東京の新宿LOFT、愛知の名古屋RAD SEVEN、大阪の南堀江knaveをつなぎ、各ライブハウスがいま一番推したい地元バンドをブッキングした有観客+配信イベント『DREAM ONLINE CIRCUIT 2021 supported by Eggs』が5月23日(日)に開催される。この1年以上、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い営業形態や本来の在り方自体を変えざるを得なかったライブハウスが新進気鋭のルーキーたちのフレッシュな音楽を今できる至上の形でお届けするこの時代ならではのイベントと言えるだろう。開催にあたり、新宿LOFTの樋口寛子、名古屋RAD SEVENの長尾健太郎、南堀江knaveの倉坂直樹という各店舗のブッキングマンにオンラインで集まってもらい、コロナ禍以降にライブハウス存続のために取り組んできたこと、その試行錯誤の果てに辿り着いた今回のイベント開催について語り合ってもらった。(interview:椎名宗之)
東名阪のライブハウスをつなぐ配信ならではの試み
──まず、今回の公演の趣旨を樋口さんから話してもらえますか。
樋口:コロナ禍から1年以上が経過し、ライブハウスもいろいろと模索しながら配信というツールを学んで実践してきたなかで、LOFT以外のライブハウスをオンラインでつなぐ配信型のサーキットイベントをやれないかと思いまして。そこで以前からお世話になっていた名古屋RAD SEVENの長尾さん、南堀江knaveの倉坂さんにお声がけさせてもらったんです。RAD SEVENは、長尾さんが以前担当されていたバンドに出演依頼をしてからのお付き合いで、倉坂さんはKANA-BOONの(谷口)鮪さんに紹介していただきました。以降、音速ラインのツアーでknaveにお世話になったりして。
──LOFTはコロナ禍直後の昨年3月初頭から配信ライブを積極的に開催してきましたが、RAD SEVENとknaveも同じでしたか。
倉坂:そうですね。配信はけっこう早い段階からやってたほうだと思います。
長尾:僕らが配信を始めたのは去年の6月頃ですかね。名古屋は東京や大阪と比べると有観客のライブをわりとできていたので。去年の4月くらい、緊急事態宣言が出る直前までは比較的ライブをやれていました。
──コロナ禍前から配信ライブは行なっていましたか。
長尾:全然です。コロナになってからようやくそういう動きが出た感じで。
倉坂:knaveも配信は全くやってませんでした。
──急に機材を揃えたり、配信のノウハウを取得するのも至難の技ですよね。
倉坂:ただ緊急事態宣言の間に店を1カ月ほど閉めた時期があったので、そこで『サウンド&レコーディング・マガジン』の特集とか資料的なものを読んだり、それなりに楽しく技術を学べた気がします。
──配信ライブは臨場感や場内の一体感が失われる一方、遠方に住む方でも気軽にアクセスできる利便性があるなど良し悪しがあります。皆さんは率直なところ配信ライブに対してどんな思いを抱いていますか。
倉坂:ポジティブなほうで言えば、そのバンドに興味はあるけど場所が遠くてライブへ行けない方が配信チケットを買ってくれたり、リアルには行けないけど配信でなら観れるという配信の常連さんが増えたように感じます。あと、若手の通常ブッキングだとお客さんが少ないこともあって、自分が今日ブッキングしたバンドを観たかったのは日本中でこれだけやったのか!? と凹むことがあるんですけど(笑)、現場のお客さんに加えて配信チケットが売れていたら少なくとも日本中に数十人はそのバンドを観たい人がおったんやなと励みになりますね。規模の小さい話ですけど(笑)、そういう面で救われてるところが個人的にはあります。
長尾:配信に関しては倉坂さんと同じような感じですかね。このコロナの状況下でライブハウスへなかなか足を運べない方々から感謝されることが増えたし、ライブハウスでブッキングをしている身としてはライブを生で観てもらうのが一番嬉しいことではあるんですけど、今はこういう楽しみ方があって、いつかまたライブハウスへ行けたらいいなという声もあって、これはこれで面白いのかなと思いますね。
──東名阪のライブハウスをつなぐというのも配信ならではの試みですしね。
樋口:mahocastでもオンラインでライブをつなげるライブハウスが他にもあると聞きました。北海道のライブハウスと東京のライブハウスをつなげたり、北海道も広いから道内のライブハウスを3店舗くらいつなげる試みもあるそうです。
──現場、各店舗のキャパシティはどれくらいなんですか。
樋口:LOFTは本来550人入るところが100人で、5月から150人入れる予定だったんですけど、三度目の緊急事態宣言が発令されてどうしようかと考えているところです。
長尾:RAD SEVENも他のライブハウスと同じく通常の半分で、今は70人で設定していますね。
倉坂:knaveも本来の半分で70人です。こればかりはどうしようもありませんよね。国に要請されたら従うしかない。
樋口:飲食店の補償金が中小企業も大企業も一律なのはおかしいと思いますね。前年比の売り上げベースで補償してもらうのが理想だし、普段売り上げが少ない店がそんなにもらえるの?というくらい補償されるケースはどうかと思います。もちろん少額でも補償を受けるのは有り難いことですけど。
長尾:東京や大阪と比べると名古屋は家賃が安いので、今の補償内容だと逆に売り上げが立ってしまうこともあるんです。そういうこともあってアルバイトに変わらず仕事をお願いできているのは良かったです。雇用調整助成金を活用しているのもありますけど。
倉坂:大阪はいろいろと情報が錯綜して府知事の発言も二転三転するし、「それでどうなん!? それやったらそれで考えるから早よ教えて!」っていうようなことが多いですね(笑)。ウチもフルブッキングで休みなく営業しようとしてますが、有観客だったはずが急遽、無観客配信になるケースも多くて、そうなるとバーや受付をやってくれるアルバイトは仕事がなくなってしまうんです。だから「今日はごめん、急だけど休みになってしまった」と謝ることが増えました。ただそこは会社がちゃんと保証しています。
樋口:LOFTもここ最近はほぼフルブッキングになりましたけど、それでも急遽空いてしまって埋められない日が月に1日か2日くらいはどうしても出てしまうんです。そこでも何とか前向きに対処し、完全に中止になるケースはだいぶ減りましたね。去年の今頃はまだ様子見の段階なのもあって延期に次ぐ延期でしたけど、今は良い傾向になってきたと感じます。やっぱり無観客でもライブをやりたがっている人は確実にいるんだなと実感するし、もうこれ以上休んでいられないという方も一定数いらっしゃるんでしょうね。年内の土日や祝日はすでに埋まりつつありますし。
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