近い人と集まって暴走する集団になるという表現は刺さる内容だと思いました。
高橋:ありがとうございます。
「やかましい映画になったね」と言われてしまいました(笑)
――今作は音楽・音にもかなりコダワリがあるということですが。
高橋:音楽は中原昌也さんと渡邊琢磨さんにお願いしました。お二方にまったく異なる方向性の音楽を作っていただいたことで面白いサウンドトラックになったと思います。ちなみに映画の音楽を作るときにはよく、「テンプ・トラック」といって、イメージを伝えるために仮で既存の曲をつけるということをやったりしますが、基本的に『激怒』ではそれをやっていません。
――そうなんですか。
高橋:びっくりするような、面白くて厚みのあるサントラを作っていただいて本当に嬉しいです。かつての、たとえば60年代や70年代くらいの映画音楽は今と比べてもっと振り幅が広かった気もしますよね。実験的なものも含め。
――過去の映画作品を参考にするということが今ほど多くなかった時代だったんですね。
高橋:ところが『スター・ウォーズ』などを手掛けたジョン・ウィリアムスの映画音楽が大人気を博したこともあって、オーケストラによる交響曲然としたものがその後の主流になってきます。もちろんそうは言ってもいろんな潮流があり作曲家がいるわけで、そう言い切ってしまうと語弊がありますが、本作には他の映画で耳にしたことのないような音楽も盛り込めたらいいなと思っていました。音楽を作っていただく上では、多少は希望を述べたりもしていますが基本はお任せしています。映画を観た音楽家お二人の解釈が曲となって出てきたものを聴くのはエキサイティングな体験で、新たな発見もあり面白かったです。
――そういう不確定要素からの刺激があったんですね。
高橋:「こういう感じの曲にしてください」と、イメージして既存の曲をお渡しして、それによく似た曲が出てくるというのは予定調和的であまり面白くないんじゃないかとぼくは思います。今回は本当にそういう意味でも意外性や驚きに満ちたサウンドトラックになって本当に良かったです。5.1チャンネルにリミックスするときにも中原さんに立ち会っていただきましたが、「そこまでやるか」というほど低音をウーファーに回しています。
――いいですね。
高橋:劇場でその重低音ミックスも楽しんでいただければと思います。
――劇場で映画を観ることは、画だけではなく音を体感することも魅力なので良いですね。耳だけでなく皮膚でもびりびりと音の響きを感じられる楽しいです。
高橋:音響効果も凄くこだわってやっていただいています。たとえばアンビエント音というか、環境音やかすかな環境ノイズのようなものもシーンごとにそれぞれ変えて意味を持たせたりしています。音楽と音響効果の重なりも多く、厚みがある音が実現しました。中原さんもミックス作業のときに「やかましい映画になったね」と言っておられました(笑)。
――最高の誉め言葉ですね。
高橋:ほんとにそれは嬉しかったので、ぜひ観客の皆さんにもその「やかましさ」を体感してほしいです!
©映画『激怒』製作委員会