今、じわじわと日本にも浸透しているボードゲームの世界。その魅力的な世界を描き、漫画ファン・ボードゲームファンに支持をされている『放課後さいころ倶楽部』がこの秋に待望のアニメ化。放送を前に改めてボードゲーム世界の魅力と放送されるアニメについて、原作の中道裕大さんと、監督の今泉賢一さんに語っていただきました。[interview:柏木 聡(LOFT/PLUS ONE)]
知らない人に向けてこんな世界があるんだよと伝えることができる
――最初にアニメ化の話しが来た時のことを伺えますか。
中道:結構前からお話しは頂いていたんです。実現するのか僕は半信半疑だったので、実感をしたのは初めてのシナリオをいただいた時です。
今泉:2018年の梅雨明けころですね。
――それまでにチェックなどはなかったのですか?
今泉:キャラクターデザインのオーディションはそれより前にありましたけどね。
中道:その時も、まだ僕の中では半信半疑でした(笑)。
――そうなんですね(笑)。今泉さんが原作を読まれた際に感じられたことを伺えますか。
今泉:こういう世界があるんだ、と新鮮でした。本当に主人公の武笠美姫(以下、ミキ)と同じ感覚です。知らない人に向けて「こんな世界があるんだよ」と伝えることができるのは、漫画やアニメの魅力でもあるので、原作とともにボードゲームの魅力も伝わるといいなと思っています。
――今泉さんも実際にプレイされているのですか。
今泉:はい。僕なんかはまだ触りの世界しか知らないのですが、最初に見たときはまず、色がきれいだなと感じました。
――デザイン面でも入ってきやすいようになっていますね。
中道:ゲーム自体も、初心者や子供でも楽しめるすごく優しいシステムになっています。そこは子供と大人が混じって遊ぶのがデフォルトだからだと思います。
――確かに、歯が立たないとつまらないですよね。作中でも旅先の小学生とも対戦していますし。
中道:それが大きな魅力の1つですよね。
――スタッフのみなさんと一緒にプレイされているんですか。
今泉:みんなは楽しそうにやってますね。
中道:(笑)。一緒にやったりしないんですか。
今泉:僕は忙しくて、羨ましく見ているだけです(笑)。
――熱中しすぎて現場に響いたりはしないですか。
今泉:今はほぼ作り終えていて、主要メンバーで最後のヤマというところまできています。放送が落ちることはないので安心してください(笑)。
中道:制作が落ち着いたら“すごろくや”さんなどで打ち上げを兼ねてみんなでプレイしたいですね。
――原作協力の“すごろくや”さんは杉並区高円寺のお店ですが、作品の舞台が京都なのはなぜですか。
中道:作品を立ち上げたときの担当が京都の大学を出ていて、僕も京都出身で、二人にゆかりがあるので決まりました。そこは思わぬ形でキャストのみなさんには負担をかけてしまいました(笑)。
――方言があると、見ていて刺さるものがあるのでいいですよ。
中道:京都の方は表裏があると言われることも多いので、そのあたりも払拭したいです。
――そこは誇張したネタとして書かれている部分が多いですから(笑)。実際のキャストのみなさんの方言はいかがですか。
今泉:本人達は苦労したところがあると思いますけど、うまく演じていただいています。
中道:そうですね。皆さん頑張ってくれて、かなりナチュラルな京都弁を話していただけていると思います。
――ミキ役の宮下(早紀)さんは関西出身ですが、その点も加味されてキャスティングされたのですか。
今泉:僕はプロフィールを見ないで、単純に芝居・声質でキャラに合う方ということで選びました。
中道:僕もそこは一致していて、キャラに合う声の方で選ばせていただきました。
――キャラクターの性格もコントラストがあるので、声質が合うというのは大事だと思います。現場ではどのように演技指導されているのですか。
今泉:みなさんしっかり原作を読んだうえで現場に来てもらえるので、カットやシーンによって「君のこのスキルを出してほしい」とお願いすることはありますが、基本の性格は読んで感じたものを演じていただいています。
中道:本当にバッチリのキャスティングだと思います。
そのこだわりは本当にありがたいです
――演出面でいうと、ボードゲームは激しい動きがあるわけではないので画作りが大変なのかなと思いますが。
中道:見せ方はどうしても限られてくるので、マージャン漫画を参考にしてます。例えば、バックにイメージ映像を出したりという場面などです。
今泉:アニメでは、情報の出し方で対応しています。手札すべてを見せるのか、感情のみに抑えて隠していくかなど。
――なるほど。確かにそういう演出で実際に自分もプレイしている気持ちになりますね。もう1つ今作で難しそうだなと感じた点は、エピソードごとにゲームも変わるところです。ルール説明を各話で入れなくてはいけないのに、原作もアニメも物語の進行の妨げにならずに入っているのも素晴らしいなと感じています。
中道:ありがとうございます。そこも試行錯誤しながら描いています。漫画では読み飛ばされることもあると想定していて、読み飛ばしてもお話しが読めるようにということを意識しています。
今泉:アニメではルール説明は本編終了後のオマケコーナーで入れる案もあったのですが、原作が本編に入っているので、同じように本編に入れたいと思ったんです。ルールがわからないままでプレイを見るのは違う、と。
――そこで物語に入れなくなってしまう可能性もありますから。
今泉:映像はどうしても流れて行ってしまうので、説明シーンだけで理解できずに進むこともあると思います。そこは色と動きをつけて実際のプレイを見せることで、補完ができるようにしています。
中道:そのこだわりは本当にありがたいです。アニメを見て、「遊ぼう」という気になった時にすぐに始めることができるくらい丁寧にやっていただいています。
――それでありながらストーリーもしっかり描かれているのが素晴らしいなと感じました。
今泉:そこはキャストのお芝居にも助けていただいています。
――ほかにアニメ化にあたって今泉さんがこだわった点はありますか。
今泉:義務ではなく原作を好きになることですね。それは作っていくうちに必ずなるんです。僕は作品を好きになれないと監督をやってはいけないと思っています。
――素晴らしいです。
今泉:キャラクターも原作できちっと出来上がっているので、僕が読んで感じたものをアニメーションという形で出力をしただけです。手を抜いているわけではないですが、自分としては特に工夫をしているわけでもないです。
――素直に原作の魅力を出していただけたということですね。今泉監督は特に工夫をされていないということですが、私は本編を拝見して本当に丁寧な作りになっているなと感じました。
中道:そうですね。キャラクターの仕草や日常芝居も丁寧に描いていただいて。
今泉:原作にある特徴をくみ取ることで、作品の雰囲気を描くようにしています。
――本当に原作が動いていると感じる作品なので、ファンとして嬉しいです。
今泉:先ほど素直に原作の魅力をと言いましたが、2話のラストの廊下のシーンは演出を盛りました。そこは、無邪気な高屋敷綾と哀れな田上翔太のコントラストを出したかったんです。2話の大事なオチのシーンということで原画も自分で直した位で。
中道:確かに話しは原作通りですけど、アニメでは漫画と違った見え方にもなっていますね。やはり演出の力は凄いですね。
――そういった作り手の思いが出てくるのもメディアが変わった面白さですから。
中道:そうですね。