昨年4月にキャリア初となるソロ・アルバム『Effectric Guitar』を発表、その前後にソロ・ツアーを精力的に敢行して全国各地で大喝采を浴びた本田毅。PERSONZやfringe tritone、昨年復活ライブを行なったGITANEなど数々のバンド活動で知られる彼がソロ・アクトに特化した2019年、初めてバンド・スタイルでソロ名義のライブを敢行したのは大きなトピックだった。その白熱のライブの模様を収録した映像作品『Effectric Guitar scape ZERO band style』が遂に発売される。いつもの一人オーケストレーションと言うべき単独ライブとは異なり、腕利きのメンバーを従えたバンドならではのアンサンブルの妙味はやはり格別。エレキギターとエフェクターを駆使して色彩豊かな音色を奏でる『Effectric Guitar』の世界観を視覚化した作品として必見であり、日本屈指の名ギタリストがそのプレイの奥義を惜しげもなく披露していることにも注目だ。そんなソロ・アクトの大きな節目となったバンド編成のライブを、〈エフェクターの魔術師〉の異名を持つ本田自身に振り返ってもらった。(interview:椎名宗之)
最初はすべて一人でやることに重きを置いた
──4月から11月にかけて27本ものライブを敢行した『TAKESHI HONDA solo act Effectric Guitar scape10 TOUR 2019』の手応えは如何でしたか。
本田:6月15日の『scape ZERO Band style』の前と後では少し感触が変わりましたね。やっぱりバンド形態でライブをやったことは大きな節目だったと思います。
──『Effectric Guitar』をレコーディングした横浜の濱書房で千秋楽を迎えるというのは、レコ発ツアーの締めに相応しい粋な終わり方でしたね。
本田:濱書房は基本的にライブハウスでありながら、レコーディングもできるんですよね。ステージの上にドラムセットを置いて録音できるので。アルバムを録った場所だし、せっかくだから最後はそこでライブをやろうと思って。
──今回、ライブDVDとして発売される『scape ZERO Band style』ですが、ソロ・プロジェクトを始動させて3年を経て初めて披露されたバンド形態でのライブでした。それまでバンド・スタイルのライブをやらなかったのは、まずは一人でやれるだけのことをやってからにしようという考えがあったからですか。
本田:そうですね。スタートはミニマムにやりたかったので。事前にトラックの打ち込みを作って、ライブもすべて一人でやることに最初は重きを置きました。当初はオケがないことも多くて、エフェクターを鳴らしながらその場で弾く即興性の高い曲もあったんです。そんなふうに最初からバンドに頼るのではなく、すべて一人でやれることをまずはやってみたかった。それから2、3年経って、やっとバンドでやってみようかという発想が生まれました。それにスペース・ゼロは会場の規模として大きかったし、『Effectric Guitar』の音をよりエネルギッシュかつダイナミックに聴かせるにはバンド・スタイルのほうがいいと思ったんです。
──ベースに佐々木謙さん、ドラムにKAZIさんを起用したのはどんな意図があったんですか。
本田:2人ともレコーディングの印象がすごく良かったんです。謙さんとはいつも一緒にライブをやることがなかったので新鮮だったし、どんなプレイをしてくれるんだろうという期待感もありました。音もすごく良いし、僕が欲しいロー感をしっかり持っていて、常に太い音のまま弾く方なんですよね。ベーシストらしいベーシストと言うか、音も佇まいも素敵だなと思って、ライブも一緒にやってみたくてお願いしました。KAZIくんも同じ理由ですね。レコーディングでも彼が一番個性的な音を鳴らしていて、安定したドラム・サウンドよりもちょっと変わった音を鳴らすドラマーと一緒にやってみたかった。それがKAZIくんを選んだ理由です。
──KAZIさんによると、頭から煙が出るほど練習に打ち込んだそうですが(笑)。
本田:彼はあまり多くを語らない男で、「変拍子とかもやれる?」と聞くと「やれます、大丈夫です!」と言うので楽勝なのかと思ったら、実はあまり変拍子をやったことがなかったみたいで(笑)。
──佐々木さんは打ち込みのシンセベースとの共存も上手くこなしていたそうですね。
本田:もともと入っている音を鳴らして、謙さんには弾かないでもらうか、もしくは違うプレイをしてもらうという選択肢があったんですが、謙さんのあの太い音は打ち込みよりも強い印象を残すんです。じゃあここは謙さんのアイディアで弾いてくださいとお願いしたら、とても面白いプレイを入れてくれたんです。それで打ち込みのベースのほうをただのアタックにするという調整をしました。
──あと、マニピュレーターの大井雅之さんも欠かせない存在でしたよね。
本田:そうですね。大井くんとはPERSONZの活動を通じて知り合ったんですけど、長い付き合いなのに今まで彼の実力をよく理解していなかったんです。今回の『scape ZERO Band style』で初めて仕事を依頼したんですが、彼がこの世界で引く手あまたなのが準備段階からよく分かりました。こっちが言わなくてもやって欲しいことをちゃんとやってくれるんですよ。たとえばこの部分はキックのローをもっと減らしたほうがいいなとか、ここの鳴らし物はすごく大事なので大きくしたいとか、僕が特にリクエストしなくてもすでにそうなっているんです。おみそれいたしました、という感じでしたね。
期待を超えることをやってくれた腕利きのメンバー
──バンド・スタイルでライブをやるなら、同期はさせつつも基本はシンプルな3ピースにしようと考えていたんですか。
本田:まず同期ありきで作った曲が多かったし、打ち込みの音を鳴らさないとその曲のイメージが再現できないので同期は必須だったんですが、『Effectric Guitar』に入れなかった曲に関しては打ち込みでも生音でもどっちでもいいと思って。生っぽい感じで打ち込みにした曲もあったし、今回のライブ・テイクのほうがオリジナルよりもいいという曲がたくさんあります。
──ライブ当日は緩急のついた選曲も素晴らしかったし、基本はバンド・スタイルだけど本田さんのソロ・パートやメンバーのソロを挟んだりするなど非常によく練られた構成でしたね。
本田:ありがとうございます。楽曲のことで言えば、自分の求めていること以上のことをメンバーはやってくれたので、それがバンドの醍醐味であり最大の魅力であることを再確認しました。自分も今までいろんな方々のサポートをしてきて、ライブではちょっとこんなことをしてみようとかいろんなトライをしてみるので、彼らの立場も分かるんです。今回、彼らに譜面を渡して、この楽曲はこんなふうにしたいと伝えると、彼らは僕の期待を超えてくることをやってくれる。それが純粋に嬉しかったし、今回のDVDでもそういう場面で僕が嬉しい表情をしているのが分かると思いますよ。
──ライブをやるまでに相当な準備が必要で大変だったとFacebookに書かれていましたが、採譜やリハーサルの面でご苦労されたということですか。
本田:いや、それは音楽以外の交渉事ですね。音楽面は至ってスムーズに進んでトラブルになることも特になかったんですが、ソロとしてバンドのライブをやるにあたっての段取り的なことは今回が初めてだったので、いろいろと大変でした。だけど終わってみればすべてがクリアで、良い経験ができたと思います。部分的にメンバーに捌けてもらって一人だけで演奏して、そこからまたメンバーに入ってもらうといった流れを自分なりに考えたり、舞台監督のように指示を出したりするのは得難い経験でした。
──当日のギターは〈P-PROJECT NA-TH-5〉をメインにしつつ、〈NA-TH-4〉と〈Kz One セミホロウ〉を曲によって使い分けていましたね。
本田:その3本でしたね。いろんなギターを取っ替え引っ替え使うのではなく、数本のギターで弾くのが昔からのスタイルなんです。
──「Pray under rays」や「ETHNIC」、「FREEZE DRIVE」や「SEQUENCE QUEEN」といったアルバム未収録曲も本作の見所の一つですね。
本田:ライブではずっとやっていて、アルバムに入れることもできたけどあえて入れなかった曲もけっこうあるんですよ。
──なかでも「GOHAN DESUYO」というパンチのあるタイトルが目を引く曲がありますが(笑)、これは花鳥風月という言葉を想起させる雅な雰囲気のメロディだからそう命名されたのでしょうか。
本田:特に何も考えず、シンプルに日本っぽい言葉がないかと思って(笑)。もともと桃屋の〈ごはんですよ!〉が好きなんですよ。あの瓶がふと目に入って、日本人はやっぱりこれだなと(笑)。エフェクターを使っていわゆる和スケールを弾いて、ディレイをすごくかけたらこんなことになるよという実験的な曲だし、タイトルも実験的でいいんじゃないかということで。
──このライブDVDを一通り見た後に改めて『Effectric Guitar』を聴くと、より理解が深まるところがあると思うんです。たとえばライブでの「Ruins of factory」は凄まじいノイズ一辺倒ですが、アルバムではもっとコンパクトかつマイルドに聴かせようとする意図があったんだな、とか。作品とライブを分けて考えて、作品はあくまで万人に楽しんでもらうべく趣向が凝らされていたと言うか。
本田:うん、その通りです。
──かと言ってライブで冗長なソロを弾くこともないですよね。そこが16小節以上のソロを要求されるのが苦手な本田さんらしさと言いますか(笑)。
本田:何と言うか、その曲でやれることが終わったなと思うとそろそろやめたくなるんですよ(笑)。たとえば「Ruins of factory」でもこんな風景やあんな風景を見せたいと思いながら、出たとこ勝負でいろんな音を出してみる。それで面白い音が出ればもう終わろうかと思うんですね。
──だからなのか、もうちょっと聴いていたいところで終わってしまう曲が多いですよね。
本田:横で白塗りの人たちが踊っているとか、視覚効果があればもうちょっと長くやれるかもしれませんけどね(笑)。