お返しできるものは歌しかない
──ここ7年ほどソロの作品は発表されていませんが、それはバンド活動が充実していることの証なのでは?
吉野:ソロ・アルバムを作るのになかなか余裕がないんですよね。ライブはいくらでもできるんですけど。またずいぶんとやかましい環境の所へ越してしまったものだから、家で録音するのがけっこう難しいんですよ。外の音をマイクが拾っちゃったりしてね。そういういろいろとめんどくさいことがあってなかなか次のアルバムを作れないんですけど、生きていくために何かつくらないと生業にならんとは思ってます。まぁ、それも順繰り順繰りですかね。ここ数年はバンドのメンバーが変わったりして、特に余裕がなかったんですよ。ソロの作品もちゃんと集中しないと形にならないので。
──2年前の二宮さんの脱退は、8年前に吉野さんが心筋梗塞で倒れて以来のピンチだったと思うのですが、メンバーが変わってもこうして長く聴き継いでいきたいアルバムをしっかりと生み出したわけですから、どっこい土俵際で踏ん張って盛り返す底力がまだまだあるということですよね。
吉野:まぁ、生きてりゃどうにかやるしかないですからね。死んでしまえばそれまでですけど、生きてるんだったらどうにかこうにか生きていくしかないですよね。どう生きていきたいのかといえば、こんなふうに生きていきたいわけですよ。だから、なんとか、どうにか、生きていく。その繰り返しなだけで、先の展望もないですし、ねらいとかもないんですよね。
──では、来年の結成30周年のヴィジョンも今のところ特にありませんか。
吉野:何も考えてないですね。ライブのスタッフ一同が「せっかくそういう節目なんだから何かやったほうがいい」って言ってくれるんですけど、自分としてはそんなにめでたいとは思ってないんですよ。
──20周年の時は『極東最前線2』と2枚のベスト・アルバムをリリースして、11本の全国巡業がありましたけど、たしかにご本人たちは周年企画に積極的ではなかった記憶があります(笑)。
吉野:自分の誕生日を祝ってくれって人にふれて回るみたいで恥ずかしいっていうのもありますね。地道に生きてきたら30年経っちゃいましたよ、みんなだってそうだよね? っていうだけでいいんじゃねぇのかなって個人的には思ってますけど。ああ、そうなんだ、そんなに時間が経っちゃったんだ、みたいな感じで。まぁ、せっかくだから何かやるかもしれないけど、これから考えます。
──今回のアルバムはお世辞でも何でもなく掛け値なしの名盤なので、アルバムの頭から最後まで順繰りにやるだけでも充分ライブが成立すると思うのですが。
吉野:なるべくたくさんやろうと思ってます。ひとつのショーで10曲ぜんぶやりたいとも思うんですよ。アルバムのツアーでもぜんぶの曲をやれないことのほうが多かったですし。曲数を増やしてでも全曲やったほうがいいのかなと思ってはいるんですけど、準備はまだこれからです。
──新曲の数々を生で聴けるのが楽しみです。村岡さんが加入して以降の『極東最前線』ではファンが狂喜乱舞する人気曲やレア曲が惜しげもなく披露されていて、それももちろん嬉しいのですが、そろそろ今の3人でつくりあげたまっさらな歌を聴いてみたいと思っていたので。
吉野:昔の曲でもすんなりやれちゃうんですよ。気持ちの上で、なんかひとつフレッシュな気持ちになったというか、ドアが開いたみたいなところがあるのかもしれないです。村岡さんはどの曲をやったって最初から練習しなきゃいけないわけだから、「じゃああの曲をやってみっか、最近やってねぇけど」って実際にやってみると、「いいねぇ」ってことになる。どうせ一からやり直さなきゃいけないので、じゃあやってみるかっていういい機会だったんだと思いますよ。それに、過去の歌でも今の歌として唄えるんです。今の歌として唄ってみてぜんぜん気持ちが入らないようならやりませんけど、古い歌を引っ張り出してきてアレンジを変えないで唄っても、今の気持ちを込めて唄うことができるもんだなぁって自分でも思ってますけどね。
──先ほど歌詞をつくるには引き算をしていくという話がありましたが、活動のありかたもまたどんどん引き算になっているのかもしれませんね。削ぎ落とすことで合理性を求めるというより、やるべきことがいよいよ明確に見定まってきたというか。
吉野:なるべく余分なものはなくして、ムダのないようにやりたいですね。そんなに需要のあるバンドじゃないので、ホントに切り詰めてやっていかないと生きていけないんです。ただ、俺は他に潰しの利く人間じゃないし、音楽で飯を食うなんて不遜な考えだなんて言う人もいますけど、俺はもうこうやって生きていくしか他に道がないんですよ。他で働きようがないですもん。今まで何度もトライしてきましたけど、一度も役に立ったことがないですし。だからもうこれで生きていくしかないと肚をくくってるんです。これでダメなら死ぬしかないと思ってますよ。
──でも、ぼくも含めてイースタンユースの歌に助けられた人はたくさんいるだろうし、吉野さんは常に生存の実感を歌にすることで社会と関わっていますよね。
吉野:ホントにこんな歌でいいんですか? と思ってますけど、しょうがないですよね。自分にできるのはこういうことしかないし、ここまで来たらみなさんの情けにすがって生きていこうかなと。お返しできるものは歌しかないですし。そうやってソフトにソフトにカツアゲしていこうかなと思ってますよ(笑)。
ライブ写真:平川啓子