シンプルだけど実は奥が深い各人のプレイ
──今回のバンド・スタイルのライブは『scape ZERO Band style』で、スペース・ゼロという会場の呼称に掛けた部分もあると思いますが、自身の原点はバンドだという意味で“ZERO”にしたところもありますか。
本田:うん、そこも掛けました。バンドは自分にとってのゼロ地点ですから。
──このソロ・アクトを自分のライフワークとしてやっていくべきものだと実感したのは、“scape”で言えばどの辺りなのでしょう?
本田:『scape8』くらいかな。その辺から急にライブの本数が増えたので。それまでは数本のライブで一つの“scape”が終わっていたんですけど、『scape8』辺りからツアーを組んで10本くらいのライブをやるようになったんです。と同時に、それくらいからアルバムを作りたいと考えるようになりました。だから『Effectric Guitar』に入っているのはその時期に作った曲が多いんです。
──常に一貫してバンド活動を優先してきた本田さんが、この短期間でソロ・アルバムとソロDVDを作ることになるとは、ご自身でも意外だったのでは?
本田:やっぱり『Effectric Guitar』というアルバムを作れたことが大きいですね。それまでできなかった、盤を持って回るツアーを今回やれて、それがまた良かったんですよ。お客さんのリアクションもそれまでとは全然違って、自分でも大きな手応えがあって。自分のソロ・アルバムを聴いた上でライブを観に来てくれる人たちがいるんだというのを、この間のツアーでやっと自覚できたんです。そうなると、ライブでもっと良いパフォーマンスを見せたい、アーティストとして少しでも長くやり続けたいという発想になりますよね。ソロを始めた頃は試しにやってみるかという感じだったし、エフェクターを使ってこんな面白いことができるのを自慢したいところもあったし(笑)。そういう遊び心は今でもあるけど、こうしてアルバムを作ったことで、アルバムの世界観を求めてライブに来てくれる人たちが誇らしいと思えるパフォーマンスをやりたいと思うようになりました。
──『Effectric Guitar』の収録曲がこの先どう進化を遂げるのかも見ものですよね。たとえば「7th edges」などはバンド・スタイルのライブの時点ですでにだいぶパワーアップしていたのを個人的に感じましたが。
本田:「7th edges」もそうだし、「NOISE DNB」や、アルバムには入れなかった「FREEZE DRIVE」もそうですね。いま一人でやっているライブは、あの日のライブのイメージのままやっているところがあるんです。打ち込みのオケは揺らぎがないから、ギターであの時のライブの揺らぎをイメージとして入れています。それで前に行ったり後ろに行ったり、突っ走ったりゆっくりしたりしている。「TECHFXX」も本来はカチッとした曲だったけど、ライブならではのダイナミックスとグルーヴが生まれています。
──それだけあのバンド・スタイルでのライブが本田さんの中でも一つの基準であり指針になっていると。
本田:そうですね。シンプルなことをやっているけど実は奥が深いというところを見て欲しいです。メンバーのプレイもそうですからね。「MOROCCAN BLUE」の前にインターミッションとしてメンバーのソロを入れたのも、各自のプレイの奥深さを改めて見て欲しいからなんです。
クリーントーン=本田毅らしい音を活かす
──去年はGITANEの復活ライブもありましたし、常に複数のバンドを並行してやっているとソロ・アクトに時間を割くのが年々難しくなってきたんじゃないですか。
本田:昔はもっといろいろ被っていて大変な年もありましたが、昨年はそれぞれの大事なライブに参加できたし、特に個人的には初めてのソロ・アルバムをリリースする年だったので、できるだけ『Effectric Guitar』を多くやろうと思いました。
──簡易的な音源を出しながらライブをやる選択肢もあったと思うのですが、あえて3年の助走期間を経てからアルバムを出したのは吉と出ましたか。
本田:良かったと思います。見切り発車で事を進めるよりも、まずベースとなる楽曲たちをじっくり育てたのは良かったですね。結果的にですけど、アルバムに入れなかった曲を振り返ると一考の余地があるなとか、もう少し練れば別の曲になるかもしれないという気づきがありますし。あと、機材がどんどん変わっていくのもありますね。極端な話、その時は面白いと思っていた機材がもう古かったりすることもあるので。その一音は欲しいけどシステム的に古くて入れにくいのなら、潔くその曲はやめることにしているんです。最新型でいろいろと面白い音が出せる、なおかつバカみたいに大きくない機材が一番です(笑)。
──こうして話を伺っていると、今回のライブDVDはアルバムとの補完作用があるように思えますね。本田さんが『Effectric Guitar』というソロ・アクトで体現しようとしていることが、2作品合わせて体感するとその全貌を窺い知ることができると言うか。
本田:ああ、なるほど。画を見せながら、良い意味で種明かしをしているところもありますからね。
──教則ビデオを除けば本田さんのプレイを全面にフィーチャーした映像作品が出るのは今回が初めてなわけで、ギターを弾く人は必見ですよね。クリーンから歪み系、複雑なディレイ・サウンドまで、多彩なギター・サウンドを奏でる本田さんの音作りの秘密が垣間見られますし。
本田:たとえばピッチ・シフターやディレイ、コーラスが掛かったPERSONZの特徴的なクリーントーンの音は決して目新しいものではないけれど、それを本田毅らしさと捉えてくれている人は多いと思うんです。だからそういう音を入れてみよう、それを主軸に曲を作ってみようといつも心掛けています。クリーントーンの音を求められる以上、そのもっと煌びやかな音を入れてみようとか。『Effectric Guitar』に入れた曲の半分くらいはそういうトーンですね。それ以外は趣味的に歪ませたノイズを入れてみたり、ブライアン・メイみたいなギター・オーケストレーションだったり、キング・クリムゾンみたいなサウンドだったり好きな要素を入れましたが、自分の音の個性を活かした曲はこれからも作り続けると思います。基本にあるのは好きな音色を入れるということだと思いますけど。
──今後、自身のソロ・アクトにおいて追求していきたいのはどんなことですか。
本田:技術的にこれ以上大きな進化を遂げるとは思いませんけど、自分なりに練ったフレーズがより新しいものであればいいかなと。歌がなくてもメロディが聴こえるような音楽を作りたいし、結果的にそれはポップなものになると思うんだけど、どこかひねくれたところも欲しい。僕は天邪鬼だけど幕の内的なんですよ。いろんなジャンルの音楽が好きだから。ソロ・アーティストは全責任を負うけど、そのぶん自由なんです。またバンド・スタイルでライブをやるにも違うメンバーでやってもいいし、同じメンバーで極めてもいい。もっとセッション的な形でいろんな人たちを呼び込んでもいいし、逆にデュオで何かやってみるのもいい。せっかくソロとしてフットワーク軽くやれているので、これからもソロならではの自由さを楽しみたいですね。