ex.四人囃子の森園勝敏(g)、パール兄弟の窪田晴男(g)、ex.ウエストロード・ブルースバンドの松本照夫(ds)、A〈アー〉の大西真(b)、セッション・プレイヤーやプロデュースで活躍している石井為人(key)、ex.M-BANDの故・岩田浩史(g)、そして金子マリ(vo)からなるMari Kaneko Presents 5th Element Willが、ex.ソー・バッド・レビューの北京一(vo, mime)をフィーチャリングした渾身の2ndアルバム『Mari Kaneko Presents 5th Element Will featuring Kyoichi Kita Ⅱ』をリリースした。百戦錬磨の巧者揃いのバンドだけに、ブルースやソウルを分母に置いた精緻かつ丹精なロックを心ゆくまで堪能できる逸品であり、オリジナル・メンバーである岩田が遺した躍然たるプレイと真っ直ぐな佇まいが音と映像で収録されているのもドキュメントとして価値が高い。まるで音の女神に導かれたかのようにドラマティックな道程を経て完成したこの5thの新作について、日本を代表する名ボーカリストとして50年近く現役を貫く"下北のジャニス"こと金子マリに訊きつつ、彼女が演者として常連だった70年代のロフト黎明期についても訊いてみた。(interview:椎名宗之)
「風は吹かない」は「風に吹かれて」へのオマージュ
──今回の5th Element Willの新作は、2013年に逝去した岩田浩史さんを弔いたいという思いから制作されたものなんですか。
金子:理由はそればかりじゃないんだけど、新しく入った窪田(晴男)くんがいろいろと意欲的でね。新曲も揃ってきたし、そろそろアルバムを出しましょうよってことで。私はライブをやれていれば満足だから、アルバムは誰かが動いてくれないと出すのが及び腰なんです。5thもかれこれもう13年くらいやってるけど、4年前に最初のアルバムを出したきりでね。私のソロ作(『B-ethics』『金子な理由』)も同じメンバーでつくったけど、バンド名義のアルバムは今回で2作目。レコードを出して売ろうとか著作権がどうのとかいう発想には昔からどうも無頓着なのね。ロックをお茶の間に持ち込んだCharとかサザンオールスターズ、その前のティン・パン・アレー系の大先輩とかハイソ組はそのへんしっかりしてるけど、私は何せ内田裕也さんチームの不良組なので(笑)。不良組のいちばん年下がスモーキー・メディスンだったから。
──収録曲の選定や制作の進行も窪田さん主導だったんですか。
金子:そこは全員で、できるままにやってみたというか。キーボードの石井(為人)くんが「こういう曲をやってみたい」とか、ドラムの松本(照夫)さんと北(京一)さんがコンビを組んでつくってみたりとか。アレンジの核となったのはやっぱりギターの森園(勝敏)くんですね。その森園くんが6年前に脳卒中で倒れて、翌年に岩田くんが亡くなって、メインのギターがいなくて困ったんですよ。そこで白羽の矢が立ったのが窪田くんで、彼がどういうギターを弾くのか実はよく知らなかったんです。でも窪田くんは森園くんの高校の後輩だし、これは絶対に断れないだろうと思って(笑)。案の定、連絡したら「ぜひやらせていただきます!」ってことでね。
──窪田さんといえばビブラトーンズやパール兄弟のイメージが強いので、5thのようなバンドでブルースを弾きまくるのが意外でした。
金子:そうでしょ? でももう4年くらい5thでやってすっかり馴染んでるし、彼は勉強熱心なんですよ。最初はブルースのCDを何枚か持ってきて、「どの感じで弾けばいいですか?」なんて言ってたけどね(笑)。
──その窪田さんが作詞・作曲を担った「風は吹かない」は本作を象徴するスケールの大きなナンバーですね。ボブ・ディランの「風に吹かれて」(Blowin' in the Wind)へのオマージュとして書かれたということで。
金子:私は「風に吹かれて」育ってきた世代なので、「風は吹かない」なんて切ないことは言いたくないと最初は思ったの(笑)。だけど窪田くんがぜひ唄ってくれってことでね。今の時代、子どもたちの夢は公務員だったりYouTuberだったりするわけでしょ? いろいろと窮屈なことが多くて住みにくい世の中。それでも「子どもたちよ、歩き続けなさい」というメッセージを送るポジティブな歌なのね。
──「風に吹かれて」へのオマージュだけど、曲調は「Like A Rolling Stone」を思わせるグルーヴィーさがありますね。
金子:そうですね。それとジャニス・ジョプリンの「Piece Of My Heart」っぽいところもある。窪田くんは「風に吹かれて」のアンサー・ソングだと言ってたけど、今回カバーした「A Change Is Gonna Come」も「風に吹かれて」のアンサー・ソングなんですよね。
特異さが際立つ北京一の存在感
──叙情的で幽玄な世界を醸し出している「月の魔法」もマリさんの歌と心の機微に触れる演奏をじっくりと堪能できますね。
金子:曲自体はいいんだけど、私にもうちょっと歌唱力があればね。歌詞を書いた片岡たまきっていうのはずっと(忌野)清志郎さんのスタッフで、私のマネージャーもやってくれてね。ちょうど「月の魔法」をレコーディングしてた時に私がずっと姉妹みたいに接してきた亀渕友香さんが亡くなってしまって、彼女に捧げた曲にはできたと思う。
──マリさんと亀渕さんといえば、桑名正博さんの「セクシャルバイオレットNo.1」でコラースを務めたことでも知られていますよね。
金子:私と亀渕さんと大空はるみさんの3人でLOVEっていうボーカル・グループをやっててね。コーラスの仕事はいろいろやりましたよ。草刈正雄さんのデビュー・アルバムだってやったんだから。鈴木邦彦さんが作曲で、スタジオで草刈さんがなぜかものすごく怒ってて、私たちにキツく当たるわけ。で、亀渕さんと大空さんが「あんなにイジメることはない!」って言い出して、「私たちはもうコーラスをやりません!」って仕事を放棄して帰りそうになったこともあったね(笑)。
──北京一さんの特異な存在が5thをブルースやソウルを奏でるただの熟練バンドではない、ユニークで懐の深いバンドにしていると思うのですが、本作でも北さんの飄々としたキャラクターが作品に彩りを与えていますね。
金子:あの人は上田正樹&サウス・トゥ・サウスが西部講堂でライブをやった時に講堂の屋根に勝手によじ登ったりする奇特な人だったし、そういう変わったキャラクターとしてバンドに入ってもらったんだけど、気がつけば歌の練習を一生懸命するようになってね(笑)。
──「Stand Alone」のようにクールでスタイリッシュな雰囲気の曲でも、北さんのボーカルは笑っているように聞こえるおかしみがあるんですよね。全盛期の植木等さんみたいな底抜けに明るい華やかさもあって。
金子:北さんはソー・バッド・レビューのボーカルもやってたけど、元は漫才師だし、パントマイムの世界では日本で第一人者ですからね。「Stand Alone」も本人はすごく格好つけてるつもりかもしれないけど、そうは問屋が卸さない(笑)。ヘンな言い方だけど、彼はあまり上手く唄わなくていいんです。何も「Spicy Morning」を30テイク以上唄わなくてもいい(笑)。すでに存在感が際立っているんだから。
──そんな北さんのボーカルがマリさんとは対照的で、とても良いバランスのように思えますが。
金子:そうだと思う。彼は5thにいなくてはならないメンバーですから。それは全員がそうなんだけどね。
──歌にOKを出すジャッジはマリさんなり北さんがするんでしょうけど、演奏のジャッジは誰が見極めているんですか。
金子:ディレクター的な立場の人は特にいないんですよ。オケはだいたいテイク2で終わるんだけどね。みんな長く音楽をやってるからそんなに時間はかからない。
──皆さん百戦錬磨の技巧者揃いでイヤミなくらい演奏はお上手ですけど、ただ上手い演奏ができればいいというものでもないじゃないですか。だからOKジャッジをくだすポイントはどこにあるのかなと思って。たとえば上手くやりすぎずにフィーリングを重視するとか。
金子:フィーリングなんて言ったらぶっ飛ばしちゃうぞ、って感じかな(笑)。ボーカルは自分の感情を入れたらおしまいですからね。5thはリハーサルで森園くんがアレンジを細かくやってくれるし、レコーディングはそれに沿ってやればたいていみんなが納得するオケをつくれるんです。