多様性と向き合い、互いを認めることが大事
──アイヌを主題にした劇映画を撮り終えて、アイヌ文化に対して感じるのはどんなことですか。
福永:アイヌのことを知るというのは日本および日本人を知ることとつながっていると思うんです。日本の教育でアイヌについて知る機会が少ないのはとても残念なことですね。中国大陸や朝鮮半島から稲作文化を持って流れてきた人たちの影響で、縄文時代から弥生時代へと移行し、やがて日本の国家が形成されていったわけですよね。一方で、アイヌはそれらの人や文化とほとんど交わらずに独自の発展を遂げた。つまりアイヌは日本と日本人の起源である縄文の流れを色濃く受け継いでいるし、アイヌを知ることは自分たちのルーツを見つめ直すことにつながると思います。だから壁を作ってアイヌと接するのではなく、アイヌに関する問題も自分たちの問題として捉えるべきだと思うし、そのためにはまず僕らがアイヌのことを知るのが大事なんです。
──現世と来世が平行線であるというアイヌの死生観のように、アイヌと日本人の関係性も同じ軸上にあるという考えがもっと浸透するといいですよね。
福永:日本のルーツにはもともと多様性がありますからね。その多様性と向き合い、互いを認めることでもっと寛容な社会に向かえると思うんです。
──劇中でエミさんが営む民芸品店を訪れた日本人の観光客が「日本語お上手ですね」とエミさんに語りかけるシーンがありますね。その対比としてエミさんがアイヌ語を学ぶシーンがあったり。現代のアイヌが日本語を喋れないという誤解は残念ながら今も日本人の多くがしてしまうのでしょうし、この映画がアイヌを知るきっかけになればいいですよね。
福永:「日本語お上手ですね」という声をかけられるのは、阿寒のアイヌコタンではよくあることなんです。言った本人に悪気はないんでしょうけど、それもアイヌに対する無知からくるものですよね。そういう実話に基づいた話を今回の映画にできるだけ盛り込みましたし、この映画を観てアイヌに対する差別や偏見が少しでも薄れて、アイヌを身近な存在に感じてもらえたら嬉しいですね。
──今後もアイヌに関する活動をライフワークにしていく考えはありますか。
福永:はい、映画に限らず今後も何か自分にできることがあればしていきたいと思っています。
──劇映画としては今後どういった作品を構想していますか。
福永:まだ詳細は明かせませんが、いま取り組んでいるのは東北を舞台にした話で、これまでと共通しているのは土地と人間や、ルーツとしてあるもの、個人対組織などのテーマで、他にも日本独特のアニミズムといった要素を織り込んでいます。しかも時代物なので、思いきり振りきってフィクションに徹したものにしようと考えています。どうぞご期待ください。