「あきらめんな」は自分に向けて唄っている
──とかくそういうセルフカバーに目が行きがちですけど、今回は「HEY YOU BASTARD!」を筆頭に7曲の新曲のクオリティがずば抜けていますね。
TOMMY:新曲が良くなければアルバムは出したくなかったからね。前回の『BASTARD!』の新曲が僕は個人的にすごく好きで、あの感じをもっと突き詰めたかった。オリジナル曲に関しては『BASTARD!』と『MORE BASTARD!』の2枚でひとつの作品として捉えてもらえると嬉しい。
── 一昨日の野音でも披露された「DOG DAY AFTERNOON」の出来がとにかく素晴らしいんですよね。無条件に踊れるコルツらしいノリの良いナンバーでありながら、聴き手の背中を押すような歌詞がまたすごく良くて。「捨て身の若さだけが売り物だった」若者が大人になって八方塞がりになるものの、「捨て身の若さなんか 過去にくれてやれ」とあきらめずに前を向いていくという。
KOZZY:まぁ、老いからは逃れられないからね。ロックは若い世代のものだし、歳を取ってやるもんじゃないとは思うけど、コルツはもともと大人っぽい音楽を目指していたから今のほうが身の丈に合っていると言うか、わりと自由にやれているんだよね。昔はこんなふうにやりたかったんだろうな、っていうのがセルフカバーをしてみるとわかるし。だからと言って腰を据えて本物のブルースをやるとかでもないんだよ。そこまでの実力もないしさ(笑)。
──「DOG DAY AFTERNOON」というタイトルは、アル・パチーノが実在の銀行強盗犯を演じた同名映画(邦題『狼たちの午後』、1975年公開)からインスパイアされたんですか。
KOZZY:うん。スプリット・ツアーに合わせてモッズとコラボ・シングル(『汚れた顔の天使達』)を作ったんだけど、森山さんが作ってきたのが「汚れた顔の天使達」と「俺達に明日はない」というどちらも映画のタイトルを使った曲でね(『汚れた顔の天使』は1938年公開のギャング映画、『俺たちに明日はない』は1967年公開の犯罪映画)。じゃあこっちも映画っぽいのにするかと思って「DOG DAY AFTERNOON」を作ったんだけど、けっこういいのができちゃってさ。コルツの新作の軸として持っていける曲だと思ったので、『MORE BASTARD!』のほうに入れることにした。モッズとのコラボ・シングルには「Down By Law」(『ダウン・バイ・ロー』、1986年公開のジム・ジャームッシュ監督作品)という曲を入れてね。
──岩川さん自身も手応えがあったからこそ「DOG DAY AFTERNOON」は配信先行シングルとして発売されたんですよね?
KOZZY:そうだね。久々にコルツらしくできた曲だなと思って。
──曲間の「Come On! Fight On!」という英語のセリフは森山さんが担当されていますね。
KOZZY:曲に合うようなメッセージを森山さんに入れてほしくて、考えてもらってね。もちろんリスナーに対してのメッセージではあるんだけど、コルツのメンバーに対して頑張れっていうメッセージでもあると勝手に思ってる。森山さんとはいまギャング・バスカーズというバスキング・ユニットをやってるし、僕のソロ・アルバム(『MIDNITE MELODIES』)でも「ワンパイントの夢」という曲を森山さんに一緒に唄ってもらったんだけど、同じミュージシャンとして良い相乗効果を生んだものを残したいんだよね。「DOG DAY AFTERNOON」で森山さんにセリフを吹き込んでもらったのもその延長線上にあると言うか。
──「ワンパイントの夢」は「DOG DAY AFTERNOON」と同じく聴き手を鼓舞させる曲でしたね。
KOZZY:世界観は近いね。でも「あきらめんな」とか「駆け抜けろ」といった誰かを奮い立たせるような歌詞は自分に向けて唄ってるんだよ。一昨日の野音でもあの雨の中でこれ以上頑張れないかなと思ったしね(笑)。
マニアックな音楽をやるのが生き残る手段だった
──野音のオープニングSEとして使われていた「HEY YOU BASTARD!」もコルツらしさが全開で、アルバムのオープニングに相応しい賑やかな曲ですね。
KOZZY:コルツのアルバムはオープニングをインストにすることが多かったし、「HEY YOU BASTARD!」も最初はインストとして作ったんだよね。でも途中から歌を入れたほうがいいかなと思ってさ。
──「ロザリオ」は岩川さんのソロでも似合いそうなマリアッチ・テイストのナンバーですが、コルツとソロの線引きみたいなものはあるんですか。
KOZZY:今はもうほとんどないね。コルツの曲はもちろんコルツのメンバーと一緒に演奏するのを前提に作るんだけど、マックショウでも自分のソロでもいっぱい曲を作っているので、もうどれでもいいかなって感じだね(笑)。ソロでやっているホーン・セクションの入った曲はコルツでもできるしさ。
──疾走感溢れる曲ももちろんいいのですが、「SPANISH WALKING」や「OLD HABITS DIE HARD」のようにゆったりと朗らかに聴かせるミッド・テンポの曲も今のコルツにはしっくりくるように思えますね。
KOZZY:そうかもね。昔はその手の曲をやりたくても四苦八苦したもんだよ。頭の中にあっても体にないって言うのかな。
──いくら背伸びしても届かないみたいな。
KOZZY:うん。昔はロック・スピリットと合わさっていい感じでできていたかもしれないけど、今はいい意味で力を抜いてそういう曲を伸び伸びとやれる。
──「TRAIN IS COMING」のようなカントリー色の強い曲も今の身の丈に合った良さが出ていますね。
KOZZY:要はそれなりの説得力があるんだろうね。若いから説得力がないってわけじゃないけど、やりたい曲と年齢が徐々に合ってくるんだと思う。
TOMMY:昔のコルツはガチャガチャと勢いに任せて突っ走る感じだったけど、今回はゆったりした曲のほうが個人的にはいいなと思った。あまり速い曲だとやりづらく感じたし、脳がついていかないみたいな(笑)。それが歳を取ったってことなのかな? とも感じるけど、別に悪いことじゃないと思うし。だからゆったりめの曲のほうが演奏していて楽しかったね。逆に「天国と地獄」とかは速くて付いていけなくて、地獄だけだったから(笑)。
──“HELL or HEAVEN”じゃなくて“HELL and HELL”だったと(笑)。だけどいま思うと早熟ですよね、「MAMMA MIA」みたいなチャールストン調の曲を20代でやるなんて。
KOZZY:自分でもなぜあんな曲調をやろうと思ったのかよく覚えてないんだけど、ポーグスやマノ・ネグラのライブを観たことが影響しているのかと言えば、そこまで関係があるとは思えないんだよね。当時の自分は、いわゆるロックというカテゴライズじゃない音楽であれば何でも良かったのかもしれない。ブルース、レゲエ、スカ、ロカビリーといった『ロンドン・コーリング』の日本盤の帯に書かれているようなロック以外のジャンルをいろいろやってみたかったんだろうね。当時はそういうのを試行錯誤するアーティストが他にもいっぱいいたと思うんだけど、僕が彼らと決定的に違ったのは、とにかく歌が中心にある演奏を心がけていたことだね。
──ブルースやスカを極めようと求道的になるのではなく、いろんなジャンルをごった煮にしながらポピュラリティを兼ね備えた音楽を志向したわけですね。
KOZZY:コルツを結成した90年代の初頭は、スカをやるにも「何それ?」って言われたし、スカ自体が非常にマニアックなジャンルだったんだよ。スカパラが一般的に認知されるまではそんな感じだったんじゃないかな。当時の僕はそういうマニアックなジャンルのどれが自分にフィットするのかいろいろ試してみたかったし、コルツとしてマニアックな音楽をやるのがスカーフェイスで生き残っていくための手段でもあった。モッズという確固たる地位を築いた王道のバンドがいる一方で、自分には何ができるんだろう? と模索していた時期だったね。だから一緒にやるメンバーにも各自が好きな音楽はひとまず置いとかせて、コルツが志向する音楽を優先させたんだよ。
──先に着てみたいスーツを作っておいて、後からそれに体型を合わせる感じと言うか。
KOZZY:まさにそんな感じ。平たく言えば格好だけ(笑)。コルツはその格好の部分を徹底して突き詰めたところがある。それは音楽に限らず、衣装とかのヴィジュアル面に関してもね。だからバンド単位ではなく洋服屋さんとか音楽以外の部分に精通した仲間を含めた母体がコルツなんだよ。その母体があってマックショウがあるし、僕のソロ・ワークスもあるわけ。