生きている実感を持たせてくれたライブハウスに恩返しを
──去年コロナ禍に突入して、麻木さんは4月に動き出したじゃないですか。
石井:はい。4月4日に【SAVE THE LIVEHOUSE】を立ち上げました。
──【SAVE THE LIVEHOUSE】を始めた状況や気持ちはどんなでした?
石井:2月26日にライブハウスを閉めてくださいってなったじゃないですか。私は2月29日の撮影から一旦、2カ月ライブの撮影がなくなって。初めのうちは夏フェスぐらいにはライブはできるかもって思っていたんですけど、3月半ば頃になってだんだんコレは長引くかもしれないって。ライブハウスに何かできないかって思ったんです。ライブハウスはすごい楽しい……、楽しいっていうより生きてる実感を持たせてくれた場所。そんなライブハウスに恩返しができないかって。とにかく今一番必要なのはお金だろうって、お金をお渡しするには何かを売ればいい、そうだ、グッズを作ろう! って思いついちゃった。2、3日でアーティストさんたちに連絡して。こういうことを考えてるんですが、写真を使わせてくださいって。OKをいただいた方からすぐにグッズにしていって。10日後ぐらいで形にして発表しました。
──すごい!
石井:まず形にしたのが、中止になった昨年の3月から始まるはずだった写真展で、【東北ライブハウス大作戦】とのコラボカレンダーを販売しようと思っていたんです。それを【SAVE THE LIVEHOUSE】で使えればいいなって、西片さん(西片明人/東北ライブハウス大作戦・ライプサウンドエンジニア)に連絡したんです。そしたら「すごくいい考えだ。ライブハウスを守るために動いてくれてありがとう」って言葉をもらって。私はその言葉を聞いて泣いてしまったんです。【東北ライブハウス大作戦】を立ち上げた人が「ありがとう」って言ってくれた。私は西片さんの行動に突き動かされてきたけれど、今回は西片さんが私のその行動に突き動かされて、前面に【東北ライブハウス大作戦】と私の写真、背中一面にライブハウスのロゴを入れたコラボTシャツを作って全国のライブハウスを支援するという形で動き出してくれました。そうやってつながっていける、つながっていくんだって。
──うんうん。私、今日、幡ヶ谷再生大学のTシャツを着てるんですが。着てきたぞーってこれ見よがしに(笑)。
石井:すぐわかりました! 格好いいTシャツだなって(笑)。
──前にね、震災の後、TOSHI-LOWさんが、「かつての自分はみんなが同じもの着てるのはダサいと思ってた。でも東北ライブハウス大作戦のTシャツやミサンガは、俺も同じのをつけたいって思った」って言ってたんですよ。私もその気持ちで着てきました(笑)。
石井:わー、そうなんですね。なるほど~。
──で、【SAVE THE LIVEHOUSE】に続いて秋には【スライド写真展ライブハウスツアー2020】をスタートさせました。
石井:10月、11月、12月の3カ月。4月から10月の半年間は、ひたすらグッズを作って、自分で梱包してお礼状を書いて郵便局に何度も何度も通って。半年間続けて、全国のライブハウスに3500万円以上を分配してお届けできました。
──全部一人で?
石井:はい、全部一人で。で、制限はありつつもライブハウスが開けるようになっていくんじゃないかって7月ぐらいに思って。実際にライブハウスでできることはないかって考え始めたんです。7月11日の月命日に福島へ行く道中に、ライブハウスを使って、会場費は全額ライブハウスにお支払いして、それでできることはなんだろう……、コレだ! って【スライド写真展ライブハウスツアー】を思いついてしまった(笑)。スクリーンで写真を映す写真展、初めての試みでした。その場ですぐに、まず福島いわきのclub SONIC iwakiと神戸の太陽と虎に「こんなこと思いついたんですけど」って連絡したんです。そのまま何カ所かのライブハウスに連絡して、皆さん「ぜひ!」って言ってくださった。そこからバーッて動き出して。年内は13カ所廻りました。今まで写真展は入場無料を貫いてきたけど、初めて有料でチケットを出して。全額をライブハウスにお渡ししました。
──麻木さんもガソリン代ぐらいもらいなよー。
石井:いえいえ。ライブハウスはそれだけなくしたくない場所なので。あと【SAVE THE LIVEHOUSE】でグッズを購入していただいた多くの人たちの声も預かっているつもりだったのです。
──もちろんライブハウスを想う気持ちがそういう行動につながっていったんでしょうけど、麻木さんは、去年のインタビューで言ってましたけど、以前もカンボジアに行ってカンボジアの現状を見て、その帰りの飛行機でNPOを作ろうって思いついたんですよね。今回も思いついた(笑)。
石井:そうなんです! カンボジアのときもそうだった。思いついちゃったらすぐやっちゃう性格なんですね。今気づいた(笑)。だってもったいないじゃないですか、悩む時間が。
当たり前のことなんて一つたりとも存在しない
──だんだん麻木さんのことがわかってきたぞ(笑)。もう少し聞いちゃおう。麻木さんは仲間もいるし人と人のつながりを大事にしてますが、意外と一人で行動を起こすんですよね。一人で決めて一人で動く。
石井:そうです、一人です、ずっと一人なんです。意図的にそうしてきたところもあって。会社にも入らなかったりとか事務所も作らなかったりとか。一人だと動きやすい。フットワークが軽いのが一番いいって思ってるし。東北にもすぐ動ける。あとそういう性格でもあるんですよね。やっぱり気づかれてましたね(笑)。
──やっぱりアーティスト気質なんだろうな。写真以外の、グッズの郵送から実務的なこともこなしているけど、それが表現につながっていると思うし。
石井:一人だとできないことも、一人だからできることもあると思っています。
──「表現すること」って根本的に一人ですもんね。自分の心を見つめることから始まる。
石井:そう思います。私は一人だし、アーティストってみんな一人だと思います。それぞれが一人で、一人で考えて、決めて、動いて、そこから始まる。でもね、ただ集団行動が苦手っていうのもあるんです(笑)。子どもの頃から。そのせいかも。でも一人って言われて、ホントそうだなって。
──で、今回の写真展の新たに展示された写真は、多くのバンドのライブ写真とそこにそれぞれメッセージが寄せられていて。
石井:メッセージをお願いすることを考えたのは新聞社さんなんです。私からは思いつかない、思いつかないというか、とてもじゃないけど頼めない。メッセージが入るということは、写真だけじゃなくてもう一つの命が吹き込まれるわけで。特にミュージシャン、アーティストの言葉というのは、それだけで一つの作品ですよね。作品を提供してくださいってことで、そんなおこがましいことを頼めるわけないと思っていました。
──ああ、確かにそうだ。言葉は作品ですよね。やっぱり麻木さん自身もアーティストですね。私はそこまで思いが及ばなかった。でも、メッセージを頼まれたアーティストたちはきっと嬉しかったでしょうね。コロナでライブ活動がままならないときにメッセージの場をもらえたのは、すごく嬉しかったと思う。
石井:皆さん喜んで受けてくださって嬉しかったです。私もメッセージを見たいっていう思いもあったんですけど、気軽には頼めないと思っていて。こうして新たな作品ができて私も本当に嬉しいです。本当に一人一人のメッセージが胸を打つ。
──今回、小学校とライブハウスが会場で、より日常と地続きで、きっと見に来た人は、自分の生活に持って帰れるものを見つけるような、そんな写真展ですよね。あ、もちろん、今までもそうだったけど。
石井:それが一番嬉しい。そうあってほしいです。入場無料でやってるのも、フラッと立ち寄れるような、日常の中の空いた時間に。もちろん、特別な写真展って思ってくださるのはすごく嬉しいんです。ただ、構えずに見に来てもらえればいいなって。もっと目に触れやすい、もっと耳に届きやすいものでありたいってずっと思っているので。
──日常の中でこそ見てほしいっていうのは、日常こそが大事だからで。東北に行ったことで、日常の大切さ、当たり前なことの大切さを、より強く感じているんでしょうね。
石井:震災でもコロナでも、今まで当たり前だったものが全部ひっくり返ったじゃないですか。当たり前の日常だと思っていたものが……。たとえば、「行ってらっしゃい」って朝の挨拶が、最後の挨拶、最後の言葉になってしまった家族とか……。そういう、本当に何気なく言っていた一言、日常の当たり前の言葉、一つも、一つも当たり前じゃなかったんだってことを震災で気づかされて。コロナ禍でも、会うことすら当たり前ではなかったんだって気づかされて。ライブハウスでライブを観ることも当たり前じゃなかったんだって、どんどんどんどん、今までの当たり前が全部……、壊れていって。一つたりとも当たり前なんて存在しないんだって……。
──うん。本当にそうですね。
石井:「行ってきます」って言葉に「行ってらっしゃい」って返せなかった、そのとき、背中を向けてしまっていたお母さんがいて。普段なら顔を見て送ってあげなくても夕方に会えるから。でも、最後になってしまった……。そういう声を聞いてきて……。何気ない言葉、何気ないこと、大事にしなきゃ、もっと大事にしなきゃって。今もこうしてお会いしてお話して、でも次はないかもしれない、全部当たり前じゃないから。だから一個一個を大事にしようって、この10年ずっと思っていて、この1年でさらに思いました……。
──もう、撮るたびに、1枚1枚の大切さを実感している……。
石井:はい。もともと1枚1枚を大事に写していたつもりですけど、さらに大事に写すようになってます。ライブも、これが最後のライブかもしれないって、毎回思いながら写してます。