2011年の東日本大震災から10年。石井麻木さんの写真展【3.11からの手紙/音の声】は2012年にスタート。月命日には福島へ向かうがその日だけではなく、東北への想い、東北へ行くことは麻木さんの生活の中に常にあるのだろう。写真展は1年ごとに写真が増え、そこには生活がある、笑顔がある。日々の生活がどんなに大切なものか、10年間の写真を見ていくと、もう本当に、本当に伝わってくる。麻木さんの写真が伝えてくれる。私たちと東北をつなげてくれる。
昨年はコロナウイルス感染拡大予防のため写真展の中止を決め、その間、【SAVE THE LIVEHOUSE】を立ち上げ、グッズを作り、販売し、購入者にメッセージを書き、郵送し、また【スライド写真展ライブハウスツアー2020】で各地を廻り、すべての売り上げをライブハウスへ渡した。麻木さんに支援という意識はない。支援ではなく、これまで大切なものをもらってきたライブハウスへの恩返し。そして同じようにライブハウスを大切に思う多くの人たちとの懸け橋。
2年振りとなる今回の【3.11からの手紙/音の声】は、東京、福島、福岡で開催。東京の会場は旧杉並区立杉並第四小学校と恵比寿LIQUIDROOM KATA。小学校とライブハウスという当たり前のはずの場所がどんなに大切か、日々の生活がどんなに大切か。きっとそれが麻木さんのメッセージだ。(取材・文:遠藤妙子/写真:石井麻木)
写真展の場所が一つのメッセージになっている
──今回の【3.11からの手紙/音の声】は東京と福島と福岡で開催されます。東京の会場は旧杉並区立杉並第四小学校と恵比寿LIQUIDROOM KATA。小学校とライブハウスという場所がすごくいいなと。とても意味がある場所ですよね。
石井:はい。それだけで一つのメッセージになっているんです。
──震災、そしてコロナで「場所」の大切さを多くの人が実感していると思うし。
石井:そうだと思います。今回、会場はすごく考えました。小学校を会場にしたのは、今回の展示でも見てもらえますが、石巻の大川小学校と福島の双葉町の小学校の写真があって。双葉町は帰還困難区域で人がいないんです。小学校の教室の黒板に子どもたちが書いた文字、ランドセルが10年経った今もそのままなんです。今このときもランドセルが散らばったままっていう現実がある。線量が高いから外へ持ち出すこともできない。子どもたちの手に戻ることはない……。そういう小学校の写真を、小学校で見てもらいたかった。それが一つのメッセージになっています。
──ですよね。双葉町の小学校の写真を見たらハッとします。ライブハウスでの展示もやはりコロナでライブが制限されている今だからこそっていう気持ちがありますよね?
石井:あります。今、なかなか音を鳴らせないライブハウスで、「音の声」を一緒に見ていただきたくて。
──やっぱり麻木さんの根本にあるのは現場主義ってことなんでしょうね。
石井:現場主義です、完全にそうです。
──会場に小学校とライブハウスを選んだのも、現場を知ってるからこそだと思うし。
石井:確かにそうですね。今気づきました(笑)。それぞれに合う場所って絶対にあるんですよね。写真や伝えたいものが、そのときの状況によって一番生きる場所がある。
──今回の写真展は、まず場所の大切さを強く感じました。
石井:意味を持って、メッセージを持って、会場を考えて決めたので、そう思っていただけてすごく嬉しいです。
──あと小学校なら子ども、ライブハウスならバンドマンや音楽ファンが来やすいっていう。
石井:そう! そうなんです。今回の展示は今までと違って、東京新聞さんと福島民報社さんとの共催なんです。1年前にお話をいただいてから何度も何度も打ち合わせを重ねて。杉並第四小学校は1年前に廃校になって来年取り壊されてしまうらしいのですが、その間なら使えると。あと杉並区と南相馬市が交流自治体で、それもあって開催させていただけることになって。東京の会場はもともとは某大きな駅と小学校の予定だったんですけど、ライブハウスでもやりたいってお願いして。ライブハウスの支援になる場所でも開催したかったんです。
──杉並区と南相馬市が交流自治体で、写真展の共催が東京新聞と福島民報社っていうのもいいですね。地域のつながりは大事だと思うし、あとカルチャーってその土地と共にあるべきだと思うし。
石井:そう思います。土地土地の地元力というか。今回もそういう地元力がしっかりしているところの人たちが動いてくださっています。
──福島の展示会場はどういう?
石井:道の駅猪苗代と双葉町産業交流センターというところです。双葉町は、まだほんの一部しか入れるところがないんです、帰還困難区域なので。駅前と産業交流センター周辺だけは入れるようになりました。双葉駅の周りがオリンピックの聖火リレーの初日のコースなので、駅前はキレイになっているんです。でも10メートル離れたところは崩れた家々が残っている。全町民さんはいまだに避難を続けられていて、まだ誰も帰れていない町。でもあの日までは多くの人が暮らしていた町。それもあまり知られていない。そういう場所で開催させていただけて、とても意味があると思っていて。
──会場も合わせてメッセージがある写真展。すごくいいです!
石井:ありがとうございます! 場所の大事さをすごく思いました。今回は特に。