Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー加納秀人【外道】(Rooftop2018年1月号)

あと200年くらい生きないと出したい音に追いつかない!
日本のロックの先駆者として今なお研鑽を積む「外道」のフロントマンが音楽活動50周年を記念してソロ名義の集大成的作品を発表!

2018.01.04

僕みたいなギターを弾けるのは世界で僕しかいない

──アルバムの話に戻りますが、これだけ多種多様な楽曲が入り混じっても不思議と統一感があるのは、どの曲もパッと聴いてすぐに加納さんのギターだとわかる音色だからかもしれませんね。

加納:そうですね。僕みたいなギターを弾けるのは世界で僕しかいないみたいですから。それはよく言われます。外国のバンドと仕事をしても、僕のことを知ってるとかむかしからファンだったとか言ってくれる人が多いんですよね。日本のプロのギタリストはジェフ・ベックとかジミー・ペイジのコピーをしてきたとかファン意識のある人が多いけど、僕がギターを始めたころにデビューしたジミ・ヘンドリックスにしたって「そのうちいつか一緒に演奏する機会があるかもな」くらいに思ってたし、僕が最初のバンドをつくったときにデビューしたレッド・ツェッペリンだって「イヤなバンドが出てきたな、そのうちライバルになるかもな」なんて思ってたんです。そんな考え方をしていたので、ジェフ・ベックと共演したときも「おまえにはおまえの音があるし、俺には俺の音がある」という対等の意識でした。僕にはそもそもファン意識なんてものがなかったし、『クラシックロックジャム』というイベントでむかしのロックのカバーをやっても原曲を知らないのは僕だけでした(笑)。

──ご自身の肩書きはギタリストという認識なんですか。

加納:僕はこの世界に入ってからずっとギタリストという認識でいたんですけど、3、4年前に「加納さんはボーカリストだよ」って言われたことがあるんですよ。それにすごく驚いてね。でも考えてみれば、出してきたアルバムではほとんど僕が唄ってるんです。インストのアルバムもあるけど、自分で唄ってるのがほとんどですからね。で、そうか、俺はボーカリストだったんだなと思って(笑)。それからはちゃんと歌を唄うことにしたんですよ。それまでは歌のテイクの悪いのをわざわざ選んだりしてたんです。ギターもあんまりいいテイクだとバンドのバランスが悪いってことで、ちょっと良くないテイクをあえて選んでた。そういうのを平気でやってきたんです。本当にいいギターの音を聴きたければライブにおいで、ってことでね。さっきも言ったように、もともと僕はレコーディングには無関心で、上から降りてきたすごい音を出して相手の魂と細胞に訴えかけることに勝負を賭けてるので、細かいことはあまり気にしてないんですよ。

──今回のアルバムにもインストが3曲収録されていますが、歌を唄わなくてもギターが雄弁に唄っている、とても歌心のあるインストですね。

加納:インストも基本は一発録りなんですよね。ほとんど二度は弾かない。インストでもちゃんとメロディがある曲があって、リハの段階でメンバーにコードを伝えるんだけど、「どんな曲なんですか?」と訊かれても弾いてみないと自分でもわからないんですよ。録る段階になって、せーの!で弾き出すとメロディが出てくるんです。それで聴き直してコピーしてみないと自分でもわからないんですよね。何をどんなふうに聴くのか自分でもわからない。

──そうる透さんと松本慎二さんの順応力と柔軟性が高いんですね(笑)。

加納:そうそう。レコーディングでもリハーサルはしないし、ほとんどぶっつけ本番ですからね。歌とギターを同時にやらないと自分でもわからないから、とにかくせーの!で三人で合わせてみないとだめなんです。でも今回のアルバムは打ち込みが基本だから、聴こえてきたイメージをそのまま弾いて唄うだけで良かったんですよね。ただ逆に言うと、今回のアルバムを聴いてもらえれば、外道のドラムとベースのフレーズも僕の生み出したイメージだったことがわかってもらえると思うんです。むかし、まだ目が良かったころは延々とフレーズを書き込んだドラムの譜面を透に渡して「ぜんぶこの通りに叩いてくれる?」って指定してたんですよ。透はそれを一度で覚えて完璧に叩いてくれましたけどね。

──機械的な打ち込みだからこそ肉感的なギターの音色が際立つ側面もありますよね。

加納:そうなんです。打ち込みだからこそ人間的な味が出るように弾く。あと、今回はアンプを使ってないんですよ。ぜんぶギターのラインの音なんです。だから僕の手もとであんな音が鳴ってるわけです。アンプシミュレーターも使ってません。エフェクター一個だけ通した完全な生音なんですよ。

──今回のアルバムには興味深いカバーが2曲収録される……はずだったのが、そのうちの一曲、ローリング・ストーンズの「OUT OF TIME」が急遽収録不可になってしまったそうですね。

加納:僕が16歳のとき、30分のステージを一日に10回やってたんですよ。そのときにこんな曲をやってたなぁ…と唯一思い出したのが「OUT OF TIME」だったんです。一緒にコーラスを唄ってた記憶があったので。当時のことを思い出せる曲があってもいいかなと思って入れようとしたんだけど、あえなくボツになりました。普段やらないことをやると、こんなことになるのかもしれませんね(笑)。

 

これだけ好き勝手に生きてこれたことに感謝

──加納さんの日本語詞もユニークだったので残念ですね。もう一つのカバー曲、サッチモの「What a Wonderful World」(この素晴らしき世界)はむかしからお気に入りの曲だったんですか。

加納:以前、ジョニー吉長とフクシンと一緒にJFKというバンドをやってたんです。そのときジョニー吉長に「おまえ、この曲いいから唄ったほうがいいよ」って無理やり唄わせたんですよ。あいつに唄わせたんだから、僕も責任を取って唄っておこうと思ったんです。50年間の道のりの一部を残しておきたい気持ちもあったし。曲の終盤で自分らしいスライド・ギターも入れてみたし、普通のカバーとは違うニュアンスも出せていいかなと思って。ただ、「What a Wonderful World」を唄うとみんな死んじゃうから入れるのを迷ったんですけど(笑)。ジョーイ・ラモーンも亡くなる数カ月前にレコーディングしてましたからね。

──こうしてソロの集大成的作品を一枚つくり終えて、ご自身の活動を見つめ直す良い機会になったのではないですか。

加納:自分の曲について言えることがあるとすれば、無理やりつくることができないんですよね。ふとした瞬間に曲が聴こえてくるんです。でも聴こえてきたら、そこからは早いですよ。詞も曲も書くのが早い。聴こえてきたものをどうやって表現するかだけなので。だからよくイタコって言われますけど、本当にそんな状態なんです。そもそも僕は他のミュージシャンとは目指してるものがぜんぜん違って、ヒット曲を出したいとか、みんなから注目を浴びたいとか、やりたいのはそういうことじゃないんですよ。自分の聴こえたものをいかに表現するかだけなので、そういう意味では他の人と比べて産みの苦しみがないぶんラクですよね。

加納秀人 外道⑥(長崎美生).jpg──加納さんの書く詞には「勇気」という言葉がよく使われていますよね。

加納:僕はものすごく前向きな性格なんです。何事も悪いふうには一切考えないし、すべてハッピーなことにしか捉えない。イヤなことがあっても、これはきっと何か意味のあることなんだと良い方向に考えるタイプなので、僕の曲を聴いて気持ちが暗くなるようにはしたくないんです。

──「ねむれない」という曲を書いても前向きなんですね(笑)。

加納:そうそう(笑)。眠りにつけなくても「今日も 今も ありがとう!」と感謝する。

──ただ音楽が好きだから表現に向かうのではなく、天から降りてくるものを音楽にしていくわけだから、加納さんは触媒みたいなものなんですね。

加納:そう、本当にそれっきゃないんです。音楽で名を売って有名になりたいとか金儲けをしたいとか、スタートの時点からそういうのはまったく関係がないんですね。中学生のころはオリンピックに出たくてマラソンを一生懸命がんばってたんだけど、ギターも練習しなくちゃいけないし、それでギターを弾きながら走り込みの練習をしてたんですよ。音楽が自分の仕事だとそのころから思ってたから。なんでかは知りませんけどね(笑)。でもその結果、世界でいちばん早く動けるギタリストになっちゃった。別に策があったわけじゃないんですよ。気がついたらそうなってた。その連続なんです。

──今回のアルバムタイトルはストレートに『Thank You』と命名されていますが、50年間の音楽人生でいちばん表したいのはリスナーや関係者に対する感謝の気持ちですか。

加納:やっぱり感謝しかないですね。僕の音楽を聴いてくれるファンの方、業界の人、特に僕を支えてくれている家族や友達に対して感謝の気持ちしかない。自分一人だけでは到底やってこれなかったし、僕は本当に好き勝手生きてきましたからね。みなさんの支えがなければここまで歩いてこれなかったですよ。日本でもおそらく僕くらいじゃないですか? こんなにいろんなことを好きなだけやってきて、まだこの先もやれる人は。普通は世のなかから抹殺されますよね(笑)。神様に怒られるか、世のなかに怒られるか。いずれにせよ消されますよ(笑)。だけどありがたいことにいまもずっと音楽をやらせてもらえている。それはもう感謝しかないですよね。

──ライブはいまだに楽しいものですか。

加納:自分にとっては生きてることの一部ですからね。ライブがなければ「連れてかれちまうぜ?」ですよ(笑)。「もうおまえの役目は終わった」ってね。僕はね、30歳くらいになったらそういうお迎えが来るのかなとずっと思ってたんです。うちの親父がよく言ってたんですよ。「おまえは身体が弱いから30くらいまでしか生きられないからな」って。たしかに僕は喘息持ちで年じゅう入院してたし、身体が弱かったんですね。そんな親父の言葉を真に受けてたものだから、自分の好き勝手なことを精一杯やろうと10代のころから思ってたんですよ。ただただ好き勝手なことをやり続けて、気がついたら30歳の倍以上生きちゃったんだけど(笑)。でも、こうしてまだ元気にやれてるうちは好きなことをやり続けたいし、ある日突然お迎えが来ても困らないように毎日毎日を大事にしてますよ。ただ、まわりにはよく言ってますけどね。「その日が突然来たら俺の音は聴けなくなるからね。俺が生きてるうちに聴きに来なきゃだめだよ」って。こんなにすごい音を出せるのは世界で僕しかいませんから。角松敏生でもROLLYでもBOWWOWの山本恭司でもB'zの松本孝弘でも、僕に影響を受けてミュージシャンになったヤツは日本じゅうにいっぱいいるけど、僕みたいな音を出せるのは僕しかいないし、自分の目標はまだ達成できてないんです。50年経っても達成できてない。

──やっぱりあと200年くらい生きないとだめですか(笑)。

加納:台風を止めるだけのエネルギー、戦争を止めるだけのエネルギーの音を出すにはあと100年、200年かかると思ってますからね。それくらい強いエネルギーの音をブワーッと鳴らしたいんですよ。それが僕の出したい音の目標なんです。モテたいとかヒット曲を出したいとか、そういう次元の話じゃない。ほとんど金にはならないけど(笑)、次の世代へ残せていける音はある。たいへんな使命ですけど、こればかりは世界で僕にしかやれないことだから、これからもずっと精進していきますよ。

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Thank You
〜Hideto Kanoh 50th Anniversary〜

2018年1月17日(水)発売
TECH-30521 / 定価:¥2,778+税

【収録曲】
01. 虹の彼方から
02. 連れてかれちまうぜ?
03. 新たなる孤独への出発
04. 淋しすぎる夜
05. メロディ
06. ONE MORE CHANCE
07. CITY IN THE BLACK
08. 大草原
09. 大いなる愛
10. ねむれない
11. D3
12. What a Wonderful World
13. 長い旅〜そして君に乾杯
14. 明日に向かって

LIVE INFOライブ情報

加納秀人音楽生活50周年記念&外道結成45周年記念
ソロ・アルバム『Thank You』レコ発ライブ

2月3日(土)柏thumb Up
2月4日(日)北浦和エアーズ
2月15日(木)原宿クロコダイル
2月17日(土)佐野バーken
2月18日(日)西千葉ZX
3月16日(金)名古屋バレンタインドライブ
3月17日(土)滋賀ココザホール
3月18日(日)四日市ガリバー
3月19日(月)神戸チキンジョージ
3月21日(水・祝)大阪JUZA
3月25日(日)いわきクイーン

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