年に一度はやったことのないことに挑戦する
──リリース・ツアーが東名阪で行なわれますが、ソロの場合は〈実演会〉ではなく〈ライブ〉なんですね。
M:そうなの。“マリアンヌ東雲とG.S.P”として〈ライブ〉をやらせていただきます。G.S.Pは〈GEL Sound Production〉の略称で、ゲルさんがバンマス。メンバーの人選もゲルさんにお願いして。ワタクシは基本的にミュージシャンの友人が少ないので(笑)、完全にお任せです。
──東京公演の共演は肋骨なので、支配人は出ずっぱりなわけですね。
M:自分対自分だから大変ですけども、そういうのも経験したことがないので。やったことのないことはとりあえず一度やってみようと思っています。それでイヤになったらもうやらなきゃいいだけの話だから。
──気がつけば来年の2月でデビュー10周年ですが、一貫してメジャー・レーベルから作品をリリースしてきたのはある種のこだわりなんですか。今回のソロ作もビクターからのリリースですし。
M:こだわりと言うか、自分の作品に社会性を持たせたいんでしょうね。事務所もないし、普段本当に少ないスタッフで何とか回している状況ですので。
──単に作品をリリースするだけなら、東雲音楽工業でもボルテイジレコードでもロフトレコードでもいいわけじゃないですか。
M:どれも弱小で話にならないわ(笑)。もちろん、ただ大手のレコード会社がついていればいいって話じゃないし、中にはポンコツな人間もいるから納得のいかないことも多々ありますけどね。それでも会社や人と絡むことで自分や作品が社会と関わっている気分になれるし、あれこれ客観視できる。ワタクシにとってはそれがけっこう重要なの。
──社会との関わりを保ち続けたこの10年は、サヴァイヴの連続だったという感じですか。
M:いつまでサヴァイヴし続ければいいんでしょうね、全く(笑)。自分の中では10年前も今も状況は何も変わっていない気がする。まぁ、いろいろと考えるわよ。だってたとえば20歳の子が音楽を始めて、本気で続けて30歳になった時に成功できていなかったら向いていないんじゃないか?って話になると思うんですよね。
──では、支配人が音楽をやり続けている理由とは?
M:意地ですよ。「今やめるわけにはいかない」で、12年(笑)。
──この1年の間に『マリアンヌの奥義』と『MOOD ADJUSTER』という極めて良質な作品を立て続けに2作発表した事実だけでも、支配人がこの10年間培ってきた経験が大きな成果として実を結んだように思えますが。
M:自分でもよく頑張っていると思うわ(笑)。ワタクシは毎年、初挑戦のことを何かひとつやり遂げたい気持ちがあるんです。昔ならフェスに出るとか、海外で実演会をやるとか、性誕祭のように定例化したものもある。おおくぼ(けい)君と肋骨を始めたのもキノコホテル以外で初めてユニットを組もうと考えたから。そういったことを積み重ねてきて、今年は半ば無理やりだったけどソロ・アルバムを出せたのは個人的にも大きな出来事だった。まぁ、この先に何があるかは分かりませんけどね。10年以上表を張るのは本当に大変だし、そろそろワタクシも楽曲提供とか裏方に回りたい気持ちもあったりしますし。
──それは困りますけれども、今回のソロ作で匿名性を感じさせる楽曲を書いたのはその伏線だったり…?
M:と言うか今回、提供していただいた曲を唄ってみて思ったんですけど、自分はあまり歌手に向いていないと思ったの。少なくとも一生唄い続けていくタイプの人間ではないと思った。
──全然そんなことないと思いますけどね。七色の歌声を巧みに使い分ける術も絶品ですし。
M:キノコホテルでも歌にじっくり向き合う余裕がないまま気合いだけでやってきた部分はあって。それは自分が器用じゃないからできないだけで、バンドのフロントマンで詞も曲も書いて歌も完璧な人はいくらでもいる。今回のソロ・アルバムを作ってみて、ワタクシは意外と歌に対して心血を注げていなかったことを実感したんです。ステージに立つ以上は絶対に自分が中心じゃないとイヤなんだけど(笑)、若いアイドルの子とかに曲を提供したり、プロデュースしたり、映像作品などに音楽をつけたり。表に立たずに音楽を作りながら暮らしていけたら、と最近は思ったりしています。
──こうなったら支配人自らスカウトするなりオーディションするなり、新たにアイドル・グループを結成してしまうのが良いのでは?
M:面倒くさそう!(笑)それはまた違う能力や才能が必要な気が。ワタクシの場合は何らかのお題があって、それに向けて曲を書いていくのが性に合っている気がする。
──来年の2月11日にはデビュー10周年記念の大実演会も開催されますし、支配人にはまだまだ表舞台に立ち続けていただかないと。本誌も10年間、一貫してキノコホテルを応援し続けてきましたけど、その魅力をもっと世に知らしめるためにはまだまだ応援が足りないと思いますし。
M:今は終活なんて言葉が流行っていますけど、何事もどう終わらせるかを意識する年齢にワタクシも差し掛かってきたように思うの。周りからはまだ早いって言われますけどね。自分の人生は別に野垂れ死にでも何でも構わないけれど、10年以上続けてきたキノコホテルはもはやライフワークとなってきたわけで、今後その舵をどう取り、どう葬り去るのかは常に考えている。シワシワのおばあちゃんになってまでマリアンヌ様でい続けるつもりは今のところないですし、いつかは必ず終わる日が来ますので。…そんなネガティヴなことを言いつつも、次のソロ・アルバムはもっとこうしたいなんて構想を頭の片隅で練ったりもしているし、あれだけタイトな制作期間を経て、また懲りずに次のことを考えている。そんな振れ幅の広い暮らしを10年も続けているのは自分でも意外だし、何をやるにも飽きっぽい自分が唯一続けられているのが音楽なんです。まぁ、何はともあれ『MOOD ADJUSTER』を聴いてワタクシの新たな一面を見つけてもらって、来年はキノコホテルのデビュー10周年をお祝いしてあげて頂戴。まだ間に合いますよ。