『バリバラ』でカットされた発言
──以前、ちんどんの写真展でのトークイベントにゲストで呼んでいただいたときに、メンバートークを掘り下げるといくらでもネタが出てきたので、ロックカフェロフトでイベントのお話しをもちかけたわけですが、にじ屋をはなれてのトークイベントって今までもありましたか?
佐藤:テレビの取材とか…『バリバラ』(障害者をテーマにしたNHKのバラエティ番組)くらいかな。
──あれって台本あるんですか?
佐藤:あるんだけど、みんなには見せてないんだよね。
──メンバーは自由にしゃべられる雰囲気だったんですか?
イノウエ:いや、質問されて、答えるだけ。
──…。それはそのまま使われる?
イノウエ:使われないの!
あきこ:向こうで必要なところだけを繋いだり、欲しい答えが出るまで質問をするみたいな。
佐藤:だから、いちばんスタジオでウケたのが、「一人暮らしをしてなにが一番よかったですか」っていう質問にイチマルが「オナニー」って答えたときで、会場がどっかんと沸いたのに、それね、使われなかったんだよ。
──あー…コンプライアンス(苦笑)。
佐藤:それって障害者じゃなくてもいちばんいいところでしょ、いい話しなのにさ(笑)。
──実際に放送を見てどうでした? …っていうか見ましたか?
イチマル:見てなーい。
外口:いや、にじ屋本部でみんなで見たよね?
ノブ:オレ、見てる。
あきこ:え、みんなで見たっけ?
──見たか見てないかすらわからない!
イノウエ:見て…うーん…どうだろうなぁ……(全然言葉が出てこない)
佐藤:テレビなんてその程度なんだよなー(笑)。だから、ロックカフェでやるイベントはテレビでカットされちゃう部分も伝えられるし、期待された答えじゃないみんなの素の部分が出せるのが嬉しいよね。
──トークの他にも、普段の日常で撮影していたオモシロ映像も流せそうとか聞きましたけど。
佐藤:いっぱい撮ってるんだよ。内部で好きに撮って、みんなで笑いながら見てるの、メンバーの失敗動画とか。
──テレビで流すと、障害者いじめと言われかねないやつ。
佐藤:ねー…知らない人が見たら「障害者をばかにしてる」って思う人もいるだろうけど、俺らはずっと一緒にいるから、障害者をバカにしてるんじゃなくて、目の前のおもしろいことを笑っているだけで。
──関係性もあるかもしれないけれど、目の前でバナナの皮ですべった人がいたら笑うのと同じですよね。
佐藤:そうそう、それをみんなで見るって感じですよね。イチマルが来た当初、ひんぱんに逆ギレをする時期があって、みんなともうまくやれなくなってたんだけど、ある日イチマルの携帯に着信があってそこに「ケイムショ」って表示されてたの。「おい、たいへんだぞ! ケイムショから電話かかってきてる」って。
──携帯にケイムショって登録していて電話がかかってきたら表示されるようにしておいて…。
佐藤:言わないお約束(笑)。敵を欺くには味方からってことで誰にも言わないでおいたからみんな信じちゃって、イノウエたちも真っ青になって、「お前なにしたんだ?!」って。カマかけると「あー、あれかな…」って隠してたことをやまほど白状するわけ。で、いざイチマルが刑務所に行くってことになって、みんなが花道みたいに並んじゃって、「帰ってこいよ」「待ってるから」ってすごい真剣に見送って。
外口:みんなイチマルのこと大っ嫌いなはずなのに(笑)。
ノブ・イノウエ:あはははは!
佐藤:結果として、府中刑務所に見学に行く予定だったのを盛り上げたんだけど。でもみんなの気持ちがよくわかった出来事だったな、普段あんなにイチマルのこと嫌ってたのに。でもあれみんなおかしいって思わないのもおかしいんだよな。
外口:朝からビデオをまわされててね。
佐藤:その前に、俺と外口さんとイチマルで、イチマルと同じ自閉症の人が起こした事件の裁判傍聴に行ってたんだよね。午前中やりとりを見て、午後もあるからお昼でも食べに行こうかってみんなで外にでたら、急にイチマルが泣き出して。イチマルって泣くことが一度もなくて、おかあさんにも「泣いたことがない」って聞いてたからびっくりして。それで、泣きながら「俺はあっちに行きたくない、外口さんとみんなとずっと一緒にいたい」って。ああ心が入れ替わったんだ、良かった連れてきて…って思ったら、その日が実は3.11で。
──ええっ! 天災が…。
佐藤:イチマルが改心したら雪が降るどころか…。でも、そこからコミュニケーションがとれるようになったんだよね。
イチマル
自分たちが殺されてたかもしれない相模原事件
──事件後、外部の関連イベントにいくつか行ってきたのですが、当事者がいないまま話しがすすめられていく感じを受けたんですけど、相模原事件についてにじ屋内ではどんな話題が出ていますか。
佐藤:うん…相模原ね…。うちでも、自分たちが殺されてたかもしれないんだぞって話しはよくするよね。
イノウエ:一緒に働いてた人を殺すなんて、おかしい。
ノブ:なにも悪くない障害者を殺して、即行で自首して…メッセージを障害者に向けてるのか、健体者に向けているのかよくわからない。
佐藤:あの事件のいちばんの問題は、障害者を集めていたことだと思うんだよ。俺だってなんで殺したんだよって怒りがあるけど、その前に施設にいる段階でも「ほんとうに生きている」って言えるのか? って。だって今、うちに来てるオグラって、施設から来た当初は廃人のような、いわば死んでるのと同じだったんだよ。
──状態としての「死」っていうことですよね。
佐藤:そう、状態として。施設で殺されてたんだよ、はっきり言って。薬でぼんやりして、毎日同じで希望もない、みんなであつまって建物の周りを一周するだけで自由に外出できない、常に同じ室温に設定されて季節なんて感じるわけないんだよ。だから、あの事件のあとにすぐに施設解体っていう話しが出ると思ったら、全くでない。障害者の団体からも出ない。
──あげく、施錠するとか山の中に引っ越すとか。
佐藤:どんどん閉鎖して隠れていくでしょ。施設にいれるっていうのは、身内としては隠したいわけ。それで死んでもなお、名前も出しませんなんて! 合法的にないものにされていると同じだよ。確かに世の中の状況も親御さんの気持ちもよくわかるけども、でも、それでも施設がある状況がいいわけじゃない。俺はそこが論点だと思ってる。