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トップレビュー中山加奈子『ROLLING LIFE』- 等身大の今の自分をありのままに歌に託した20年振りのソロ・アルバム

中山加奈子『ROLLING LIFE』- 等身大の今の自分をありのままに歌に託した20年振りのソロ・アルバム

2019.08.05   MUSIC | CD

Lip Mark Records LMRCD-0001
価格:¥2,778+税
2019年6月18日発売

【収録曲】
01. ブライアンのように
02. GIVE
03. 勇者のドライヴ
04. PINS
05. メーター
06. 水の懐
07. 私のバッグに触らないで
08. Heaven's Gig
09. 不完全変態
10. おなじ傘の中に

等身大の今の自分をありのままに歌に託した20年振りのソロ・アルバム

 ex.プリンセス プリンセスのギタリストであり、VooDoo Hawaiiansとしての活動が今年20周年を迎える中山加奈子が、実に20年振りとなるソロ・アルバム『ROLLING LIFE』を自身のレーベル〈Lip Mark Records〉から発表した。

 マンスリー・ソロライブをやっていた時期に毎月書き溜めていた新曲を中心に、今回のレコーディング用に書き下ろした新曲を織り交ぜた本作は、ギターに坂下丈朋(THE SLUT BANKS)、ベースに坂井紀雄、ドラムに大内“MAD”貴雅、キーボードに澄田啓(THE THRILL)といった巧者を揃えたバンド形態でアンサンブルを重ねた会心作。ソロ名義でありながらこうしたバンド・サウンドにこだわるのは、35年のキャリアを誇る彼女が今なお生粋のバンドマンであるからに他ならない。

 27歳で夭折したミュージシャンたちに憧れて生き急いでいた若い時分と、今やすっかり中年となっていろんな意味で丸くなった現在の自分を対比して無くしたものと手に入れたものがあると唄う「ブライアンのように」が顕著な例だが、酸いも甘いも噛み分け、人生の折り返し地点まで到達した中山ならではの、緩やかな諦念と微かな希望が綯い交ぜになった心情が強いリアリティを伴って伝わる赤裸々な歌がとても良い。

 粒揃いの収録曲はバラエティに富んでいて飽きの来ない趣向が施されているが、中山の人生観や信条がどの楽曲にも根幹として貫かれているので斑を感じない。
 際限なき人の物欲と飽食の時代を揶揄する「GIVE」、エバーグリーンな曲調でスタンダード性の高い「勇者のドライヴ」、心の針の筵を主題にポエトリー・リーディングという新境地に挑んだ「PINS」、千井塔子(SPEAK)の手がけたポップで美しい旋律が中山の詩人的側面を引き出した「メーター」、胎内回帰願望をジャジーなタッチで唄う「水の懐」、自身の内面をバッグになぞらえてコケティッシュに唄う「私のバッグに触らないで」など、少し掠れた艶っぽい歌声が楽曲ごとに陰影をつけながら七変化する様はボーカリストとしての如実な進化を感じさせる。

 天国にいる〈透明な彼〉が泉下の客となったロック・スターと毎晩ライブにいそしむ様を描いた「Heaven's Gig」はファンタジーの要素が多いが、軽やかに明るく唄われるぶん、その裏にある現実の喪失感が重く感じられて切なくなる。だがそれは、年齢を重ねて身近に迫ってきた〈死〉も中山の世代にとっては切実なテーマであり、こうした楽曲をポップソングとして表現できる強みが今の彼女にはあるということなのだと思う。
 また、「不完全変態」のように自身の心の深淵を覗いた楽曲も、適量のポップ含有率で単なる暗く重い曲調になることを回避している。その采配も見事だし、こうした自己を凝視した楽曲を入れることがソロ名義の作品を発表する意義のひとつではないか。

 盟友・今野登茂子がロフトヘヴンで開催したライブに客演した際も披露された、今野が作曲を手がけてコーラスでも参加している「おなじ傘の中に」はプリンセス プリンセスのファンにも受け入れられそうな良質なポップソングで、アルバムの最後を飾るに相応しい、すべてを洗い流すような穏やかなラブソングだ。

 大人になってもむかし思い描いていたような余裕のある大人になんてなりきれていないし、刺々しい毒を吐きたくなることもあるし、人生の理不尽に打ちひしがれることもある。それでもどっこい、どうにかこうにか生きている。そんな迷ったままの等身大の自分をありのまま10曲の歌に凝縮したのが本作『ROLLING LIFE』だ。

 坂道の登り降りも荒波も乗り越えて人生を転がり続けてきた中山加奈子は、この先もずっと愚直にロックしてロールする人生を歩んでいく。『ROLLING LIFE』というタイトルはそんな彼女自身の決意であり信条であり生き方そのものなのだろう。(text:椎名宗之/シンコー・ミュージック1996年入社組)

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