なぜこんなにワーカホリックなのか?
──本作はカバーが2曲収録されていて、トゥーツ&ザ・メイタルズの「PRESSURE DROP」は納得の選曲なのですが、CCR〈クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル〉の「BAD MOON RISING」というのがとても意外だったんですよね。土の匂いのする泥くさいロックがコルツと全く結びつかなくて。
KOZZY:ああ、そう? CCRは昔からすごく好きなんだよ。いわゆる王道のアメリカン・ロックなんだけど、すごく音楽性に幅があるんだよね。
TOMMY:CCRは僕も好き。あんな演奏をしろって言われたらできないけどね。
KOZZY:シンプルにやることだけやるみたいな音楽の典型だよね。もうちょっと何かやったほうがいいんじゃない? と心配になるくらいのシンプルさだから(笑)。
──アメリカ南部のスワンプっぽい感じをCCRのカバーで出したかったと?
KOZZY:昔はドクター・ジョンの曲もやってたし、アメリカ南部っぽい感じの曲、それもめちゃくちゃ良くもないけど悪くもない曲っていうのを探している時にCCRの「BAD MOON RISING」を思いついてさ。ただ、あれは何とも言えない曲でね。多分チューニングを変えて、ヘンなキーでやってる異様なサウンドなんだよ。でもそれも歌詞を読んで納得した。“BAD MOON RISING”=「悪い月が昇る」ってことなんだけど、「地震が起きて雷が落ちる」とか「嵐が吹き 終末は近い」「川の氾濫は恐ろしい」とか、まさに今の日本で起きているようなことが唄われているわけ。それを表現するために、ああいう痒い所に全然届かないもっさりとした演奏なんだなと思って(笑)。カラッとしてないって言うか、最後まで救いがないって言うかさ。だから僕もチューニングを半音下げてちょっと気持ち悪い音にして、そうなると他の楽器も全体的に気だるいサウンドになるんだよね。
──徹底して明るい「PRESSURE DROP」と対照的にするのを狙ったんですね。
KOZZY:「PRESSURE DROP」はクラッシュのカバーも有名だし、抑圧されていたジャマイカの人たちが支配層に対して「今に報いが来るぞ」と言ってのけるプロテスト・ソングだけど、曲調が陽気で楽しいから救いがあるよね。だから一昨日の野音でも雰囲気が合うと思ってやることにしたんだよ。
──今年はマックショウの『GET DOWN THE MACKSHOW』の制作もあり、ラヴェンダーズの『Luv-Enders' Explosion!』のプロデュースもあり、KOZZY MACK名義の『HIROSHIMA SONGS』の急遽発売もありましたよね。それに加えてコルツの『MORE BASTARD!』の制作まであって、岩川さんはなぜここまでワーカホリックなんでしょう?
KOZZY:川戸が「こういうのを作ってください」といろいろ言ってくるせいかな(笑)。
TOMMY:悪魔のように働かせるスタッフがいるからね(笑)。
KOZZY:まぁでも、いろんな要素が絡んでるんだよね。夏に地元の広島が豪雨による土砂災害に見舞われて、何か力になりたいってことで『HIROSHIMA SONGS』を作ったんだけど、それもあり物の曲ではなくアコースティックでちゃんと録り直してさ。そのせいでラヴェンダーズの作業がちょっと遅れてしまったんだけど、出すからにはちゃんとしたものを作りたいんだよ。そうこうしているうちにモッズとのスプリット・ツアーが始まるってことで、野音の時点でコルツのアルバムがないとダメだなと思ってね。それで頑張って『MORE BASTARD!』を作ったわけ。できればスプリット・ツアーが始まるまでに間に合わせたかったけど、今回はスケジュール的に無理だった。何でもギリギリじゃないとやらない形を変えたいとは思ってるんだけどさ。
TOMMY:スイッチが入ると作業はすごく早いんだけどね。
KOZZY:何が早いって、歌詞を書くのが早いから。
──岩川さんの行動力と神田さんの適応力が上手く噛み合っているのもあるんでしょうね。
TOMMY:岩川が煮詰まっていても、こっちはずっと見届けることしかできないんだよ。どう出てくるかな? と思いつつ、いつでも準備できるようにはしてるんだけど。岩川は曲を作り始めたら早いし、その早さに付いていけなくなる時があるんだよね。
KOZZY:あまりの仕事量に自分でもおそれおののくことがあるけど、曲はまぁ書けちゃうんだよ。何とか手繰り寄せるような感じでね。「TRAIN IS COMING」なら、向こうから列車がやって来て、それに乗り込んで憧れのメンフィスまで行くみたいなストーリーかな? とかさ。「OLD HABITS DIE HARD」みたいな曲は、寝て起きたらできてたくらいの感じだしね(笑)。
スタジオの帰り際に曲のアイディアがひらめく
──夢の中で「YESTERDAY」を作ったポール・マッカートニーの域じゃないですか(笑)。
KOZZY:全然そんなことないし、曲作りの途中で続きがなかなか出てこないことも多いんだよ。
TOMMY:帰り際に突然ひらめくことが多いよね。
KOZZY:前は朝までスタジオに籠っていたけど、最近は夜中の2時くらいで終わらせることが多くてね。もう帰ろうとしてスタジオのレコーディング機材の電源を全部落として、コントロール・ルームに戻ってから急にひらめいたりするんだよ。それでiPhoneでアコギを録音するんだけど、だったら機材の電源を落とさなきゃいいじゃんっていうさ(笑)。
TOMMY:帰る間際に「神田、こんな感じはどう?」って訊かれて「いいね」って言うと、次の日にはもうできてるからすごいよ。
KOZZY:機材の電源を落とした瞬間に素直になるんだろうね。霧が晴れたようにフレーズが出てくることがあるから。それまでは歌詞や曲を書いている以外にも演奏とかエンジニア的なこととかいろんな作業をしているし、電源を落とした瞬間に違うモードになるんじゃないかな。今回はそんなふうにできた曲が多いね。「IT'S TIME TO GO」もそんな感じ。1日の作業を終えて、コントロール・ルームでキーボードの多田(三洋)君と喋っていたらパッとひらめいた。みんながもう帰る時間にね。
TOMMY:多田君がいきなりウーリッツァーを弾き始めてね。岩川が「これ録っちゃおう」とか言ってて。
KOZZY:そのウーリッツァーの音がCDにそのまま入ってるんだよね。しかも録ったのはiPhoneだったんだけど(笑)。
──サーカスを思わせる鍵盤の音色ですね。
KOZZY:メンバーがみんな帰る支度をして、ああ、帰らなきゃいけないんだと思ったら急にあのウーリッツァーの音が頭に浮かんでさ。メンバーが帰るのは別に寂しいわけじゃないし、むしろ嬉しいくらいんだけど(笑)、ソングライターとしての回路が働いちゃったんだね。ライブが終わりがけの頃にお客さんが帰るのを寂しく感じるくらいの1日だったらいいなとか、そんな歌詞にしたかったから。
──ソングライターとしての岩川さんが最もコルツらしいポイントだと感じているのはどんな部分なんですか。
KOZZY:たとえばノリが良くてみんなで一緒に唄えるって部分は、今のコルツではあまり考えてないかもしれない。マックショウも一緒に唄える曲を作ろうなんて発想は毛頭なくて、あれはお客さんが勝手に唄ってるだけだから(笑)。もちろん唄ってくれるのは嬉しいことだし、それだけいい歌ってことだと思うんだけど、そこは別に狙ってるわけじゃない。何と言うか、いろんなことがあってもみんなが和気藹々とやっていることを表現するのがコルツの曲では大前提だね。それと、「IT'S TIME TO GO」でサーカスの画が浮かんでくるように、聴いてる人が画が見えるような曲にすること。コルツの場合、そういう世界感がない曲は迷わずボツにしてる。それ以前の大前提として、僕の中ではとにかくいい曲、いい歌を唄えてる曲じゃないと絶対にダメっていうのがある。まぁ、コルツで演奏すれば自ずといい感じの曲になるのはわかってるんだけどさ。
──コルツには和気藹々としたファミリー感もありますしね。
KOZZY:そうだね。ドラムのイサオ・サタケはここ2作で正式に入ったんだけど、すでに馴染み具合が半端じゃないんだよ。もともと僕らのファンでどんな曲でも知ってるし、僕がデモで簡単に叩いているドラムを分析して僕のやりたいことを理解できるわけ。同じ広島出身で小間使い歴が長いのもあるんだろうけど(笑)、彼が今のコルツに貢献している部分は大きいね。