ただ格好いいだけじゃなく、その人が見える写真を写したい
──うん……。そうだ、麻木さんが撮ったライブの写真って、バシッと格好いいのに、なぜか素顔が見えてくるような写真だなって。
石井:ああ、嬉しいです。それが写したくて。なんか、その人の向こう側というか奥というか。格好いいところを写すのと同時に、「その人」を写したい。ただ格好いい、ただ美しいだけじゃなくて、その人が見える写真を写したいんです。
──だからライブとオフステージと、あと東北にいるときと、限りなく近いというか。たとえばTOSHI-LOWさんでも細美(武士)さんでも、どこにいてもどの写真でも、なんか素顔なんですよ。
石井:嬉しいです。それってきっと「人が写ってる」ってことですよね。
──そうそう。東北の人の写真も同じで。アーティストも東北の人も、同じように素顔に見えるんですよ。
石井:ああ、嬉しいです。私、写真を撮っていて、いや、普段の生活でも、誰かが特別な人だなんて思えなくて。子どももおばあちゃんもアーティストさんも一緒なんです。いや、一人一人は違うんです。それぞれ違う一人一人で、でも一人一人を同じ目線で見てるっていうか。
── 一人一人は違うけど対等っていうか。
石井:そういうことだと思います。TOSHI-LOWさんなんか、東北で仮設住宅に「ただいまー」って入っていって「シャワー貸して」って言ってシャワー浴びて出てきますからね(笑)。
──うははは。
石井:仮設のおかあさんも「いいよいいよ、入っていってー、泊まってくかー」って(笑)。仮設のおかあさんはBRAHMANとかバンドとかもちろん知らなくて。知らなくても目の前で歌を聴いたときボロボロ泣いてらして。泣いて拍手して、最後はスタンディングオベーション。音楽ってホントにすごい。見ず知らずの人の心をこんなにも掴む……。
──音楽を受け渡した人も受け取った人も、おんなじなんですよね。
石井:そう思います。どっちが与えてるとかじゃなくて、両方が与えてるし、両方がもらってるし。私は一方通行のものって絶対にないと思っているので。なんかね、私、動物も植物も鳥もそういう感覚で。生きてるものは一緒っていう。
──あ、今回、空の写真が印象的でした。
石井:あ、今回、空、多いです。子どもの頃から空ばっかり見上げていたんですが、去年と今年はなおさら。コロナ禍で人と会えないことが多かったから空を見上げることが多くて。月命日に毎月ずっと福島に行ってるんですけど、去年は行けない月が何回かあって。行けないのは悲しいけど、今は飛んでいけないけどつながっているんだって、空を見上げて写していました。
──東北の会場や見に来る人たちと他の会場では違いはありますか?
石井:東北では、当事者の方の中には見たくない人もいると思うんです。思い出しちゃう人、フラッシュバックしちゃう人、記憶を自分の心に閉まっておきたい人、消し去りたい人、いろんな人がいると思う。だから決して無理に見ないでくださいっていつも言っているんです。ただ見に来た方が言ってくださるのは、「震災の写真展だと思って構えてきたけど、命や人生を見つめ直すきっかけになる写真展でした」って。そんなふうに言ってくださる方が多くて。私も、震災を写した写真展だけど、命だったり、震災の先にあるものだったりを伝えたいので、届いてるんだって。東北でやるときはいつも感謝の気持ちでいっぱいです。ただ、一番苦しい写真は外しています。
──そういう写真は東京や被災してない地域の人が見なきゃいけない。
石井:そう思います。現地の人じゃない人に見てほしい。実際、今回も福島会場では、より希望を感じられるような写真を選んでいます。
誰も目を向けない東北の日常は今日も続いている
──【3.11からの手紙/音の声】は2012年から続いていて、毎年展示される写真に新たな写真が加わって、震災当時と今がつながっていること、続いていることがわかるのが素晴らしいですが……。
石井:ありがとうございます。
──毎年見に行く人も多いと思います、私もそうです。すると去年と違って見えたりするんですよ。去年見たときは悲しく感じた写真が、今年は勇気が出るような写真に見えたり。
石井:きっとそのときの自分の心、感情、状況によって変わりますよね。
──うん、変わるんですよ。麻木さんの写真を見るのはそれが楽しみでもある。でも自分の作品が見るたびに変わった印象に受け取られたら、イヤだと思う人もいますよね。
石井:私は逆です。毎回違う感想を持ってくれるのはすごく嬉しい。毎回その人の心が写ってほしいし、その人にとっての「写心」であってほしいんです。
──音楽みたいな、曲みたいな感じかも。
石井:あ、そうですね! そうだったらいいなあ。悲しい曲でより悲しい気持ちを見つめたり、逆に励まされたりもするし。激しい曲がやたら美しく響くこともありますもんね。
──実際、展示されているバンドの曲が、延々と流れていて。
石井:選曲をしてシャッフルで流しています。選曲は考えて考えて、すごく楽しいです。
──写真と曲がリンクしてグッときたりゾクッとしたり。あと何かお客さんのエピソードってあります?
石井:昨日、おじいちゃんが、新聞の広告を見て来られたんだと思うんですが、新聞を握りしめて。写真を見てボロボロ泣いていて。「1回じゃ無理だ、また見に来る」って、結局3回見に来てくださった(笑)。そのときかかってた曲のタイトルも聴いて帰られた。とても嬉しかったです。
──写真展は現時点でまだ前半なのにすでに3回! もう1回は来ますね(笑)。
石井:あと、毎年1月に新宿で開催しているんですが、毎年この写真展を1年のスタートにする、「毎年1回、1年のスタートに背筋を伸ばしに来ます」って言ってくださる方もいて。このために他県から来てくださる方もたくさん。本当に嬉しいです。
──10年間、写真展を続けて、お客さんや麻木さん自身にも何か変化を感じますか?
石井:2012年の3月が1回目で次の博多で43会場目。それぞれにやっぱり意味があって。10年、同じ写真に新しい写真が少しずつ加わって、私自身も角度が変わっていって、お客さんもご自身の背景によって変わっていって。去年のインタビューで妙子さんが「毎年写真の中にいる人に会いに来る」って言ってくださったじゃないですか。毎年見に来てくださる方がいて、ここで見たものをご自身の生活に持って帰って、また1年後に来てくれる。本当に「ただいま」「おかえり」、そういう場所になれているんだって実感しています。続けてやってきて、それがとても嬉しくて。もちろん、初めての人も両手を広げて待ってます。そしてその方が来年も来てもらえたら嬉しい。誰もが帰れるような場所でありたいです。
──わかりました。ホント、麻木さん、ありがとうございます! って気持ちです。最後に震災から10年、麻木さんが今思うことを。
石井:10年経って、テレビからも節目とか区切りとかって声が聞こえてくるけど、私はやっぱりそうは思えないんですね。10年っていうのは数字でしかないので、10年と1日、10年と1カ月、11年と1カ月と1週間、そういう、誰も目を向けない、誰も耳を傾けない日でも東北の日常は続いていて、私はそれを見続けたいんです。来年も、再来年も、続いていくっていうことを写し続けたい。その想いを込めたこの写真展を、あの日からの手紙を、皆さんが受け取りに来てくれたら、とてもとても嬉しいです。
石井麻木 / ISHII MAKI
写真家。
東京都生まれ。
写真は写心。
一瞬を永遠に変えてゆく。
毎年個展をひらくほか、詩と写真の連載、CDジャケットや本の表紙、映画のスチール写真、ミュージシャンのライブ写真やアーティスト写真などを手掛ける。
東日本大震災直後から東北に通い続け、現地の状況を写し続けている。2014年、写真とことばで構成された写真本『3.11からの手紙/音の声』を出版。あまりの反響の大きさに全国をまわり写真展の開催を続ける。2017年に同写真本の増補改訂版を出版。収益は全額寄付している。2020年4月、新型コロナウィルスの影響により苦境に立たされている全国のライブハウスを対象にライブハウス緊急支援【SAVE THE LIVEHOUSE】を発足し、支援を続けている。