"団地"というニッチなテーマであらゆるジャンルの団地が出る作品を勝手に切り込んでいく団地団。阿佐ヶ谷の地下でひっそりと自由に不定期で行われている飲み会が、いまや団地の第一人者に!? メンバーがそれぞれ違った目線で多角的に切り込むトークが評判を呼び、団地といえば団地団という地位にまで...。今夏は多摩映画祭をジャック!! 気が付けば観覧者もメンバーに続々加わり、更なる広がりを見せるこの不思議な団体。本人たちも制御不能、制御する気がない大人の悪乗りで自由に楽しんでいくメンバーに今の思いを語っていただきました。[interview:柏木 聡(Asagaya/Loft A)]
ビギナーの貴方に
団地団とは2010年12月、新宿ロフトプラスワンのトークイベントで結成。現在は、Asagaya/Loft Aを中心に各所でトークイベントを開催。
メンバーが、それぞれの立場から、映画、マンガ、アニメなどに登場する団地について深く考察して大放談を繰り広げ、毎回大好評を博しています。
話題は団地の美観や構造に対する偏愛にとどまらず、団地登場作品の演出論から大衆文化論、果ては都市論や郊外論にまで飛び火。知恵熱必至の知的エンタテインメントです。
【団地団メンバー】
佐藤大(脚本家)/大山顕(写真家)/速水健朗(ライター)/今井哲也(漫画家)/久保寺健彦(作家)/山内マリコ(作家)/稲田豊史(編集・ライター)/うめ・妹尾朝子(漫画家)
佐藤大(脚本家)
映画の楽しみ方は人それぞれ。役者や監督から楽しむこともあれば、物語自体や特撮などの作り方から興行成績まで裏から楽しむこともある。時代背景や社会との関わり、食べ物や衣装、音楽から歴史を知ることも出来る。そして、撮影の舞台となった土地や映った建物から語ることも。例えば、「団地」からでも。そう。誰もが知っているけれど、思い入れを語る者の少ない存在だった団地です。国内外、時代を問わず団地の登場する映画を様々な角度から比較することで見えてくる何かを語る、そんな異色のトークイベントとして新宿ロフトプラスではじまった僕らの活動は、今年で七年目。「いつか団地映画祭をやりたい」。それは結成された当時からの見果てぬ夢でした。そんな僕らの夢が叶います。多摩映画祭のみなさんに感謝しかありません。上映作品は「家族ゲーム」! 森田芳光監督の代表作であり、主演の松田優作さんにとってアクション俳優から転機となった作品。ですが、僕らは舞台となった湾岸の高層団地を愛でることからはじめます。七年目を迎える僕等の原点回帰に相応しい作品と共に映画祭を楽しみたいです。
大山顕(写真家)
2010年にロフトプラスワンで結成された団地団。ロフトならではのフリーダムをいいことに、好き勝手に(社会通念上許されるであろうと独自の判断に基づいて)映像の一部を引用しまくって論評を重ねてきました。いつか怒られるんじゃないかと思ってたら、あにはからんや阪本順治監督、是枝裕和監督とのトークなんていう恐れ多いことも実現し、配給会社さんからのご依頼をたびたびいただくなど、すっかりいっぱしの評論家集団風情ですよ。びっくり。で、今回は極めつけとも言える映画祭への参画。スクリーンで上映すべき名団地映画をリクエストしました。それが「家族ゲーム」。もちろんトークショーもやります。楽しみ。でもなあ、なんかこう、個人的にはむずむずしちゃう。もっと怒られるようなことをしなきゃいけないのではないか。ロフト出身のチームがこんなに世間に認められてはいけない気がする。
速水健朗(ライター)
ついに念願の団地団が企画する映画祭が実現します。選びに選んだうえで上映する作品は『家族ゲーム』とあいなりました。この映画の見どころは、背景に映り込んでいる1983年当時の湾岸・東雲の姿です。ススキの原っぱがあって運河の向こうにはガスタンクが見えている。遠景でえんえん子どもが子どもをいじめている風景。どれをとっても昭和の光景です。再開発前の湾岸にはほんとうに何もなくて、都市化が進んでいた都心部から切り離された場所だったことがわかります。
その中に建つ団地でどんな物語が展開されるのか。実は原作の小説に湾岸は登場しません。映画化の際に変更された重要なポイントは、湾岸というロケ地のチョイスでした。そして、もうひとつ当時の社会的にセンセーションだった金蔵バット殴打事件も映画に反映されています。映画を観た上で、僕ら団地団と対話ができたらなと思います。ぜひ当日お会いしましょう。
山内マリコ(作家)
遠い昔、『家族ゲーム』はたしかレンタルビデオで観たはずなのですが、正直に告白するとほとんど憶えていません。目玉焼き……という暗号のみ、記憶の彼方にあるばかりです。だから今回フィルム上映でこの映画を再見できるのが、本当に本当にうれしい! そのフィルムには、撮影時の東京の風景やリアル80年代の生活感を、大量に発見できることでしょう。名作の誉れ高い作品ですが、年月を経たことで熟成され、ほとんど記憶遺産の域に到達しているのでは、という期待をもって、のぞみたいと思います。上映後のトークでは、おしゃべりな若いおじさんたちが興奮気味に熱く語らうこと必至で、わたしなんぞはひとっことも口を挟む余地なんてないかと思います。なので、せめてものにぎやかしに由紀さおりのコスプレで行こうかなと思います。気が向いたら!
稲田豊史(編集・ライター)
忘れもしない2011年2月20日。速水さんに誘われて足を運んだ新宿ロフトが団地団との出会いです。メンバーは大山総裁、大さん、速水さんの3人。トークイベント終了後、気がつけば登壇席に駆け寄り「このトーク、うちで本にさせてください!」と申し出ていた自分がいました。それから6年半。本が出版され、拠点を阿佐ヶ谷ロフトAに移し、僕は出版社を辞めて裏方から団員にめでたく昇格。強力なメンバーが次々増員されていきました。しかしイベントを重ねるごとに、団地にとどまらない知的脱線カルチャートークは無軌道を極め、「えっと、我々って何の団体だっけ?」となりかけていたのも事実。それが2017年、ついに原点回帰! 我々のホームグランドである「団地映画」に帰って参りました! 今回は『家族ゲーム』がフィルムで見られるのも感涙モノですが、第二部の「シークレットライブ」では映画祭で絶対やっちゃいけないことをやっちゃう所存。我らが団地団の辞書に「アウェイ」という文字がないことを、その目でしかと確認してください!
うめ・妹尾朝子(漫画家)
「妹尾さんは団地エリートですね」
脚本家の佐藤大さんと初めてお会いした時に言われた言葉です。団地エリート? なんですかそれ?
聞けば団地から団地へ引っ越した経験がある人を指す言葉とか。そう、私は幼少時代から20代半ばで自活するまで、人生の半分を団地で過ごした団地っ子。しかしその事実は私にとってどちらかといえば隠しておきたいコンプレックスであって、決して賞賛されるような経歴ではありません。それなのに団地を愛でる団地団なる団体が存在し、あまつさえ団地エリートなどという称号をいただくとは!
これがきっかけでイベントに客として顔を出すようになり、映画や小説、漫画やアニメといった様々なコンテンツを、団地に注目して語るという、未知の体験にすっかり脳みそをかきまわされ、阿佐ヶ谷ロフトに通いつめたあげく、気づけば団員に。
青いグラスのメガネをかけて周りを見渡せば、世界が青く染まってみえるように、団地というメガネをかけてコンテンツを見直すと、いままでとまるで違う世界が見えてくる。そんな奇妙な体験をぜひ味わってください。
竹内昇(多摩映画祭実行委員長)
団地団との出逢いは今年2月、特別上映会で『アスファルト』上映のゲスト登壇をして頂いた時でした。特別上映会とはTAMA映画祭の若手監督発掘コンペ、TAMA NEW WAVEの賞金をひねり出す上映会です。観客を呼べる作品とゲストが第1条件。フランスの少しガタが来ている団地を舞台の、3組の出逢いの物語。さてゲストは誰にするかで探しに探して団地団に行き着きました。上映当日、佐藤大さんと速水健朗さんのトークの面白いこと面白いこと。無尽蔵の引き出し、意表を突く切り口の鋭さ。即、年末のTAMA映画祭に出てもらおうと決めました。団地団のメンバーに一押しの映画を好き放題に語ってもらおう。映画祭1番に提出した企画でした。それからのメンバーとの打ち合わせの楽しかったこと、楽しかったこと。さてロフト前昼祭、一気に盛り上げ、本祭へとなだれ込みます。すんなり行かなかった上映作品選び等々、TAMA映画祭の紹介とともに、怒涛のピンボールトークをお楽しみください。
Tシャツ
団員自身による「作りたい!欲しい!」という気持ちが暴走した結果、多摩映画祭登壇メンバーのイラストをあしらったTシャツを作ってしまいました!色バリエは7色(多っ!)、それぞれクルーネックとレディースの2タイプを取り揃え。白3000円、その他は3400円(税別・送料込み)イラストbyうめ・妹尾朝子さん、団地団ロゴデザインby大山総裁。団地団イベント参加時、団地家族訪問時、団地撮影時、団地映画鑑賞時などにぜひ!
(イラスト:うめ・妹尾朝子)