新宿ロフトは福岡時代から敷居が高くて誰でも立てる場所じゃないイメージがあった
——11月18日の新宿ロフトでの、『名なしのワンマン』は、7月のシェルター2Daysで新曲も発表しはじめたこともあり、ここから新しいスパルタが始まっていく気概も込めた日になりそうですね。
安部:それもあります。でも、それとは別に、シェルターも新宿ロフトもスパルタからしたらめちゃめちゃ意味のある場所で。これは特にアナウンスはしてませんが、スパルタは今年結成20周年なんです。間に活動休止や解散、メンバーチェンジ等があったんで実質20年間の活動はしていませんが、気持ちの中ではそのアニバーサリーライヴの意味合いも含んでいて。その中でシェルターで新曲を演り、たぶんロフトでも演るでしょうが、その新曲を通して現状のスパルタの新しい形が表現出来たら、それはそれで面白いかなって。
——ノスタルジーのみならず現行の自分たちを魅せるゾと。
安部:でも自分は再結成した時点で、ノスタルジーからは逃れられないと覚悟していて。よくそれを悪い文脈で語る方もいるけど、そのノスタルジーに浸ること自体は、特に悪いこととも思ってないんです。音楽が持っている機能の一つじゃないですか。僕はそこも含めて音楽の素晴らしさだと考えていて。なので、全然ノスタルジーに浸ってもらってかまわない。むしろノスタルジーに浸れるぐらいの力がうちらの楽曲にあるのであれば、それは最高なことですから。
——先ほど、「シェルターと新宿ロフトはめちゃめちゃ意味のある場所」とおっしゃってましたが?
安部:僕らが九州から東京のロフトやシェルターに演りに来ることには、何か特別な意味があったんです。敷居も高かったし一つのステイタスでもあった。演れることに誇りを感じていて。なにせ憧れの場所でしたからね。eastern youthやfOUL、北海道のバンドたちやキウイロール等が演っていた場所としても憧れがあったし。その辺りと自分的な20周年の感情とがつながってのことですね。
——実際、当時、何か想い出すものってありますか?
安部:イヤな想い出しかないですよ(笑)。ロフトのドブみたいな匂いとか(笑)。あと、やはり色々な意味で怖い場所の印象が強いですね。福岡から初めて来た時の歌舞伎町の雰囲気…。当時、自家用車で福岡から来たんですよ(笑)。そんな中テレビでしか見たことのない歌舞伎町…。人殺しや事件も頻繁に起こってるイメージがあって。ヒビりながら、着くなり、「早く帰りてぇわ」となってました。でも、実際に立てた時は嬉しかったですね。福岡時代から敷居が高くて、誰でも立てる場所じゃないイメージがあったし。ダサかったら出来ない、そんな印象を持ってたんで。誰でも出られないステージが故に、なんか認められた気がして。実際に最初にステージに立てた時の、あの緊張感は忘れられないですね。
新曲は今までのスパルタであるようでいてスパルタじゃないものばかり
——11月18日、当日はどんなライヴにしたいですか?
安部:こういった質問にこれまでまともに答えられたことがなくて(笑)。人がライヴでどんな気持ちになろうが、受け止めようが、そういったことには一切興味がないんです。僕にとってライヴって自分ごとでそこに参加はしてるけど、どこか自分ごとじゃないというか。
——ほう。
安部:自分が全部コントロールしている感覚があまりないんです。と言うのも、僕はライヴを理性的にやっていて。体調が悪い時には、「早く終わんねぇかな…」と思いながら演ってたり、調子がいい時は、「楽しいな」って思ったり。どこか俯瞰的な自分が居て。でも、その俯瞰の部分が一瞬なくなる時があるんです。ほんの5秒とか10秒だろうけど、それがスパルタでは起きやすくて。そこはスパルタでの自分の魅力の一つかもしれません。その瞬間をお客さんが見た時に、「コウセイっぽい」と称するんでしょう。
——それは自身的には恍惚的な瞬間だったり?
安部:いや、自傷的な感じです。感覚的には自殺に近いかも。他殺じゃない感じ。でも、その後は凄く気持ちがリフレッシュするんです。生まれ変わるようなそんな爽やかさがあって。
——それを求めてライヴを演ってたり?
安部:いや、求めてないっす。スパルタに関してこれは勝手に起こる現象みたいなもんなんで。求めてはいないけど、仮にそれが無かったらスパルタはやってないかも。そこまで行けるのがある種の自分たちで言う暴力な気がしていて。それは、殴るとか物質的じゃない暴力とでもいうか。音楽が盛り上がって盛り上がって結晶化して、自分の精神に影響されて獣のような暴力性を手に入れるようなものなので。
——まるでデビルマンの第一話みたいですね。
安部:まさしくデビルマンっす。それになった時には、いいか悪いかは別にして自分の中では印象に残ってるライヴが多い。以前も友達が観に来た際に、シェルターの天井をなめている瞬間があって。その時の自分の目が、「どこかこちら側の人間じゃない目をしていたけど、あれはどういった感覚だったの?」とライヴ後に訊かれたことがあって。で、その時を振り返った際に、あれはきっと音楽というものが自分の気持ちをそちら側にそちら側に、いわゆるデビルマン側に押し上げていったんだろうなと行き当たったんです。
——なるほど。是非、11月18日の新宿ロフトでもそれを観たいです。では最後に今後のスパルタについて教えて下さい。
安部:日々、曲作りはしていて。新曲も何曲かは出来てます。それらはやはり今までのスパルタであるようでいて、スパルタじゃないタイプのものばかりで。作品になった時に、ちゃんと体力も冷静さも兼ね備えたものなるかなと。スパルタはこれまで盤になると途端に弱くなっちゃう印象があって。ライヴはいいけどそれを作品化しちゃうと…みたいな。その熱量やエモさがスポイルされがちだったんです。これまではそれを、「気合が足りないからだ」と他のメンバーのせいにしてましたけど(笑)、それって思いっきり間違えていたことに気づいて(笑)。あれから年月も経ち、それを防ぐ為の方法論も分かってきましたからね。
——それは?
安部:僕の作曲の段階でのやり方や、作品化までの過程が原因だったことに今になって分かったんです。その辺りも反映された作品になるかなと。ようやく頭でイメージしたものと、そうズレないものが作れそうなので、その辺りも含め楽しみにしていて欲しいです。
(Rooftop2018年11月号)