人間はもっと機械に対して愛を持てる
──「アウストラロピテクススパーク」もラブソングですよね。
セイジ:ラブソングです。
──私、最初はアウストラロピテクスは女の子の比喩だと思ったんです。好きな女の子のことを唄ってるんだと。でもそうじゃなく、アウストラロピテクスそのものを思って、そのものを唄ってるんだと。
セイジ:もちろんです! 原人が現れたのが800万年前。100万年前には今の人間に近い形の人類が現れた。それがアウストラロピテクスだったりするんだけど。たぶん、思考とかは同じだったんじゃないかな。今の俺たちには文化的な生活があるけど、100万年前の洞窟でも同じような青春があったんじゃないかと。
──あの子を好きになっちゃったりとか。
セイジ:うん。あっただろうなって。それでいろんなものに出会って。たとえば愛とかLOVEとか、マンモスとかサーベルタイガーとか。いろんなものに出会って細胞がJETTになって、どんどんどんどんスパークしていく。俺の人生もいろんな人やいろんなものに出会ってスパークしてきたように、100万年前もあっただろうなって。
──アウストラロピテクスがマンモスと出会ったように、セイジさんの人生も、マンモスに値するようなものと出会ってきた。
セイジ:うん。そうなんだよ! いま話しながらそういうことか! って思った(笑)。
──いま思ったんですか(笑)。曲を作ることって、自分が予想してないことがどんどん表れることも…?
セイジ:あります。それが曲を作る楽しみのひとつでもあるし。
──今作と繋がると思うけど、前々作『野獣バイブレーター』の時に別誌でインタビューさせていただいて。惑星探査機「はやぶさ」の話が凄く印象的で。
セイジ:ああ、小惑星の土を取って戻ってくるっていう。テレビのニュースでずいぶん出たし、映画にもなった。宇宙に行ったはやぶさは、途中で通信が切れてさ。宇宙で通信が途絶えたら二度と戻ってこないだろうってみんな諦めてたんだけど、ある科学者が実は回路を別に仕込んでた。ある日、ピカッて電波が入ってきた。「なんだこれは! はやぶさだ!」って。はやぶさは満身創痍で地球に戻ってくるんだけど、はやぶさをテレビで見ながら、「がんばれ! 寂しくないか? 寒くないか?」って(笑)。
──はやぶさに「寒くないか?」(笑)。
セイジ:そう。ただの機械にだよ! 機械に対して応援してる気持ちを感じた時に、将来、人間はロボットとも恋愛や結婚ができるかもって。今まで俺もバイクとかギターとかには愛着を持ってたけど、はやぶさはそれを一段上に持ちあげた。人間はモノを愛することができる段階まで行けるなって。はやぶさでそれが証明されたなって。最後、朝方、はやぶさが地球に突入してビューって光になった時、涙出たもんね(笑)。
──うん。それは偏愛的なことではなく、人間はもっと愛を持つことができるっていう…。
セイジ:そう。もっともっと愛を持つことができる、もっともっと愛を持ってるはずって確信したんだ。まぁ、はやぶさのことは忘れてたけど(笑)。
──「アウストラロピテクススパーク」にも、アウストラロピテクスへの愛を感じます(笑)。そこから「バッテラ惑星」の流れが凄く良くて。太古から宇宙、アウストラロピテクスがそのまま宇宙に行って、でもそこは大阪だった(笑)。
セイジ:その曲は単にツアー中、大阪でライブの前日、俺、飲んだ後は異常にバッテラを食いたくなる習性があって(笑)。それで歩きまわったんだけどバッテラがなくて。マジかよ! って(笑)。
──これも街の曲ですもんね。ホントの街だか架空な街だか、わけわかんないスケール感(笑)。で、音がいいんですよ。ホントにズシズシグイグイ彷徨ってる感じで。今回、エンジニアは?
セイジ:南石(聡巳)くん。
──あ、前作『ティラノザウルス四畳半』に続き。でもまた音が違う感じがしました。
セイジ:曲の雰囲気が音を左右するとこはあるからね。
──破壊力のある音だけど、言い方が難しいけどボワンというかドカンというか。アナログ感があるような。
セイジ:アナログ感は目指してます。ホントはアナログで録りたいぐらい。
──ストリートのリアリティを感じて。
セイジ:おお、そうですか!
──次はイントロのギターでグッと泣かせるマイナー調の「パリのスケバン」。
セイジ:パリが好きなんです。孤独な、でもなんか威厳のある、そういう人たちがいて。いるような気がして。日本人で頑張ってる女の子たちもいて。パリで気合入れて頑張ってて、寒いし、日本に帰ればいいのにって(笑)。そういう女の人たちがいる雰囲気をパリに感じて。モデルの人はいるんだけど。スケバンだったかどうかは知らないけど。長いスカート穿いてたかどうかは。
──パリに一人でいる孤独な女性かもしれないけど、でもビシっと立ってる感じがカッコイイ。
セイジ:そうそう。そういう感じ。ビシッと。辛いとか寂しいとかじゃなく、もう、固めてるっていうか。実際、カッコイイ人だよ。