バンドをやるほうが素の自分に近い
──月に吠える。の音楽性を端的に言えば、大森さんが影響を受けたストリート・スライダーズ直系の、ブルースを基調としたロックンロールですよね。
大森:そうです。いわゆる中央線ロックみたいな感じで。この3人とならそれがやれると言うよりも、この3人に僕の趣味を押し付けたと言うか(笑)。
──PENICILLINの千聖さんのソロ・プロジェクト(Crack6)やAcid Black Cherryのサポートなどをやってきた長野さんからすると、月に吠える。のサウンドはだいぶ異質じゃないですか?
長野:でも、僕も元を正せばロックですからね。昔はこういう音楽を聴いてたし、原点に返った感じはあります。
──山崎さんの原点も月に吠える。のような武骨なロックンロールだったんですか。
山崎:そういうのが好きでしたね。そこから一時期、スタイル・カウンシルとかスティーリー・ダンといったAOR寄りのお洒落な音楽が好きになったんですけど。
──山崎さん、塚本さん、長野さんのお三方はめんたいロックのご当地出身ですが、その洗礼を受けた世代ではないですよね?
塚本:先輩方とは今でも良くしていただいてますが、世代的にはちゃんと聴いてなかったかもです。
山崎:この中でめんたいロックを一番好きなのは大森さんなんですよ。
大森:そうだね。さっきこれ(『Rooftop』)を見て、ロッカーズは今またやってるんだな…と思いましたし。
──塚本さんはナンバーガールの少し下の世代ですよね。
塚本:福岡のハートビートで対バンした記憶があります。田渕ひさ子さんは僕の1つ上で、ナンバーガールではないですか、椎名林檎さんが2つ下でした。
──月に吠える。のこの5年間を振り返ると、フル・アルバムとEPとミニ・アルバムをそれぞれ1枚ずつ、配信限定シングルを3作、会場限定でアナログ盤まで出していて、かなり順調に作品をリリースしてきたように感じますが。
大森:順調だったのかなぁ…。役者の仕事の合間を縫ってレコーディングするのがけっこう大変でした。レコーディングの次の日に舞台の稽古があったりして。
塚本:レコーディング中に台詞を覚えたりしてましたもんね。
大森:ボーカルのブースから台詞を言うとみんなにウケるから(笑)。
──作曲はバンド名義が多いですが、作詞はすべて大森さんが手がけていますね。
大森:曲はだいたいみんなでバーっと作るんですけど、たまに僕の弾き語りのデモを聴いてもらってアレンジをしていくケースもあります。
──歌詞は男のセンチメンタリズムやロマンティシズムを描きつつ、生きづらい世の中に対して投げかけをするようなフレーズも適度に盛り込まれていますね。
大森:そうなんです。でもあまり投げかけをしすぎると、ライブを観に来る事務所の社長に怒られちゃうんです(笑)。
──月に吠える。のライブを拝見して個人的にいいなと思ったのは、ミドルエイジのいい大人がとても無邪気にバンドをやっていること、一緒に音を出すのが楽しくてたまらないという感じがこちらにも伝わることなんですよね。
大森:そういうのが伝わるといいなと思いながらやっています。無様に見えないように頑張らなきゃって(笑)。
塚本:中年っていうのがこのバンドのテーマのひとつですから(笑)。
──決して大森さんのワンマン・バンドではないし、3人が大森さんに無理に寄せている感じもないのがライブを観るとわかりますね。バンドとしての一体感も十二分に伝わりますし。
大森:(長野に)馴染んできてる?
長野:5年もやってきましたからね。バンドが目指す方向もわかってきたし、その中で自分の個性をどう出すかが今は面白いです。
──山崎さんはこのバンドにどんなスタンスで臨んでいますか。
山崎:フロントの3人が面白いことをたくさんやってくれるので、僕はなるべくシンプルに、あまり余計なことをせずにいようと常に思っています。
──音自体はシンプルですけど、ギターを主体としてしっかりと鳴らすことに重きを置いているのが窺えますね。
大森:ギターをちゃんと聴かせたいと最初から思っていましたので。やっぱりストーンズやスライダーズが好きなので。
──大森さんの中で俳優とバンドのバランスは等比だと思いますが、その棲み分けは自然とできているんですか。
大森:わりと自然にできてます。バンドをやるほうが素の自分に近いです。芝居はどうしても自分とは違うものにならなければいけないのが強いので。CMで優しいお父さんを演じたり、舞台で凶暴なキャラクターを演じるのももちろん面白いですけど、バンドはロックが純粋に好きでギターを弾いていた中学の頃のままでいられるんです。