SOSITEとかくら美慧名義のソロでも活動中のミサト、eastern youth脱退後はPANICSMILE、uIIIn、ソロ弾き語りのトンカツ(子ども時代のあだ名に由来)など多岐にわたり活躍している二宮友和が「ミサトとトンカツ」として初のコラボレーション作品『ふたりの行方』を発表する。
どこか郷愁的なムードで瑞々しく透明感の溢れる歌を可憐に聴かせるミサト、琴線に触れるようにつま弾かれるアコギと塩辛い歌声で味わい深さを醸し出す二宮のセンスが見事に溶け合った本作は、それぞれの新曲、お互いに書き下ろした提供曲、お互いのカバー曲、バンド形式の共作共演曲を収録した趣向を凝らした構成で、単なる企画盤とは一線も二線も画した実に意欲的な作品だ。二人の傑出したソングライティング能力や類い稀な表現力はさることながら、特筆すべきはその純真な歌心である。圧倒的な歌唱力でもとうてい太刀打ちできない、心の機微をそのままむきだしにしたような二人の純朴な歌と余韻が何よりの魅力だ。これだけ良質な作品を生み落とした「ふたりの行方」やいかに。ミサトと二宮に聞く。(interview:椎名宗之)
盲腸、痛風、夏バテの三重苦に苛まれて
──今回の共演前はお互いにどんな印象を抱いていましたか。
トンカツ:ミサトちゃんはこのままの素朴なイメージでしたね。SOSITEみたいに激しくてパワフルな音楽をやってるんだけども、ああいう音楽をやる人らしからぬ素朴さがあるっていう。
ミサト:二宮さんはすごくギャップのある方というイメージがあって、eastern youthのベーシストだった時は鬼みたいな表情というか、キリッとした顔でダイナミックなベースを弾いていた印象があるんですけど、ステージを降りてお酒を呑んでる時はとても朗らかなんですよね。ソロで弾き語りをされる時もステージでは和やかで、いろんな顔を持ってる方だなと思ってました。
──ライブでも何度か共演していましたっけ?
ミサト:私のソロのレコ発ライブ(2015年7月3日、下北沢THREE)にトンカツとして出ていただいたんですけど、それ以外の共演はなかったんですよね。
トンカツ:もちろん前から知ってましたけど、一緒にライブをやったのは一回きりなんです。
──そんな接点がありそうでなかった両者を結びつけて、リリースの話を持ちかけたのは…。
ミサト:SECRETA TRADESさんです。とても意外な話だったんですけど、私にとって二宮さんは尊敬する大先輩なので「ぜひに!」と飛びつきました(笑)。
トンカツ:俺もすごく面白そうな企画だなと思って。普通に自分の作品を出すよりもいろいろと面白いことをやりたいと考えてたタイミングだったし、ミサトちゃんと一緒っていうのもありそうでないから面白いなと思ったんです。
──単純な企画盤かと思いきや、それぞれの新曲、お互いへの提供曲、お互いのレパートリーのカバー曲、バンド編成の共演曲と、とても趣向を凝らした内容になっていますね。
ミサト:そういう内容もSECRETA TRADESのスタッフを交えて話し合ったんです。
トンカツ:最初は何曲入れるか決めてなくて、オリジナルは入れつつ、楽曲を書き下ろしで提供するくらいまでは本格的な打ち合わせの前から決めてあったんです。一緒にやる曲とか、内容を細かく決めたのはみんなで話し合って以降ですね。
──『FOLLOW UP』に連載中の人気コラム『果樹園残酷物語』によると、二宮さんは盲腸と痛風と夏バテに悩まされながら何とか完成に漕ぎ着けたそうですが(笑)。
トンカツ:たいへん過酷な状況でした(笑)。発売のスケジュールもちょっと延ばしてもらうことになりまして。
ミサト:録りのスケジュールも若干延びたんですよね。
トンカツ:まぁ、結果的にはじっくり取り組めたので良かったですけどね。
──『極東最前線2』に収録されたfOULの「Decade」や射守矢雄と平松学の「yuyake koyake」など、二宮さんの録音とミックスには定評がありますが、今回はどんな音作りにしようと気を留めたんですか。
トンカツ:そのままを録る感じですね。ミサトちゃんとは声量も声質も違うので自分の曲ではちょっと機材を選びましたけど、基本的には二人ともギターの弾き語りなので、シンプルに録ることに徹しました。
言葉をなくすような出来事が起きても腹は減る
──せっかくの機会なので全曲について伺いたいのですが、まず1曲目。ミサトさんの新曲「ユアシャドウ」はメロウでアンニュイな雰囲気が漂うラブソングですが、ギターの弾き語りかと思えばシンセサイザーを全面に配した曲で、いきなり意表を突かれますね。
ミサト:鍵盤で録音するのは今回が初めてでした。鍵盤自体は、むかしエレクトーンをやってたんですけど、バンドでやることは一切なかったんです。メロディを先に作ってみたらシンセが合う曲かなと思ったんですね。ギターも当初、入れるか入れないか二宮さんに相談したんですけど、結果的にシンセと二宮さんのベースとリズムトラックだけで成立するかなと判断しまして。
──二宮さんのベースがとても雄弁なので、二宮さんが唄っているわけではないものの、二人のデュエットのようにも聴こえますね。
ミサト:二宮さんのベースに抑揚をつけていただいたところはありますね。私の歌を活かしてくれたというか。
トンカツ:あのベースも最初はどう弾こうかなと思ってたんですけど、家であれこれ試していたらきっかけをつかめて、それからバーッとフレーズが浮かびましたね。曲の世界観がはっきりとあったし、歌が良かったので。
──だけど悲しい歌ですよね。帰りの切符を手にしていたのは「私」だけなんですから。
ミサト:カラオケのイメージ映像を自分なりに膨らませて書いた歌詞なんですよ(笑)。曲調が80年代っぽいと言われるんですけど、自分としては今井美樹さんとか古内東子さんとか、90年代前半の女性ボーカリストの曲をイメージしたところがあるんです。
──それに対して、二宮さんの新曲「それでも私は日々腹を満たして」は、「あれから もう2年が経ちまして」とeastern youth脱退から今日に至る心情がつれづれなるままに唄われたもので。
トンカツ:eastern youthだけじゃなく、並行してやってたひょうたんも解散して、ライフワークとしてバンドがずっとあった生活からポンと一人になったところから2年が経ったということなんです。
──シンプルにアコギと歌、口笛だけで切々と唄って、何とも言えぬ哀愁を呼び覚ます名曲だと思うのですが、メロディも歌詞もスムーズにできたんですか。
トンカツ:わりとスラーッと詞も曲もできた感じでしたね。このアルバムのために用意したわけじゃなくて、弾き語り向けにそれまで書きためていた曲のひとつなんですけど。
──「言葉を無くすような出来事がやきとりのように連なっても/作業的なテンポでむしゃむしゃ食べる」という歌詞がすごく二宮さんっぽいですね。重苦しいこともおかしみのある言い回しと飄々とした歌声で軽やかに聴かせていて。でもだからこそ物悲しさを感じるところもあるんですけど。
トンカツ:いろんな出来事が身のまわりで起こっても自分にはどうにもできないし、それでも腹は減るっていうか。最初は詞のアクセントとして食べ物をひとつくらい出そうと思っていて、そんなに多く出すつもりはなかったんですけど、醤油ラーメンとかやきとりとかイカとか、どういうわけかあんな感じになっちゃいましたね(笑)。
気持ち悪さをねらった二宮の「女生徒」
──互いのレパートリーのカバーについてですが、ミサトさんはひょうたん屈指の名曲「宇宙の傍らで」をカバーしていますね。
ミサト:大好きな曲だったので、これしかないと思って。自分節みたいなものはあまり考えずに、原曲に忠実に唄いました。最終的に本家本元の二宮さんがミックスで宇宙のような広がりを出してくださいましたね。ギターもわりとそのまま弾いてみたんですけど、それにかなり色をつけてくださった感じがあります。
トンカツ:ミックスも基本的に録ったギターの良さ、歌の良さをそのまま活かしたんですよ。味つけもちょっとリバーブをかけるとか、デジタル・ノイズを足したりする程度で。
──ご自身の曲がカバーされたのを聴いてみて、いかがでしたか。
トンカツ:ミサトちゃんの声で唄うと、こんなにも透明感のある歌になるんだなぁと。素直にいいなと思いましたね。
──二宮さんはミサトさんのソロの代表曲「女生徒」をカバーしていますが、やはりこれしかないと?
トンカツ:そうでもなくて、実は別の曲をやろうとしていて、でもちょっと違うなってことになったんです。「女生徒」はむしろやりたくなかったんですよ(笑)。それは曲がどうこうってことじゃなく、アルバム(『女生徒』)のタイトル曲を思いきりやるよりも、もうちょっとグッとくる感じの曲にしたかったので。でも「女生徒」を聴いていたらリズムが大きくゆったりとした感じに聴こえたというか、ソウルフルな感じに聴こえるところがあって、あ、これはいいかもなと思って。
──この「女生徒」だけ二宮さんは唄い方を変えて、ミサトさんのオリジナルに寄せていますよね。
トンカツ:歌メロはほぼ完コピっぽいちゅうか、まぁ、カバーですから(笑)。
ミサト:でも新鮮でしたよ。二宮さんが唄うとこんな感じになるんだと思って。すごくいいカバーですよね。
──ミドルエイジの男性が唄ってもこれだけ瑞々しく聴こえるのは原曲の力ですかね。
トンカツ:瑞々しく聴こえました? 俺は気持ち悪さをねらったんですけど(笑)。気持ち悪さをねちっこくやろうかなと思って。
ミサト:そうだったんですか?(笑) そういえば、トンカツの曲で「女生徒」の対になるような「先生」っていう曲がありますよね。
トンカツ:ありますね。弾き語りでやってます。「先生」と同じく「女生徒」もライブでやってみたいですけど、やるならリズムトラックも入れてやりたいですね。
──あのどこか無機質でぶっきらぼうなリズムトラックもいい味つけになっていますよね。最後にブツッと切れて終わるのもいいし。
トンカツ:最後に長く引っ張らずに終わるのがいいと思って。バーッと広がってフッと終わるようにねらいました。