こんな状況でもライブハウスを必要とする人たちがいる
──この1年以上、皆さんブッキングにはご苦労されていると思いますが、くじけず出演オファーを続ける心の拠り所とはどんなものなのでしょうか。
樋口:コロナ禍前と比べてブッキングがしづらくなったのは間違いなくありますが、動きを止めずに攻めの姿勢でポジティブに活動するバンドやシンガー・ソングライターも少なからずいらっしゃるんです。そういう出演者の方々にすごく救われた1年でしたね。この状況ではとてもライブをできないと断られるケースはもちろん多々ありますけど、それぞれの事情もあるし、そこで無理にお願いしても仕方ないですし、このコロナ禍だからこそできる活動を前向きにやっている方々にお声がけさせてもらってますね。今は無理でも「落ち着いた頃にはぜひLOFTに出させてください」とお話しできている方々も多いですし。
長尾:僕らも同じような状況ですね。コロナの中でもあえて活動をしていくというバンドと一緒にイベントを組んでいます。コロナになる前はツアー・バンドを迎えることが多かったけど、今は逆に地元のバンドばかりで組むことが多くなりました。それで地元のバンドがすごく育ってきた印象が強くて、この1年で20組ほど地元のバンドが増えた気がします。
倉坂:地方のライブハウスなので、長尾さんが言うようにツアー・バンドが来ないのはけっこう痛手なんですよ。ツアー・バンドが来てくれて、それを地元バンドが迎え打つという図式がこれまでの主流で、それができなくなくなってしまって。去年はそれでも出たいという地元バンドに出てもらって「今はこれで頑張ろうや!」と耐え忍んでました。今年に入ってからは去年の6月にやるはずだったknaveの18周年公演を1月に振り替えて派手にやって、「そろそろ持ち直して爆発させていこうぜ!」みたいな感じやったのに大阪ではコロナの感染者数が激増してしまって…。年が明けて、去年頑張ってくれた地元バンドに恩返しするで!と意気込んでいたのに何も返してあげられない状況になってしまったのがすごく歯痒かったし、僕自身もそこで思考が停止してしまって。そのタイミングで樋口さんからオンラインでライブハウスをつなぐ配信ライブをやりましょうと提案を受けて、そうだ、こんな状況でも前向きにいろいろと仕掛けていかなあかんよなあと思いまして。だから今回の企画はバンドも店舗もそうですけど、実は僕が一番救ってもらったような気がしてるんですよ。
──ライブハウスの灯を絶やすわけにいかないという使命感もブッキングのモチベーションとしてありますか。
倉坂:ありますね。ライブしたくてもできない子らがけっこう多いんですよね。職場の都合でとか。そういう子らが「コロナが落ち着いたらまたライブやろうや!」と言ってるのを聞たり、いつも来てくれるお客さんが全然来れない状況を考えると、帰ってこれる場所をちゃんと残しておきたいと思います。
長尾:どこのライブハウスもそうなんでしょうけど、自分たちもコロナになってからライブハウスの在り方を考えるようになりましたよね。自粛期間に時間がやけにできちゃったので、いつも追われていた通常業務以外にこれから先のことを見据えることが増えました。店内もやたらと改装しましたしね。お客さんに今度来てもらったときに「居心地良くなったでしょ?」と言えるように。
──LOFTはこれまでオリジナルのマスクやコーヒーといったドネーショングッズを制作してきましたが、RAD SEVENとknaveもライブ制作以外で利益を上げたりしましたか。
長尾:僕らRAD系列はドネーションをやらずに、自社レーベル所属のバンドによるオムニバスCDを作りました。それを全国のライブハウスに送らせてもらって、その利益をそのライブハウスのものにしてもらって。時期が来たらウチのバンドがツアーで行かせてもらうので、そのときはまたよろしくお願いします、っていう。
倉坂:ウチはドネーションというわけじゃないですけど、18周年記念のTシャツを作って販売はしましたね。いつも周年のTシャツはスタッフの分を作るだけなんですけど、こういう時期でもあるし、毎年欲しいと言ってくださるお客さんもいらっしゃるので。店からの発信よりも有志のバンドがいろいろやってくれるケースが去年は多かったです。事前にドリンクチケットを販売できるシステムを作ってくれたり、作ってもらった缶バッジの売り上げを全部寄付してくれたり、そういうことにものすごく助けられました。コロナ禍になって一番最初に叩かれた業界なのに、「ライブハウスを守りたい!」と助けてくれる人たちがこんなにいっぱいいるんやなと実感できたし、もっと頑張ろうと気持ち的に思えましたね。
樋口:今はとにかく配信を主軸に頑張るしかないですよね。なかなかポジティブにはなれませんけど、いろんなことを前向きに取り組んでいれば、それを見て応援してくれる人は必ずいると思うので。三度目の緊急事態宣言が発令されてアルコール販売ができなくなっても、どうすれば他の方法で利益を生めるか前向きに考えるしかないし、LOFTがいろんな方法でライブハウスを存続させていくことが他のライブハウスの手本になればいいなとも思うんです。その一環としてRAD SEVENとknaveをつないで配信ライブをやってみることを考えたし、こうした動きを見て「こんなやり方もありなのか」と思ってもらえたら嬉しいですね。ふてくされたらそこで負けだし、とにかく前向きでいたいです。こんな時期に何やってるの?と感じる人もいるでしょうけど、ライブハウスを必要とする方々もいらっしゃいますから。
名古屋RAD SEVEN
3店舗が推す地元バンドの特色とは
──さて、今回の『DREAM ONLINE CIRCUIT 2021 supported by Eggs』ですが、それぞれご当地のバンドが出演するそうですね。どんな基準で選ばれたのでしょうか。
樋口:新宿LOFTに関して言うと、このコロナ禍でもLOFTの通常公演によく出てくださる方々をセレクトしました。それと今回の公演に協力してくださるEggs(インディーズバンド音楽配信サイト)が推薦するバンドにも出てもらいます。
──せっかくなのでそれぞれの出演バンドを紹介していただけますか。
樋口:まずTHE KING OF ROOKIEはEggsの推薦バンドで、私もライブを観るのは初めてで楽しみです。今回はそういうはじめましてのバンドにも出てもらいたかったんです。ワタナベタカシさんはバンド編成で出演してもらうんですけど、コロナ禍のこの1年よくLOFTに出てもらっていたし、今回オファーをしたら即快諾いただきまして。フィルフリークもLOFTに出るのは初めてで、ある方から「一度LOFTに出てほしかった」と推薦してもらいました。daisanseiは昨年末にLOFTでレコ発ライブをやってもらったり、前向きにコロナに負けじと活動しているところがLOFTのスタンスと重なるので。中村パーキングもこのコロナ禍で休むことなく自分たちのペースで活動しているので今回の公演の趣旨と合うと思ってお声がけさせてもらいました。
長尾:今回はいつもRAD SEVENに出てもらう面子とはちょっと変えて、樋口さんのセレクトに色を合わせたところがありますね。東海地区で配布している『2YOU MAGAZINE』というフリーペーパーにJONNY-SANやWiLLY-NiLLYを紹介してもらったり。JONNY-SANは10年以上前から名古屋で活動してるバンドで、『2YOU MAGAZINE』編集長の柴山(順次)さんがやっていたONE BY ONEというレーベルから作品を出していました。WiLLY-NiLLYはもともと名古屋で活動していたBob is sickの久世悠喜くんによる新しいバンドです。50Nollはウチによく出てる若いバンドで、一組はそういう若手を入れたかったんです。
倉坂:ウチはいつもknaveに出てくれてるバンドに「いいチャンスをもらったから頑張れ!」という思いを込めて出てもらいます。knaveで若手を1年間プッシュする『ゴールドメンバーズ』というイベントがあって、そこに出たバンドがメインですね。青い紫陽花はトリオ編成のギターロックバンドで、とにかく曲がすごく良くて頑張ってほしいなと。AOI MOMENTも何年か前の『ゴールドメンバーズ』で推してたバンドで、ここもトリオ編成ですごくクオリティが高いんです。Transit My Youthも同じく何年か前の『ゴールドメンバーズ』で推してて、パワーポップ系でいいバンドなんです。shandy Wzは『eo Music Try』という関西最大級の音楽コンテストで今年決勝まで行って、投票期間にknaveと一緒に頑張ってたバンドで、クオリティがどんどん上がってるんです。メランコリーメランコリーはEggsの推薦で前身バンドの頃から仲良くて、この子らもすごい曲のクオリティが高くていい感じに頑張ってるので。どのバンドにも「この機会にRAD SEVENやLOFTと仲良くなったら呼んでくれるかもしれんで!」と発破をかけてます(笑)。
──いずれも次世代を担う気鋭のルーキーということですね。どの世界でも有望な新人が出てこなければ未来がないし、今回のイベントのような試みは大いに意義があると思います。
樋口:正直、まだ今年いっぱいはコロナのこうした状況が続くと思うんです。来年こそは何の不安もなくイベントを組めればいいんですけど。
長尾:とにかく今のこの状況でやれることを精一杯やるしかないし、いろいろと制限された状況下ではあるけどイベントを組めることは組めるので。ここでやれるだけのことをやって状況が変わっていけばいいなと思います。
倉坂:コロナになる前のテンプレっぽいものが一切使えなくなりましたからね。バンドの活動で言えば、この時期にツアーをまわって東京はLOFTにお願いしようとか。ライブハウスでの利益の生み方も新しいスタイルを探さないとダメなんやろなと思うし、配信も若干飽きられてきた感もありますよね。それなら同じ配信でもこうして東名阪をつないでいつもと違う感じでやるのはどうか?とか提示していけるのはいいなと思います。
樋口:コロナ前までは面白いブッキングをして、そのイベント内で飲食の売り上げを考えるのがメインだったんですけど、これからはブッキング以外で利益を生む方法を考えないと生き残れませんよね。特にLOFTは歌舞伎町の一等地なので家賃も高いですし。去年はマスクやコーヒーといったオリジナルグッズを作りましたけど、他のライブハウスが考えないような目新しいグッズ案がまだあると思うし、ライブに頼らずに音楽家が生活できる方法を考えていければと思います。ライブハウスの人間が言うのもヘンな話ですけど、良い意味でライブに頼らないと言うか。だから私もブッキング以外にレーベルの仕事をしていたりするんです。