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INTERVIEW

トップインタビュー中山加奈子 - 詩(poetry)と詞(lyrics)を織り交ぜた『詩詞集』に見る、不器用に転がり続ける誠実な生き方

詩(poetry)と詞(lyrics)を織り交ぜた『詩詞集』に見る、不器用に転がり続ける誠実な生き方

2020.11.30

自分の中の武士が「卑怯なことはダメだ!」と言う

──見せ方も凝っていますよね。たとえば「天国」(P.102)は山なりに円を描くような文字配列が施されていたり。

中山:細かい部分まで自分なりにこだわりました。この『詩詞集』を作るにあたって自分の持っているいろんな詩集を読み返したり、図書館にも行って端から端まであらゆる詩集を読んだんです。主に装丁の部分で、どうすれば読みやすくなるかの参考として。自分の『詩詞集』は分量も多いし、だったら横開きだな、とか。あと、写真があって二、三行だけ詩を載せる詩集もあっていいなと思ったけど、このコロナ禍で誰かと組んでやるわけにもいかないので自分でイラストを描くことにしたんです。

──味わいのあるイラスト、いいですよね。「進化するサル」(P.36)に添えられたイラストは人類の進化の果てに蓋の開いた落とし穴があるというもので、現代社会に対する皮肉のようにも感じましたが。

中山:ああいうテイストが好きなんですね。ひねりたいと言うか、ひねくれたいと言うか。

──構成も巧みで、よく練られてあるなと思って。たとえば「ROCK STAR」(P.62)、「Good Bye Music」(P.64)、「キヨシローさん」(P.65)、「絶景」(P.66)、「ブライアンのように」(P.68)と連なるパートは音楽が主題となっているし、「Heaven's Gig」(P.90)、「汲もう」(P.92)、「宇宙に抱かれて」(P.94)、「36.5℃」(P.96)は死と生が主題のパートですよね。「実家にて」(P.98)、「パパ」(P.100)、「天国」(P.102)、「ピーナッツ」(P.104)は大切な家族のことを綴った作品で固めたパートですし。

中山:ああ、言われてみれば確かに。でも並びについては勘でやりました(笑)。100編全部をプリントアウトして、家の床じゅうに広げてジーッと眺めて「まずはこれからだな」「次は何を読みたい?」「じゃあその次は?」「ちょっとヘヴィだからこっちにしようか」みたいな感じで並べていったんです。半ページで終わるものは途中で入れ替えもしたけど、結果的に偶然うまくいったんですね。こういうのは勢いで決めないと、悩んだら一生出せないと思ったんです。

──その選び方もそうですけど、中山さんは生真面目ですよね。本書でも自身の生真面目な性格が足枷になっているという詩が随所に見受けられますけど。

中山:自分では生真面目だと思っているけど、実際はひねくれたいから違うのかな?(笑) 物事は斜めから見るほうだし、服は破けていたほうが好きだし。今回、640編もの詩を読み直して自分を知りましたね。私は真面目で不器用で、調子よくやっている人たちにいつも踏みつけられて損ばかりしているとか書いているけど、もう死ぬとか言いながら全然死なないし、実は自分が考えていた以上にタフなんじゃないのかと思ったんですよ。だから実際は生真面目じゃないのかもしれない。

──「負の引力」(P.172)にもありましたよね。うまくいっている人を見ると、本当は無理をしているんじゃないかとつい疑ってしまう。なぜなら自分がそういうタイプだからという。

中山:それもそういう人に寄り添いたがる癖なだけで、実際は全然優しくないんだと思います。

──「信用できる人」(P.106)に「やさしいふりをしてしまった」とありますしね(笑)。そうした中山さんの多面的な性格も窺えますし、中山さんの信条みたいなものを感じ取れる詩も多いですね。「消去」(P.46)には「うらみを捨てろ」「ありがとうを唱えて自由になれ」と自分を諭す一文があるし、「大人」(P.84)には「まっすぐになんて/立っていられない/それでもまっすぐが好きです」「ズルいことに苦笑いして/平気でいられるように/なりたくない」と大人としての理想像が描かれている。「Yes.」(P.140)には「Yes.を心のなかで/自分につぶやく/これが上手く生きるコツ」という中山さんなりの処世術も記されています。

中山:いま挙げていただいた詩はどれも珍しくポジティブですよね。

──ポジティブですね。「私の人生は同じことの繰り返しです」と謳った「ループ」(P.164)のようにネガティブな詩が多い中で(笑)。

中山:ポジティブとネガティブというメーターの振り幅が大きいんでしょうね。みんなそうだろうけど。時にすごくひねくれたり、ネガティブに振れるのは自分の中に棲むちっちゃな武士のせいだと思うんですよ。

──武士ですか(笑)。

中山:はい。その武士が「正々堂々と勝負せよ!」「卑怯なことはダメだ!」と訴えかけてくると言うか。「後ろから斬っちゃダメだ!」って(笑)。それが自分の美徳につながっている気がします。

──昔からそういう性格なんですか。

中山:そうかもしれない。小学校の同級生もそんなふうに言いますね。「加奈子はめったに怒らないけど、怒るとすごく怖い」って。おそらく「曲がったことは嫌い」と言う人でいたい、ということでしょうね。実際は別として。

 

書くことでここまで生きてこられた

──この『詩詞集』には硬軟織り交ぜた多彩な詩と詞が収録されていますけど、どれだけネガティブな感情にとらわれても希望を忘れない詩が特にいいんですよね。影が濃いぶん光が眩いと言うか。たとえば「方針」(P.176)の「4回転はもう飛べない/2回転も無理だろう/でもまだ飛びたいんだ」とか、「第三場」(P.192)でちゃぶ台を蹴り上げて「てめえら、残念だったな。まだ生きてるよ。」と威勢よく啖呵を切ったりとか(笑)。

中山:デザインをやってくれたのは古くからの友人でもある吉田圭子さんで、彼女にも言われたんです。「すごく暗くて、死をテーマにした詩が多いけど、通して読んだら元気になったよ」って。「エッ、本当? 落ち込んでる人の頭を余計沈めるみたいじゃなかった?」って訊いたら「逆、逆。最後はちゃんと前向きだから」と言われて。

──前向きだと思いますよ。「この世界を愛そう」(P.120)の「ここからが正念場/もがきや悩みが深まるこの先に/私は光を見つけて この自分の生を完成させたい」というこれからの生き方を模索するような一文もありますし、七転八倒しながらも前向きに生きていこうとする気概を感じますし。

中山:ああ、そうですか。それなら良かった。こんなに暗いものを出していいのか? とちょっと悩んだんですけど。

──暗いこと、内向的なことが決して悪いことではないと思うんです。「夢人」(P.08)の「下る坂道を/大切に生きてる」、「ポスターだらけの/あの部屋で憧れた/未来にはとうとう/わたし 来れなかった」という諦観が今の等身大の自分をリアルに表現していてすごく共感できましたし、抗いようのない現実を受け止めている強さを感じたので。こういった詩は今の中山さんにしか書けないものだと思うんですよ。

中山:そう感じてもらえたなら嬉しいです。歳相応ってことなのかな。今の歳で書けるものが見つかるのは素直に嬉しいことです。今さら若作りしてもしょうがないし、初々しいラブソングを書けるわけじゃないですからね。

──でもそうした境地に達したからこそ、盟友である岸谷香さんに提供した「恋をしていた私たちへ」(P.18)のような、若い頃の自分たちを俯瞰してアドバイスを告げる詞を書けるのではないでしょうか。もう二度とあの頃には戻れないという深い感傷を帯びつつ。

中山:「恋をしていた私たちへ」の歌詞を縦書きにして読んだら、自分でも泣いてしまったんですよ。「君たちはそれぞれ/違う幸せに たどり着くだろう/それでも ふたりとも/ちゃんと 幸せになれる」という部分で特に。自分で書いた歌詞で泣くなんてバカみたいだけど、あのときはもう二度と戻らないわけだから。でも仮にパラレルワールドが存在して、まだあのふたりが恋人同士でいるのなら、ふたりで過ごすいろんな出来事をちゃんと見ておきなさいよ、って言うか。それはもう二度とないからね、って。

──それもいま置かれた立場の諦観の果てに芽生えた視点だろうし、この詞に共感する人はたくさんいると思うんですよね。

中山:だけどこの『詩詞集』を出す前はすごく怖くなったんですよ。作業してるときはすごく楽しくて、校正すらも何もかもが楽しいと感じていたんだけど、発売の2週間くらい前から果たしてこれを世に出して良いものだろうか? と思うようになったんです。

──なぜでしょう?

中山:世界中の人に嫌われてしまうかもしれないと思ったんですね。「こんな面は見たくなかった」とか「自己満足の塊を出しやがって」とか非難の声を勝手に思い浮かべては夜中にハッと目が覚めたりして。でもすでに入稿を済ませてしまったし、出すのはもう止められない、どうしよう!? と思ったんですよ。

──だけど『ROLLING LIFE』のように自身の暗部と対峙した曲が数多く収録された作品がすでに世に受け入れられたわけじゃないですか。

中山:それで調子に乗ってこんな『詩詞集』を出していいのかな…と思ったんです。100人いたら半分の人には否定されると思いながら表現をしているけど、それでもためらいがありましたね。

──確かにネガティブな感情に煽られてペンを走らせたと思しき詩は多いですけど、「負の引力は強さの引力/ちゃんと生きてることの証」だし[「負の引力」(P.172)]、共振共鳴する読者は多いと思いますけどね。

中山:そうだといいんですけど。

──表現者としての矜持を感じる詩も興味深いですね。「一撃」(P.48)の「全てを飲み込んで/言わないことの美しさ」という一文には詩人であり作詞者である中山さんの創作に向かうスタンスが窺えます。

中山:私は誰かとコミュニケーションを取るときはすべてを言わずに飲み込むタイプなんです。そこで思ったこと、感じたことはノートに向けて言う。15歳の頃からずっとそうです。多分、書くことでここまで生きてこれたんだと思う。以前、『完全自殺防止マニュアル』という本の取材をしてもらったことがあって、「思ったことは何でも書くようにしてるんです」と話したら「自殺防止にはそれが一番いいんですよ」と言われたことがありましたね。

 

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昨年発表したソロ・アルバム『ROLLING LIFE』に続き、ギターとペンを握りしめ転がり続けてきた女性ロッカー、中山加奈子のペンの部分「言葉の世界」を深く味わえる一冊。縦書きで読むプリンセス プリンセスの代表作や、自身のバンドVooDoo Hawaiiansの歌詞、そして今まで明かされることなく大量にノートに書き溜められてきた言葉の数々を「詩」と「歌詞」で隔てることなく収録。企画、編集、制作、選定からイラストまで自身で手がけた、保存版の一冊。

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【収録曲】
01. ブライアンのように
02. GIVE
03. 勇者のドライヴ
04. PINS
05. メーター
06. 水の懐
07. 私のバッグに触らないで
08. Heaven's Gig
09. 不完全変態
10. おなじ傘の中に

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