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INTERVIEW

トップインタビュー福永壮志(映画『アイヌモシㇼ』監督)- 現代を生きるアイヌを映し出す『アイヌモシㇼ』が伝える多様性と寛容の大切さ

現代を生きるアイヌを映し出す『アイヌモシㇼ』が伝える多様性と寛容の大切さ

2020.10.12

多様性と向き合い、互いを認めることが大事

──アイヌを主題にした劇映画を撮り終えて、アイヌ文化に対して感じるのはどんなことですか。

福永:アイヌのことを知るというのは日本および日本人を知ることとつながっていると思うんです。日本の教育でアイヌについて知る機会が少ないのはとても残念なことですね。中国大陸や朝鮮半島から稲作文化を持って流れてきた人たちの影響で、縄文時代から弥生時代へと移行し、やがて日本の国家が形成されていったわけですよね。一方で、アイヌはそれらの人や文化とほとんど交わらずに独自の発展を遂げた。つまりアイヌは日本と日本人の起源である縄文の流れを色濃く受け継いでいるし、アイヌを知ることは自分たちのルーツを見つめ直すことにつながると思います。だから壁を作ってアイヌと接するのではなく、アイヌに関する問題も自分たちの問題として捉えるべきだと思うし、そのためにはまず僕らがアイヌのことを知るのが大事なんです。

──現世と来世が平行線であるというアイヌの死生観のように、アイヌと日本人の関係性も同じ軸上にあるという考えがもっと浸透するといいですよね。

福永:日本のルーツにはもともと多様性がありますからね。その多様性と向き合い、互いを認めることでもっと寛容な社会に向かえると思うんです。

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──劇中でエミさんが営む民芸品店を訪れた日本人の観光客が「日本語お上手ですね」とエミさんに語りかけるシーンがありますね。その対比としてエミさんがアイヌ語を学ぶシーンがあったり。現代のアイヌが日本語を喋れないという誤解は残念ながら今も日本人の多くがしてしまうのでしょうし、この映画がアイヌを知るきっかけになればいいですよね。

福永:「日本語お上手ですね」という声をかけられるのは、阿寒のアイヌコタンではよくあることなんです。言った本人に悪気はないんでしょうけど、それもアイヌに対する無知からくるものですよね。そういう実話に基づいた話を今回の映画にできるだけ盛り込みましたし、この映画を観てアイヌに対する差別や偏見が少しでも薄れて、アイヌを身近な存在に感じてもらえたら嬉しいですね。

──今後もアイヌに関する活動をライフワークにしていく考えはありますか。

福永:はい、映画に限らず今後も何か自分にできることがあればしていきたいと思っています。

──劇映画としては今後どういった作品を構想していますか。

福永:まだ詳細は明かせませんが、いま取り組んでいるのは東北を舞台にした話で、これまでと共通しているのは土地と人間や、ルーツとしてあるもの、個人対組織などのテーマで、他にも日本独特のアニミズムといった要素を織り込んでいます。しかも時代物なので、思いきり振りきってフィクションに徹したものにしようと考えています。どうぞご期待ください。
 

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映画『アイヌモシㇼ』

出演:
下倉幹人 秋辺デボ 下倉絵美
西田正男 松田健治 床州生 平澤隆二 廣野洋 邊泥敏弘 山本栄子 西田香代子 平澤隆太郎
OKI 結城幸司 / 三浦透子 リリー・フランキー

監督・脚本:福永壮志
プロデューサー:エリック・ニアリ 三宅はるえ
撮影監督:ショーン・プライス・ウィリアムズ
音楽:クラリス・ジェンセン OKI
編集:出口景子 福永壮志
録音:西山徹
整音:トム・ポール
チーフ助監督:相良健一
助監督:空音央
照明:ジャック・フォスター
装飾:野村哲也
制作担当:星野友紀
エグゼクティブプロデューサー:中林千賀子、宮川朋之、葛小松、项涛、ジャッド・エールリッヒ
共同プロデューサー:朱毅飞、福永壮志、ドナリ・ブラクストン、ジョシュ・ウィック
製作:シネリック・クリエイティブ、ブースタープロジェクト
共同製作:日本映画専門チャンネル
配給・宣伝:太秦
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)独立行政法人日本芸術文化振興会
2020年 / 日本・アメリカ・中国 / 84分 / カラー / ビスタ / 5.1ch

©︎ AINU MOSIR LLC/Booster Project
10月17日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開

【ストーリー】
14歳のカントは、アイヌ民芸品店を営む母親のエミと北海道阿寒湖畔のアイヌコタンで暮らしていた。アイヌ文化に触れながら育ってきたカントだったが、1年前の父親の死をきっかけにアイヌの活動に参加しなくなる。アイヌ文化と距離を置く一方で、カントは友人達と始めたバンドの練習に没頭し、翌年の中学校卒業後は高校進学のため故郷を離れることを予定していた。
亡き父親の友人で、アイヌコタンの中心的存在であるデボは、カントを自給自足のキャンプに連れて行き、自然の中で育まれたアイヌの精神や文化について教えこもうとする。
少しずつ理解を示すカントを見て喜ぶデボは、密かに育てていた子熊の世話をカントに任せる。世話をするうちに子熊への愛着を深めていくカント。しかし、デボは長年行われていない熊送りの儀式、イオマンテの復活のために子熊を飼育していた。

LIVE INFOライブ情報

 

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LOFT9 Shibuyaとコラボフード&ドリンクキャンペーン開催!
ユーロスペース同ビルの1FにあるLOFT9 Shibuyaのカフェ「CAFE9」にて、『アイヌモシㇼ』公開記念パネル展を開催します。また、映画コラボアイヌ料理・ドリンクをご提供。さらに相互割も実施。映画を観て、アイヌを香りをぜひLOFT9 Shibuyaで。
キャンペーン期間:10月19日(月)〜11月8日(日)
LOFT9 ShibuyaCAFE9:東京都渋谷区円山町1-5 KINOHAUS1F  03-5784-1239
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