世界的な感覚を持っている人
──結局は人間だぜって、正義も悪もごちゃ混ぜになっているのも良かったです。
いとう:そうそう。そういった作品なんですけど極めて倫理的なんです。性差別的なことや性暴力的なことは一切ないんです。山本さんは世界的な感覚を持っている人なんだなと思います。
──確かに、それも凄い才能ですね。
いとう:意外とやっちゃうんです。でもこの映画ではない。LGBTQも普通に出てくるし、それに対する差別的な発言もない。そういう意味ではマイノリティに対する配慮もあって。共感があるんだよね。そのことは素晴らしいことだと思いました。
──その通りですね。仲間はずれがいないっていうのは素晴らしいことだと思います。
いとう:人間ってこういうのがいいよねって信念があるんだと思います。それが逆に自由でいいだろというところにも繋がっている。でもちゃんと気を使っているので、悪い意味のツッコミどころは無い。これは世界に出してもいい映画です。ローザンヌ映画祭でもとても盛り上がったそうですよ。
──海外の人の方がこういう作品に理解がありますからね。
いとう:そうですね。
凄くロジカルな人なんだなと感じました
──観てる側は嵐のような情報量でしたが、実際の撮影現場はどのような現場だったのですか。
いとう:もう、淡々と落ち着いて撮っていました。山本さんは凄くロジカルな人なんだなと感じました。本当にアドバイスも落ち着いていて素晴らしかったです。こちらがこうしたいということがあればそれを汲んでくれて、その場で組み立てを変えて、こうしましょうというのがすぐ出てくる方でした。実際に会う前はもっと暴力的なイメージを持っていたのでビックリしました。
──私もそういう方だと思っていました。
いとう:そう思いますよね。実際は冷静でロジカルな方なので、そこからあのクレイジーでパンクな世界が出来るっていうのが、面白かったですね。
──他のみなさんはどのような感じだったのですか。
いとう:みなさん、山本さんに対する信頼感がありました。どういう繋がりかはよくわからないけど、成立するんじゃないかということで、委ねていました。
──やはりバランス感覚が凄いんですね。
いとう:そうでないとあの長さであの群衆シーン撮れないですよ。インド映画が出来て、もう日本映画ではできないのかなって思っていたことが出来ていたじゃないですか。それは凄いことです。
──今は規制だらけでつまらないので、そこをぶち壊すという意味でも素晴らしかったです。「君たちもやっていいんだよ」ということを見せてくれたようにも感じました。
いとう:そういうことを感じて、あとに続いてもらえると嬉しいな。そのためにもお客さんが入って欲しいですね。理解して騒いでくれる、こういうのが映画の良さなんだよって人もいて欲しい。それが全部である必要がないけど、今はガチガチになっている世の中なので、こういう作品がきちんと成立していなければならないし、成立することが気持ち良いよ、みんなにとっても窮屈じゃないよ、と伝わってほしいですね。
──話しを伺って、改めてよくこれをまとめたなって感じる作品ですね。
いとう:脚本の段階で自分の決定の画がはっきり決まっていたんでしょうね。そうじゃなきゃ、この映画のパワーに自分が負けちゃいますから。よくわかんなくなるというのが山本さんにはない。凄い体力だし、知力があるから出来ることだよね。僕には到底、できない。
──無理です、普通は削ろうとしますよ。
いとう:お祭りの所とか切っちゃうよね。それを入れて膨らませてるんだけど、山本さんの中にはシーンとして動くという信念があるんです。
──バカ騒ぎして、あれだけ盛り上がっても、最後には「再婚しないから」とあっさりしていて。
いとう:そこがこの映画の白眉ですね。そういう話にはしない、なにも変わらない。
──これだけヤバイ奴ばかりで浮世離れしてるのに、どこかで地続きを感じるという。
いとう:そう、リアリティがないわけじゃないんですよ。
──そうなんです。私の好きなセリフが「長男なら死体くらい毅然と対応しろ」なんですけど、ヤバイことを言っているのに妙な説得力があって、それを言った父親は祭りの裏で博打を打っている、やばい奴なのにどこかに居そうな妙な説得力。
いとう:こういうダメな人は居るよね。
──この感覚をどう伝えるのかは、なかなか悩ましいところです。
いとう:あらゆるタイプの硬直をほぐす作品ということだと思います。今はいろんな規制が自分にかかっているから、それをほぐすことが出来る、それが『脳天パラダイス』(笑)。
──まさにタイトル通りなんです。改めて見直します。何度観て見ても理解できないので何度も観れるんです。
いとう:そうですね(笑)。「こうだったけ?」って観るごとに発見があるので、何回も観て欲しいですね。どこから観てもいい作品ですから。
──はい。それで、毎回いい感じだったなとデトックスします。