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INTERVIEW

トップインタビューMomoka Kagamiya(レヴュー俳優)- みんながそれぞれの不幸せを抱えて生きている。不幸でいることは特別かっこいいことではない。

みんながそれぞれの不幸せを抱えて生きている。不幸でいることは特別かっこいいことではない。

2021.06.09

不幸でいることは特別かっこいいことではない

──特技に「人の心を開くこと」と書いてありましたが、自宅を解放をしてまで他人のケアをしたいとか、人の心の動きや心理に興味をもたれたきっかけはありますか。

Momoka:一人で幸せになることがいやなんです。小さいころからキリスト教の教育を受けたからかな…信者にはならなかったんですけど。隣人愛のようなものがありますね。自分はそんなに幸せにならなくていいし、幸せの見つけ方はすでに知っているからほっといてくれって。逆に幸せを見つけにくい人に、「いや、それって案外近くにありましてねえ……」って声をかけたくなるというか。人が幸せになっていく過程を見るのが好きなんです。まわりがハッピーだと自分も落ち着くし、まわりが不幸だと自分も脅かされるし。わたしの幸せのために、みんな幸せになってくれ、って思います。でも実は、もともとは「破滅」っていう言葉が好きな人間だったんです。

──破滅から幸せを願うひとへ?! どういう過程があって心境が180度変化されたんですか。

Momoka:コロナウイルスが影響してると思います。世界がみんなあっさり不幸になってしまった。不幸は自分のものだったのに(笑)。とにかく自分のなかで革命があったんですよね。もともと母親が「わたしのことなどいいから、世界が幸せになってほしい」ってマリア様みたいなひとで、我が子のことは褒めてくれなかったですけど(笑)。

──世界愛はあるのに実の子どもへの愛は薄いっていう、子どもとしてはつらい家庭環境のなかで卑屈になりきらなかったMomokaさんの底力というか、表現への熱意はすごいなと改めて思います。

Momoka:きっと母親は博愛主義者すぎて、家庭より世界や宇宙を見てしまったんでしょうね。ただ、父親の事業が失敗して十数億の借金を背負ったので、一家離散をして夜逃げをして、自分は親から捨てられているんですよ。そうしないと家族みんな生きていけなくなって。そこから、一度きりの人生だしもうどうにでもなれって思ってしまって、「破滅」という言葉がこの世でいちばん好きな言葉になったんですけど。芸術家としては生活が退廃的で破滅的なほうが素晴らしいものを生み出す傾向にあるので、自分ではこれが芸術家の生き方だよなって安心もしたんです。

──「表現者は不幸であれ」、みたいな風潮ってありますよね。

Momoka:そうそう! だから誰よりも不幸になってやる! ってくらいの気持ちだったんですけど、コロナであっけなくみんなが不幸になってしまって。

──不幸はわたしが一手に背負っていたのに、と(笑)。

Momoka:それなのに、みんなが不幸になってるじゃないか! って(笑)。幸せそうに見えた人たちまで病んでしまったりするのを見て、自分のなかで考えが急に変わったんですよね。シュールな話しですけど。不幸でいることは特別かっこいいことじゃないぞって気がついたんです。芸術家であっても、破滅的な生活を追求してまで生きることはそんなに面白いことじゃないし、このままだと人生を無駄にしそうだなって。だから、みんなが不幸に見舞われる世の中で、自分は救済する側にまわろうと思ったんです。

──地を這うところから、手を差し出す側に変わったんですね。

Momoka:お前何様だよって感じですけど(笑)。これまでは、人が密になっている場所で、人の汗や体臭や涙や鼻水を誘いながら、踊り演じ舞うことが生きがいだったけれど、それがコロナの影響でできなくなってひきこもりにならざるをえない期間があって。その間は自分も例外なくずっと家にいたから、思考が内に内にいったんでしょうね。

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──外からの刺激が強制的に得られなくなった時期ですよね。不幸ではなくなることは、表現をする側として不安ではなかったですか?

Momoka:破滅的な芸術家をずっとお手本にしてきたし、自分が目指しているものは世紀末芸術のデカダンだったはずなのにどんどん逸れてきたなとは思ったんですけど、でも、破滅的じゃなければものを生み出せない芸術家はしょぼいと思い始めたんです。どんな状況でもそのときの自分自身や社会や時代を素直に吸収していいものを生み出すのがほんとうの芸術家だって思ったんですよ。自分はいつまでもグズグズしていられないなと切り替わったんです。

──「不幸じゃなくても作品をつくることができる」っていうことはぜひいろんな表現者に伝わってほしいなと感じます。泳ぎ続けないと死ぬみたいな気持ちはすごく共感しますけど、休まないと続かないですし、本人が倒れたら意味がないですから。

Momoka:ほんとうにそうですよ、続かない。大切な仕事もできなくなってしまう。これまでは自分のことを悲劇のヒロインだと勘違いしていたけれど、違ったんです。みんながそれぞれに悩みがあって、それぞれの不幸せを抱えて、それでも生きているんだっていうのをつぶさに感じたので不幸になってほしくない。だから自分も、縁のある現場をひとつひとつ良いものにしていくために、きちんと制作期間をとって、クオリティの高いものをお見せするっていうことを大切にしています。なんなら、幸せな今の方がクオリティの高いものを作れるようになったなって、生意気ですが自負もありますし。無理にスケジュールを詰め込んで自分を追い詰めることをしなくなったら、演じ方も安定しました。

──安定した心の土台があって、作品も力強くなっていくことは素敵な相乗効果ですよね。まだレヴューを見たことのない方や、これから初めて足を運ぶ方へぜひメッセージをお願いします。

Momoka:他の演者さんを見に来たら偶然自分を目撃してしまった方も、すべてご縁だと思っています。ソロレヴューという演目をやっている生命体はMomoka Kagamiyaだけかもしれないので、目撃してしまった方にもご縁を感じてもらえたらうれしいです。

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17:55-18:25
 
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